PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
SONY RX1R III / SHOOTING REPORT vol.1 vol.2
ソニーのフルサイズセンサーを搭載したレンズフィックスカメラ「SONY RX1R III (RX1RM3)」の実写レビュー第2弾をお届けします。本機はフルサイズセンサーに大口径35mmレンズを組み合わせたミニマムなコンパクトカメラ。「最高画質を、てのひらに」というコンセプトはいかにもソニーらしいといったところで、2012年に登場した初代RX1以来変わることなく受け継がれています。2016年に登場した先代のRX1R IIでは、ポップアップ式EVFと42MPの高画素センサーを搭載し「RX1シリーズの完成形」ともいわれていましたが、以降新モデルの登場がないまま昨年には販売も終了し、RX1シリーズも終了かと思われていました。しかし、2025年7月に突如発表されたのが本機「RX1R III」。RX1からのコンセプトはそのままに、61MPのExmor R COMSセンサーと最新の映像エンジンBIONZ XR、そして固定式のEVFが採用され、バッテリーが大容量化。AFはもちろんのこと動作速度が高速化されました。特質すべきは、それだけのアップデートが施されながら、歴代モデルと遜色ないボディサイズにまとめられていること。昨今のデジタルカメラは動画対応等で大型化しつつある中、本機では厚みを抑えるためにディスプレイのチルト機構を廃するなど、スチル撮影をメインとするカメラとしてより先鋭化した印象です。しかもレンズは初代以来ユーザーの絶大な信頼と評価を得てきた「ZEISS Sonnar T* 35mm F2」レンズを本機でも採用。先代RX1R IIを長らく愛用してきた筆者としては、あの名レンズをより高い画質で使えるとなれば手を出さずにはいられません。運良く発売日に手にすることができ、旅に日常にと多くの写真を撮影してきました。
( Photography & Text : Naz )
先代RX1R IIの42MPでも不足のない画素数であると思っていましたが、最新のセンサーになったことで、階調はより豊かに、ダイナミックレンジも拡大されました。こちらの作例ではハイライトの機体に露出を合わせましたが、シャドウとなる人物のシルエットまで完全に潰れてしまうことなく描いてくれました。もちろん高感度性能も向上し、ISO 1600や3200はもちろんのこと、ISO 6400でも常用できるレベルに感じられます。ボディもレンズも大型化が避けられないこともあり、本機には手ブレ補正機構の搭載は見送られていますが、高画素ながらも高感度に強いセンサーとF2の明るいレンズがあれば不安に感じることはほとんどありません。
初代RX1から受け継がれてきたレンズは、AAレンズ(Advanced Aspherical)をはじめとする非球面レンズ3枚を含む7群8枚構成。開放からキレのいいピントと美しいボケ味がハイレベルに両立され、ツァイスらしいこってりした色再現も相まって、色気ある描写をする印象です。初代の登場が2012年ですから、設計は最新レンズと比べ古いものになるため、条件によっては色収差などのアラが目立つこともあります。ただ後処理で解決できますし、このレンズは「その手間をかけてでも使いたい」と思わせる魅力を持っているのもまた確か。こんな風に惚れ惚れするレンズはそうありません。なお本機では電子的な光学補正が行われており、補正後は主に歪曲収差と周辺減光が補正されています。Lightroomで読み込んだ場合も同様にプロファイルが適用されていますが、現像時にそれをOFFにすることが可能です。わずかな差ではありますが、個人的には補正前の画の方がより立体感のある(写真らしい)画に感じられ、歪曲が目立たないカットではこちらを選びたいと思うことがありました。このあたりは実際に確認の上、お好みで使い分けてみていただければと。
先代RX1R IIのポップアップ式から固定式へとアップデートされたEVFは、倍率こそ約0.74倍から約0.70倍へと小さくなりましたが、約240万ドットのOLEDパネルは同じものが採用されています。RX1R IIでは常時ポップアップしていたことを踏まえれば、本機の固定式EVFは、運用時のサイズが小さくなるだけでなく、可動部が減ることによる故障リスクも軽減され、見た目もスッキリしました。
ライバル機がよりワイドな28mmの画角を採用する中、RX1R IIIは35mmを採用。F2という大口径から生み出されるボケ量を積極的に表現へ活かすことができます。またデフォルトでC1ボタンに割り当てられたステップクロップ機能により、35/50/70mmの画角を自在に切替可能。これはクロップによるズームとなりますが、50mm時でもAPS-C相当となる27MPの情報量を得られますから、35mmと50mmを愛する方にはこれ以上ない選択肢を与えてくれていると思います。
全群繰り出し式のAFということもあり、昨今のインナーフォーカスを採用したレンズのようなAF速度を望むのは厳しく、先代のRX1R IIまでは撮り手の工夫でカバーしてきました。本機ではバッテリー容量のアップに加え、駆動電圧が上がったことによりAF速度も向上。撮り手の工夫はこれまで同様、キビキビとしたAF速度を活かした撮り方も選択可能となり、表現の幅を広げやすくなりました。また本機は静粛なレンズシャッターを採用しているため、静かな場でも躊躇なくシャッターを切ることができるのも嬉しいところです。
数値的な性能がどれだけ高くとも、写真を鑑賞するのは人間の眼。「クリアな写りだけがよい結果に結びつくわけではない」というのが本機で撮影した画像を見ると改めて感じさせられること。まさに「その場の空気が写る」といった雰囲気重視の写りにより、特別な場面はもちろんのこと、こんな日常の光景さえも特別なものであったかのように上質な1枚へと引き上げてくれます。これこそがRX1シリーズのカメラが持つ“マジック”といえるでしょう。
人物までの距離はフォーカスでいう無限遠相当となりますが、その先にある海面やビル等とはしっかりと分離され、立体感を十分に感じられます。また背景の細かな部分まで緻密に描き込まれ、画面全体がより高く再現されているようです。
バッテリーが大型化した本機でも、そのバッテリーとメモリーカードを含めた質量は498gと500gを割り込み、ライバル機を圧倒するコンパクトさはフルサイズセンサーのカメラとして“世界最小のフルサイズカメラ”という称号を初代RX1以来10年以上に渡り守り続けています。より多くのシーンに持ち出せる高い機動性は、撮影の時に取り回しがいいのはもちろんのこと、例えば撮影旅行でないような時でも「この大きさなら躊躇なく持ち出せる」という考えにも繋がるように思うのです。

極上のコンパクト
いかがでしょうか。発売当初の品薄も落ち着き、入手性もよくなってきました。初代RX1が登場したのはα7シリーズが誕生する1年前。以来「最高画質を、てのひらに」というコンセプトを3世代に渡り継承してきました。美しい描写とボケ味を両立させたツァイスレンズに最高スペックのセンサーを組み合わせることで手に入れた極上の写りは、センサーとレンズを高いレベルでマッチングさせたレンズフィックスだから成し得たもの。こんなデジタルカメラは他にありません。「RX1R III」はαシリーズと並ぶソニーのもうひとつのフラッグシップ。多くのデバイスで高性能化と小型化を実現させてきたソニーだからこそ生み出せた唯一無二のコンパクトカメラです。かけがえのない一瞬を上質に記録する、これ以上ない撮影体験を存分にお楽しみください。少々値は張りますが、決して期待を裏切らない「買ってよかった」と心の底から思える写真機です。
( 2025.11.07 )
最高画質をコンパクトなボディに詰め込みました。ソニーだからこそ生み出せた唯一無二のコンパクトカメラです。
バッテリーはだいぶ持つようになりましたが、予備がひとつあるだけで安心感は大違いです。
スリット型のスタイリッシュなフード。金属製で質感も良好です。
ボディ下部を保護するだけではなく、カメラをちょっと上品な佇まいに変えてくれるアイテムです。
片手でのホールド性が抜群によくなるサムグリップです。
高価なカメラです。背面ディスプレイもしっかりと保護を。
プロテクトフィルターとしても使えるUVフィルター。レンズに合わせてT*コーティングのものはいかがでしょうか。








