PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Nikon NIKKOR Z 50mm f/1.4 vol.1 vol.2
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
ニコンZシリーズに35mmと50mmの標準域を担うF1.4の大口径単焦点がそれぞれラインアップされました。Zレンズといえば、キレッキレなレンズが多いイメージですが、今回のF1.4の登場によって、また新たな旋律が加わったなと感じています。「F1.4」という響きから、イメージとして抱く幻想を叶えてくれそうなのはもちろん、それだけでなく写真という名の詩に新たな言葉を与えてくれる存在なのではないかと。やや期待が過ぎるきらいはありますが、面白そうなレンズが出てきたなと思います。
開放値が明るくて描写に惹かれるレンズは、得てして重たくて大きなレンズが多いものです。そのレンズがどうしても必要という時を除けば、手に取る口実を探したくなります。その点、本レンズは持ち出しやすいサイズ。F1.4の大口径を気軽に楽しむにはぴったりです。大口径ともなると、やはり単なる道具以上の存在になってきますので、携行した先で思いがけない出会いもあるでしょう。「Nikkor Z 50mm f/1.4」のレビューは2回目ということもあって、撮影のために出かけるというよりは、普段使いのイメージで日頃から持ち歩いてみました。
( Photography & Text : TA )
カジュアルにシャッターを切っただけの1枚ですが、印象的な写真に仕立ててくれました。被写体の輪郭は柔らかく際立ち、背景は優しくぼやけて空気までも写し込んだような奥行きを生みます。発色は誇張がなく本来の姿を映し出すのですが、どこか記憶の中の一場面のような情景が広がります。
艶めかしく、生々しい写りです。質感の再現に長けたといった表現では物足りなさを感じます。床の質感から清掃が行き届いていることまで想像させますし、その場に引き戻されたかのような臨場感を覚えます。緻密な描き込みがあって、少し黒が入り混じった赤の色も本当によく再現されています。さらに言えば、周辺光量落ちや、その他さまざまな要素が高次元でバランスされているのがこの1枚からも伝わってきます。
最短ではもう少し寄ることができますが、座して少々前のめり気味にアイスクリームを見つめている距離感で撮影しています。F1.4ですからピントは極薄。輪郭が緻密にそして柔らかく溶け込んでいく様子は美しいの一言。
なんとも瑞々しい写りです。ニュートラルなのですが、深みのある色再現に嬉しくなります。
光は十分に回っているものの、フラット。ヌケが悪く立体感を得にくい不利な条件ではありますが、被写体の輪郭は柔らかく浮き立って自然な奥行きを感じさせます。おまけに情緒的。現代的な高性能レンズであり、クラシカルな個性は控えめです。とはいえ適度な柔らかさがあります。くっきりとした輪郭を示すことなく緩やかに背景に溶け込んでいく。その「間」に情感や気配、臨場感といったものが写り込むのだと思います。絞り開放時はハイライトがふんわり広がることがあり、これがまた独特の雰囲気をうみます。
思わず触れたくなるような実在感。ピント面は立体的に描かれ、本の背表紙の凹凸まで丹念に捉えています。射し込む淡い光が頼りの撮影ですが、全く問題ありません。むしろ雨や曇りの日、屋内などで積極的に使いたいと感じました。
柔らかなトーンで描き、空気までも写し込んだような奥行きを感じさせます。人肌の再現にぞくっとさせられることは何度も。
玉になったボケが画に彩りを添えてくれました。背景の距離を変えてみたり、前ボケを差しこんでみたりといろいろと試みるわけですが、どの距離でもエッジが立たず丸みのある上品なボケが得られます。しかも量感たっぷり。印象的な画になりやすいと思います。
総じて抜けが良く、クリアな描写です。繊細な被写体が密集していますが、丁寧に描きわけられています。しかも逆光ですが、破綻なくコントラストの低下もみられません。中間のトーンを拾い上げるのが巧いレンズで、もともとコントラストのつきかたは緩やかな傾向です。現像時に少し露出を上げましたが、行なったのはそれくらい。寄っても引いても、あらゆる光の回り方でも、そつなくまとまるレンズです。扱いやすいと思います。
今日はどのレンズにしよう?と迷う日こそ、手に取りたくなる1本。
浮き立った被写体は鮮明な境界線を描かずに柔らかく背景に溶け込んでいく。その「間」に情感や気配、臨場感といったものが写り込む。勘違いかもしれませんが、その「間」を意識してレンズを向けると、世界がほんの少し詩的に、そして美しくなるような気がするのです。情緒ある写りと言ってしまえばそうなのですが、まあ語り尽くせないほど魅力に満ちたレンズでした。オールドレンズ風でもなければ、現代を象徴するような写りとも違う。他には代えがたい写り。このようなレンズが、ゆくゆく手元に残っていくのかもしれません。Zマウントの50mmレンズは、f/1.2 S、f/1.4、f/1.8 S、MC f/2.8とラインアップが充実しており、F値の違いだけでなく、それぞれに特長があってどれも魅力に満ちています。いっそのこと全て揃えられれば良いのですが。悩ましいところではありますが、50mmこそ、使い勝手も良いこういったレンズが1本あると楽しいのではないかなと思います。
( 2025.02.10 )
F1.4の大口径を気軽に楽しめるサイズの50mm単焦点。他には代えがたい写りを存分にお楽しみください。
Vol. 2ではZ 7IIを使用しています。高画素機とのマッチングも良好です。