PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Nikon NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
ニコンZマウントのDXフォーマット(APS-C)用となるズームレンズ「NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR」のレビューをお届けします。本レンズは2年前、Z 50の発売時期に発表されたロードマップで明かされていたズーム比約7.8倍の高倍率ズームレンズ。既にキットズームレンズのZ DX 16-50mmと50-250mmという存在がありつつも、レンズ交換なしで広角から望遠まで対応できる本レンズの登場に首を長くしていた方も多いことでしょう。その期待に応えるかの如く、フルサイズ換算で27-210mm相当の画角をカバーしつつ全長は90mm、何と重さはたったの315gというサイズ感にまとめ上げてきました。光学系は、EDレンズ2枚と非球面レンズ2枚を含む13群17枚構成。携行性に優れながらも5段分相当の手ブレ補正(VR)機構を積み込み、さらには埃や水滴の侵入を防ぐシーリングが施されているという凝り様です。幅広いシーンに対応できるだけにスナップはもちろん、想定されるのは旅行のお供でしょうが、そういう点においても実に頼もしい仕様に仕上げられた一本です。
( Photography & Text : KIMURAX )
では早速、ワイド端での撮影からご覧いただきましょう。濃厚で艶やかなツワブキと、散ってもなお鮮やかなツバキの花びらのコントラスト。絞り開放ですが乾ききらない漂う湿度と、ひんやりとした空気までもが伝わってくるようなリアリティのある描写です。APS-Cサイズセンサー、開放F6.3ですからボケ量は控えめですが、主役へ視線誘導するには十分あります。ちなみに本レンズの最短撮影距離はワイド端:0.2m、テレ端:0.4mとなっています。
ワイド端はフルサイズ換算で27mmに相当。日頃使い慣れているスマートフォンの画角に近しいことからも扱いやすいのではないでしょうか。実用的な焦点距離スタートはいいですね。それにしても絞り開放から解像感たっぷり。右下の隅を見ても像の流れは見られません。それなりにコントラストが高いシーンですが、色収差もしっかりと抑えられている印象です。
絞り開放からよく写るレンズですが、ことキレの良さに関しては他のZレンズと相通じるものを感じます。色再現はニュートラルな印象。カメラボディに負う部分もありますが、階調の豊かさは一目瞭然です。ワイド端、絞り開放での撮影ですから、歪曲収差を確認すべくRAWデータを見てもほとんど変わりはなく、僅かにタル型を感じる程度。大変コンパクトなレンズですから内蔵プロファイルで補正されているのでしょうが、我々ユーザーにとっては結果さえよればOK、万々歳というものです。
さあ、テレ端の描写を見ていきましょう。奇をてらわずにフレームしたユズの実ですが、その丸みや皮の質感がきちんと捉えられています。ボケ味はもちろんのこと非常に立体感のある描写ですね。開放時にはわずかに周辺落ちが見られますが、もし気なるようであれば2段ほど絞れば解消しますし、後処理でも十分対応できます。
テレ端はフルサイズ換算で210mm相当の画角。望遠域らしい圧縮効果が得られます。後ボケもいいですね。ボケは距離や明るさによって変化しやすいものですが、総じて良好な印象です。5段分の効果が得られる手ブレ補正は頼もしいの一言。テレ端にズームすると内筒が繰り出されますが5cm程度なので、重量バランスへの影響もありません。
かなり騒がしい背景ですが、巧くいなしながらボケを添えているように感じられます。本レンズはインナーズーム方式なので、電源ONですぐに撮影可能。とにかくAFは素早く、屋外では動作音が聞こえないほど静か。こういった被写体なのでAF後に念のため拡大機能でピントの確認をしましたが、ドンピシャ。フォーカスポイントを即確実に射止めるあたり、流石は純正レンズの成せる業かと。撮影後PCで拡大すると、ついばまれた柿の中の繊維の様子までちゃんと見て取れるではありませんか。高倍率ズームのテレ端、しかも絞り開放からこれだけ写るとは恐れ入ります。
ズーム端での描写に不安があったとしても、中間域に問題があるレンズは滅多にお目にかかりません。その点、絞り開放からズーム両端での描写性能フルスロットルの本レンズにおいては、もはや確認するまでもないでしょう。とはいえレビューですから、中間域のカットもちゃんと見ていきましょう。艶めく流麗なボディライン。ピンと張りつめた冷たい金属の手触りまでもが伝わってくるようです。僅かな塗装ムラまで逃さないあたり、徹底的に描き切る画力を感じます。
ガラスがガラスとしてちゃんと写っている。その存在をさりげなく感じさせるように。ピント面で捉えた紐状のれんは、その繊維までを見事キャプチャしているのがわかります。そして左右にじんわりと広がっていくボケの滑らかさ。全体の印象を決定づけるトーンの連なり。お見事。
ズームちょうど真ん中あたり78mmでの撮影。絞り開放からとてもキレを感じる描写です。
呑み込むようなワイド端での画は印象的。持て余してしまいそうな超広角域までは必要ないでしょう。
レンズを繰り出してのテレ端時でも十分にコンパクトなレンズですから、スイスイ振り回せます。
高いAF性能、揺るぎない手振れ補正機能で写し止める。前後のさりげないボケ味も手伝い、流し撮りをしたかの様な感覚を覚えます。
高倍率を言い訳にしない、Zレンズらしい仕上がり。
純正レンズとはいえ実勢価格7万円台の高倍率ズームレンズ。試写させていただくまでは、その写りに関して多少目をつぶる所もあるだろうと勝手に想像していたのですが・・・見事、きれいさっぱり打ち消してくれました。ここまでご覧いただいた作例カットの通りです、はい。7.8倍のズーム域すべてに渡って解像力たっぷりでしたからね。絞り開放からきっちりと解像するポテンシャルの高さ。Zボディの性能を活かしきる光学性能にびしっと仕上げられてきたことがわかります。その一方で、写真をやり込んできた方などからは、AF/MF切り替えスイッチやVRのON/OFF切り替えスイッチが有ったらよかったのにという声が聞こえてきそうですが、この軽量コンパクトな躯体とバーゲンプライスとの引き換えとお考えいただければご納得いただけるかと。コンパクトなシステムを満喫されているZ 50やZ fcをお使いの方にとって、それらはあまりプライオリティの高い要素ではないかも知れませんね。むしろ確実に撮影時にサポートしてくれる手振れ補正機能や、適所へのシーリングによる防塵・防滴への配慮は魅力的に映ることでしょう。これ一本さえマウントしておけば、おおよそのシーンが解像感たっぷりに撮れてしまうのですからたまりません。しかも旅行に持っていっても軽装で済みますし、日常のスナップ撮影にも気軽に持ち出せるのが何より。きっと出番が多くなる、働き者のレンズとなってくれるはずです。
( 2021.12.09 )
高倍率ズームでこの写り。目の肥えているZボディユーザーを唸らせる働きをする、小さな実力派。
純正フィルターにして破格のプライス。どこにでも連れ回すレンズだからこそ、しっかりと保護を。
フードは別売となっています。広角域を多用するという方は、いっしょに購入するといいでしょう。