PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 Aspherical SE
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
ソニーEマウント向けの大口径MF単焦点レンズ「Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 Aspherical SE」のレビューお届けします。レンズ構成はVMマウントの「NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III」をベースとしながら、Eマウント専用とすべく電子接点付マウントを装備し、Exif情報が得られるのはもちろん、歪曲や色収差に対するレンズ補正機能や手振れ補正機能にも対応。大口径レンズでのシビアなフォーカス操作時に大変重宝するピント拡大機能も存分に活用できます。フォクトレンダーのレンズの魅力でもあるヘリコイドユニットは総金属製。高精度な加工が施されているのはもちろん、心地よいフォーカシングが可能な高品質グリースも使用されており、操作フィーリングや精度は流石のものです。両面非球面レンズを2枚採用し、大口径ながら全長59.9mm、重量387gというコンパクトさ。F1.2という望外の明るさにより、大きくボリューミーなボケを添えられることは容易に想像できますし、ソニーEマウントボディユーザーの方々が本レンズを手にする理由も、このF1.2というスペックにあると思います。というわけで開放付近の作例を多めに用意しましたので、さっそくご覧いただきましょう。
( Photography & Text : KIMURAX )
明るいレンズで逆光だなんて、試写とはいえかなりの無茶振り。しかも入り組んだ枝葉をフレームするなんて、相当の悪意があるのではないのかと思われても仕方がないですね(笑)。さすがに開放F1.2ではオーバー気味だったので、半段絞ってのF1.4ではいい塩梅に収まってくれました。悪目立ちするようなゴーストは見受けられず、しかも枝にフリンジがほとんどと言っていいほどに感じられないではないですか。軸上色収差であれば絞りでコントロールできますが、倍率色収差はレンズにとっては少々厄介。その曲者を見事に封じ込めてくれるのがαボディのレンズ補正機能です。カメラボディと協調すれば、こんなにも条件の厳しいシーンもさらっと描き込めるのですから、なかなかのポテンシャルを感じてしまうレンズです。
絞り開放、最短撮影距離30cmでの撮影です。ピントピークの解像感は十分ありながらも、ほんのりと柔らかさが同居する写り。ボケの発生はなだらかです。少々ごちゃごちゃした被写体がボケると、どことなくぐるぐるボケの趣が漂っているように感じるから不思議ですね。柔らかなボケ味の中にもクラシカルなテイストがちょっぴり見え隠れするところが、フォクトレンダーだなと感じさせてくれる瞬間です。
浮遊感が得られるF1.2の極浅深度は遊び甲斐があります。それに加えてこのボケ味ですからね。ところで、便利なAFレンズでも思い通りの所にフォーカスすれば同様のアウトプットを即座に得られるわけですが、カメラボディのピント拡大機能を活用しながらフォーカスリングで行ったり来たりするのも一興です。
フォーカスリングを2mにセットしてノーファインダーで数枚撮った中の一枚です。極薄のF1.2で臨む勇気は毛頭無くF1.4 で。とはいえそんな無茶ができるのもデジタルのおかげですがね。もっと絞り込んだ方がとは思ったものの結果オーライ。背中から肩口にかけて深度内に収まっておりました。拡大して確認すると黒いステッチはもちろん、赤い生地の織までしっかり解像しているではありませんか。デフォーカスの横断歩道との分離は言うまでもなく、すこぶる立体感です。
霜で覆われたヘッドライトとボディ。しっかり凍った前夜の雨滴は、陽の当たる時間になっても簡単には溶け出しません。その冷たさや、乾いた空気感までも伝わってくる描写ではないでしょうか。深度を稼ぐために絞っていますが、解像力はF1.4を超えるあたりからすでにピークに達する印象。シャドーもしっかり粘っていますね。
フォーカス面では丸みや曲線、金属の質感に至るまで忠実に再現しています。そこから連なるデフォーカスエリアでのボケの発生も自然です。
艶よし、色よし。いま、目の前にあるがのごとくのリアリティではないでしょうか。この記事を書いている間も、食欲が刺激されちゃうんですよね。深度内に収めようとF4まで絞りましたが、ポテトは最短撮影距離を割り込んでいたのでボケていますね。素直な前ボケです。開放付近の柔らかさを伴った描写から一転、絞り込んだ時のキレのある描写には目を見張るものがあります。
開放ですが画面周辺で像の流れはありません。カメラボディ側で周辺光量補正をONにしていますが、ご覧のように開放では解消されませんが軽減はされています。もし気になるようであればF2あたりまで絞れば治まりますし、後処理でも十分対応できるので何ら問題はないでしょう。
豊かなトーンで微妙な濃淡も忠実に再現しているのがわかります。
大口径レンズですから絞り開放では周辺の玉ボケに口径食が見られますが、縁取りが強く出ることはなさそうです。もし整えたければ、F1.8あたりまで絞るとよいでしょう。
広角の35mmレンズですから横位置でも伸びやかな画が得られますが、縦位置にするとより伸びやかさが感じられるから面白いですね。
表現力を活かしきる、この身軽さが心地よい。
F2.8は遥か、F1.8やF1.4が明るいレンズとして常用されることが多くなった昨今。F1.2という数字はキャラが立ったスペックであり、ある種の飛び道具的な香りすら漂います。さて、そんな開放値を有する「Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 Aspherical SE」の実際の写りをここまでご覧になられた印象はいかがでしたでしょうか。絞り開放から端正な像を結び、主役に寄り切ればどことなく柔らかさをたたえ、引けばピント面でのキレに驚かされてしまいました。そして期待通りのボリューミーなボケは、F1.2でしか描けない世界観を見せてくれるのですからファインダーを覗いているだけでゾクゾクしてしまいます。もちろん背景を自然に溶かしてはくれますが、何でもかんでも手当たり次第に溶かしてしまうという無粋な真似はしません。複雑で煩い背景を選ぶと、ちゃんとそのニュアンスをさりげなく残してくれるのです。そういった特性を把握して撮影に持ち出せば、主役を引き立てるだけではなく、画全体としての雰囲気をコントロールすることも可能になります。石像の作例カットはそんなことを意識したものです。そこに周辺減光が加勢してくれたことも功を奏していると思います。また、そんなシーンにスイスイとアクセスできるのは本レンズの身軽さがあってこそ。所有欲も満たしてくれる金属製の鏡胴ながらも387gにまとめられ、一日中つけっぱなしで身軽に動き回れます。F1.4あたりのレンズと比べても遜色ない重量とサイズ感ですし、カメラ側の補正機能との協調によって、これだけ安定した描写性能を発揮してくれるのですから、表現の幅、いや遊びの幅がきっと広がるはずです。全幅の信頼が置ける楽しめるレンズ、すでにお持ちですか?
( 2021.01.25 )
表現力に富んだF1.2の35mm。マニュアル式単焦点レンズというお作法を味わい尽くすにはもってこい。電子接点を有するEマウント向けなのでExifにも対応し、MF時の拡大表示もできる、すこぶる使い勝手です。
出番が多くなりそうな機動力のあるレンズだからこそ、前玉の保護はしっかりとお忘れなく。