PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Nikon NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
「映像関係の方ですか?」「すごいカメラですね!」
ロケ中、何人に話しかけられたことか。まあこの出で立ちですから、どこに行ってもダダ目立ちです。レンズ本体は驚くようなサイズでもないのですが、ただならぬ雰囲気はこの台形、いや四角錐台と呼ばれる形状の立派な角型フードによるところが大きいでしょうね。そして、先端部側面でフォントが縦方向に改行していくレンズ銘表記。これがまた仕事人ぶりを際立たせております。いわゆるシネレンズではこういった表記が標準的で、現場でレンズの識別性を上げるためと思われますが、ニコンのコーポレートカラーであるイエローを纏っているあたり、、、全米は泣いています。これはただの標準ズームにあらず。電動ズームを備え、動画撮影に最適化されたニコン渾身のズームレンズです。詳細に入る前に、論より証拠。映像はド素人の私ではありますが、まずはご覧ください。
( Photography & Text : TAK )
パワーズームの絶大なメリット、際立つフレキシビリティ
カメラワークなどまるでなってなくて、申し訳ない限りです。Z8とのセットに耐え得るジンバルも持ち合わせておらず、手持ちが中心となっておりますこともお詫び申し上げます。とにかくハッキリしていることは、基本的にこの一本で全部撮れちゃうということです。ボケを生かしてふわっとアーティスティックに撮影したりするには大口径レンズも必要になると思いますが、それ以外の幅広い用途、例えば旅、風景、ドキュメンタリーなどには最適でしょう。そして最大の売りであるパワーズームの威力、絶大です。これが無ければ、ズームリングを回した時点でぶれますし構図変化もカクカクしてしまいます。あまりにも便利で使い過ぎてしまい、モバイルを含む電池が日没前に全て切れてしまったのが心残りです。経験豊富ならムダ撃ちも減るので電池消費は抑えられるでしょう。28-135mmという焦点域、一般的な写真用として考えると耳慣れないかもしれませんが、動画の世界では既に他のメーカーから同じ焦点域、開放F値のレンズが発売されています。28mmは十分に広角でありつつ、パースが悪目立ちする程の広さではない。135mmは十分な圧縮効果と被写体の分離力がありながらも、ブレの影響が顕著になるほど望遠過ぎない。つまり、扱いやすくバランスが良い。現場の経験則から導かれた、スタンダードな焦点域なのでしょう。実際、これ一本で何とでもなると確信しました。そして8KそしてハイレゾズームをサポートするZ8(今回使用)やZ9においては、4Kのまま270mm相当まで更にズームインすることができます(Z6IIIでは189mm相当)。これがもう万能で私は終始この設定で撮影しました。135mmでも十分ですが画質劣化無しで更に寄れる、画質も4Kで十分となると、、、使わない理由が見当たりません。もちろん8Kがマストであれば、ハイレゾズーム「OFF」一択になりますが。そして本レンズ、かなり寄れます。28mmから50mmまでは34cmまで、望遠端では57cmまで寄れてしまいます。朝食のシーン、ズーミングしてもピントが合いましたし、何より立ち上がらずに撮れたのはありがたい限りです。
ハイレゾズーム機能をONにすると、デジタルズームが可能。Z8/Z9にて4K撮影の場合、そもそも8Kを起点にクロップしていくので(パワーズーム連携時)画質劣化は無し!本レンズを使う旨みは、ここにあるかもしれません。
ハイレゾズームはパワーズームと連携できます。エクステンド式では135mmを超えて光学のみからハイレゾズームに切り替わる時に、画角の変化が一瞬カクッと止まったようになります。シンクロ式では初めからハイレゾズームが介入するので原理的にも「カクッ」が生じないメリットがありますが、初めからクロップされるのでレンズ本来の深度が生かしきれない点は注意です。私個人は、シンクロ式で十分と感じましたが。
この動画の記録ファイル形式は「H.265 10-bit(MOV)」、階調モードは「N-Log」です。画像右半分が元データの色合いで、カラーグレーディングに関しては、ニコンが無料で配布しているLUT「RED_FilmBias_Rec2020_N-Log_to_Rec709_BT1886.cube」を当て、それを基調として各調整をしています。冒頭のタイムラプスは、実質JPEGのスライドショーなのでLUTは当てていません。
4:52辺りからの貨物列車で「おや?」と思った方。これ、9両からなる貨車編成の前から後ろまで1本のレールです。長さは150m。それが28本、束のように積載されています。鉄のレールが曲がるってどういうこと?と思いますよね。実は横方向へは曲がりやすい性質を持っているそうです。さもなければ、カーブ地点に敷設すらできないでしょう。この列車、九州の八幡で製造された北海道新幹線用の150mロングレールを北海道は長万部まで輸送する、初の試みだそうです。通常は切り分けて輸送しているのですが、現場で再び溶接する手間が発生するので、150mのまま輸送した方がコストも抑えられ、乗り心地も向上するとのこと。この眺望台へ至るロープウェイの最終便を逃した私はこんなスペシャルな列車がやってくることはつゆ知らず、使命感のみを胸にぜいぜい言いながら階段を登ったのですが、鉄道の神様がご褒美をくださったようです。
ロケ地は、広島県尾道市の中心部です(写真は動画からの切り出しで、拡大しません)。道という字の通り、海上、鉄道、道路、路地とあらゆる道が交差、並行する見所の多い町で、活気とのんびりした雰囲気が見事に同居している印象を受けました。その様子を広々と捉えたり、凝縮して密集感を出したり、といった表現にはこのレンズがマッチする予感がして、拠点の京都から足を伸ばした次第です。思惑は的中し、2キロ越えの機材を抱え続けた疲れも吹っ飛びました。尾道、ラーメンも柑橘類もおいしくて、本当に良いところですね。多くの映画の舞台になっていることも頷けます。
高品質撮影を下支えする機能と性能
続いて主な機能や操作感などについても動画にまとめましたので、ご覧ください。この便利極まりないパワーズーム、側面のズームレバーもしくはL-Fnボタンやカメラ側のボタン、何ならアプリからだってズーム操作ができます。ズーミングの速度もお好みで細かく調整可能。ズームレバーやズームリングの操作量に応じて、速度も変化します。プロが手動で行うあの熟練技を(これがまたカッコいいんですけどね)、初心者でも簡単に使えてしまうのです。そして、カメラ側のボタンによるズーミング、これもかなり便利です。何より、押すだけで必ず一定の速度でズームしてくれるのが有り難い。というのも、特に私のような初心者の場合レバーやズームリングの操作に勢いがつきすぎて、意図せぬ速度でズームしてしまうことがあったのですね。絶対にズーム速度を一定にしたい場合は、カメラ側のボタン操作が確実です。フォーカスリングも絶妙なトルクがあるので、マニュアルフォーカスもスムーズに行えました。ゆ〜っくり合焦させたり、意図的にぼかしたりする時にも重宝しそうですね。更に確実で滑らかなピント送りをお望みなら、フォローフォーカスを併用することも可能です(フォーカスリング、ズームリング共にギアモジュール0.8に対応)。もちろんAFもめちゃくちゃ速いです。スパスパ決まります。
スチルレンズとしての地力
動画向けということで、S-Lineのようなキレは望めないだろうと思っていました。が、中々どうして、写真用としても実によく写ります。まあ、Zマウントですからね。当然と言えば当然なのですが、拍子抜けするほど立派な写り。
28mm、広角端です。いつものZな高画質です。開放値もF4ということもあり、開放から安定したシャープな描写。階調が特に良いようにも感じられるのですが、動画メインのレンズだからでしょうか。
中間域、82mm。中望遠の圧縮効果も思いのままです。
望遠端、135mmで寄ってみました。F4ですが135mmとしては十分明るく、柔らかく気持ちの良いボケ味です。ピントのキレはちょうど良い塩梅で、過度に鋭くなっていないところに好感が持てます。これもまた、人物の動画撮影も念頭に置いたチューニングなのかもしれません。
階調、質感、実に良きかな。
35mm。撮りたい構図でズーミングしていると、知らず知らず35mm近辺になっていることがあります。目線が自然ですものね。ボケもF4でちょうど良いくらいです。
色再現もいたってナチュラル。
135mmの切り取り、楽しいですね。
深度を稼ぐためF8まで絞ってみました。悪かろうはずがありません。
Zに新たな世界を運んでくれる1本
写真も動画も得意なミラーレス一眼にニコンが舵を切ったのが2018年でした。以来、そのZシステムを動画用として使う方も増えてきましたが、まだまだ写真派が主流の印象があります。私もその一人かもしれません。というより、動画アレルギー患者と言ってもいいでしょう。動画は「シャッター切って終わり!」とはいかず、撮影の時点でとにかく大変です。撮影前にも、こんなシーンが欲しい、こういうことを伝えたいからカメラワークをこういう順番にしたい等々、考えることが山ほどあります(私の場合、段々と成り行き任せになりましたが)。そして撮影に入ると、その撮影プランを実行しながら現場の状況に応じて臨機応変に、ブレはもちろん前後左右に危険がないか気を配りながら可能な限りのバリエーションを押さえておく。そして時には撮影中に意図せぬ被写体や騒音が入ってきて撮り直し。そして帰宅したら、終わりなき編集再編集の旅が(映像も音声も。楽しくもあるのですが)。この道で食べておられる方は、このマルチでヘビーなタスクを当然のようにこなしているわけです。早い話が、敬服いたします。
ただそんな私でも、本レンズを手にして、苦手意識がかなり解消したような気がしています。やはりパワーズームだということが、最大の理由です。これ無しでは、カメラを回している間ズームリングを回す気にすらなりません。焦点を固定して撮影したものを繋ぎ合わせるのが主流かもしれませんが、シーンの中でズーミングができるようになると更に表現の幅が増えます。もちろん私など、とても使いこなせたとは思いませんが、本業として毎日のように撮っていけば、面白くなるだろうなと想像します。今回の撮影は単独で行いましたが、確かに機能的にもサイズ的にも「ワンマンオペレーション」は十分可能です。写真用として考えると、焦点域にしては大きなレンズだなと思われるかもしれません。が、これはインターナルズーム機構を採用しているからでもあり、ズームが伸長し切った状態で鏡胴が固定されているようなもの。ズーミングでの重心移動を最小限に抑え込むための、動画に特化したソリューションです。決して軽いレンズではありませんが、だからといって「重たい!」と感じさせないバランスの良さが光ります。使い勝手の良い焦点域、サクサク作動するAFも手伝って、スイスイと撮影が進行します。もちろんジンバルがあれば尚良し。先述の通り対応ジンバル不所持の私は、いざという時の固定用にミニ三脚を携行しましたが(通常の三脚を担いで尾道の坂を登る自分が想像できず)、これは役に立ちました。他にもリグ、ハンドル、外付けマイクはどうしようか、そもそもモニターはどれにしようか等々、次の沼が待ち構えており、あれこれとアイデアを捻るのも楽しいですよね(懐事情とは反比例して)。NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZは、次なるZの世界への鍵となる一本と言えるでしょう。Zで動画も撮るなら必携ですね。
見てくださいよ、この威風堂々っぷりを。フード側を下にすると、ジオン軍のアレやアレを思い出します。
フィルター操作用の窓がついている(ガンプラの箱の解説風)。フィルター径は95mm。レンズ先端径は104mmでマットボックスに対応。
( 2025.05.08 )
動画も写真もおまかせあれ。比較対象のない、ある意味無敵レンズ。見た目も性能も、神通力絶大です。
先端もイエローで締めましょう。山陽本線の115系も黄色です。