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TAMRON特集 タムロンのズームレンズ
開発者特別インタビュー

TAMRON特集の最終回は、いよいよ本丸となるタムロン本社(埼玉県さいたま市)を訪問させていただきました。本特集で改めて撮り下ろした高倍率を含む5本のズームレンズの作例カットを、PCのモニターに映し出し(ナビゲートは映像事業本部 マーケティング企画部 マーケティング課の西角久美子さん)、開発担当の方にお話を伺うというチャンスの到来です。随分とバラエティ豊かな焦点域のズームレンズを取り揃えているなぁと常々不思議に思っていた素朴な疑問はもちろん、どのレンズを使っても“やっぱりタムロンだな”と感じる描写傾向や写りの安定感みたいなもの(たとえ高倍率ズームであっても)をどのようにコントロールしているのか等々、聞いてきました。

お話を伺った人:
三澤 幸大さん(株式会社タムロン映像事業本部 マーケティング企画部 部長)
平川 祥一朗さん(株式会社タムロン映像事業本部 マーケティング企画部 商品企画課 課長)

聞き手:
フォトヨドバシ編集部


PHOTO YODOBASHI写真左から西角さん、平川さん、三澤さん

シーンを想像すると面白いズーム域が生まれる

PY: 今回お話を伺っている時点(2023年11月現在)で、タムロンさんのラインアップはズームレンズが21本、単焦点レンズが5本。「ズームレンズと言えばタムロン」という我々ユーザーのコンセンサスを裏切らないというか、ズームレンズにかなり力を入れられていることがわかりますね。そしてユニークなズーム域のレンズが揃っている印象ですが、どういった経緯で誕生してきているのでしょうか。例えば、50-400mmとか35-150mmあたり気になります。

平川: まずは「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(A067)」の方から行きましょうか。一般的にテレ端400mmをカバーするズームレンズというと100-400mmになります。これ一本だけだと、意外と使いづらいよねという声がありました。

三澤: 運動会でもちょっとした集合写真的なものを撮りたいこともありますから。そうなると標準ないし広角側のレンズをもう一本用意し、レンズ交換しないといけないですから。

平川: そこを何とかレンズ一本で解決できないかと企画部内で練ってから、多少の無理を承知しつつも光学設計担当者に「こんなズーム域のレンズどう?」と打診するわけですが、「いや~、難しいよ」と返され話はそこで終了です。50-400mmの時に限らず、大抵こんなやり取りからスタートする感じですかね。

PY: 無茶ぶり、玉砕ですか。

平川: 50-400mmの時は、一週間後ぐらいに「50mmスタートだとこんな感じかな」と具体的な設計案が出てきまして。光学的にもサイズ的にも問題なさそうだと。比較的スムーズにいったケースですね。

三澤: 「意外とできたね」と当初の企画通りうまく進む場合もあれば、「やっぱり無理だったわ」とか「これぐらいなら行けそうな気もするけど」と、方向転換や調整が必要になるケースももちろんあります。

PY: 理想と現実のすり合わせみたいな作業ですから。互いに程よい距離感を保ちつつ、信頼関係がなければ成立しませんね。

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平川: では「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(A058)」の方の話を。このズーム域は、デジタル一眼レフ用の「35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD(A043)」が元になっています。こちらは私が単焦点の85mmで猫を撮っていた時に、逃げられちゃうことがありまして。その時に、ふと85mmを中心にしたズームレンズが作れないかな?と思ったのがきっかけでした。85mm起点の発想でしたので、ポートレートの撮影を一番のターゲットに想定すると、テレ側は200mmまではいらないから150mmあたりで、ワイド側はパースペクティブによる歪みが目立たない35mmで十分かなと。

三澤: すでにミラーレス一眼のフルサイズ機が充実し出した頃に、デジタル一眼レフ用の「35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD(A043)」を発売(2019年)したわけですが、その年のCP+に出展した際に「このズーム域が欲しかったんだよ」という声を多くいただきました。

平川: でも実際に発売したらあまり売れませんでした。ユーザーさんにヒアリングをすると「テレ端F4でもいいんだけどねぇ」というお声がちらちら。F2.8通しだったらよかったのに、ということですよね。

PY: 決定要素はズーム域だけではないですから、悩ましい。

平川: そこで、ミラーレス一眼用の「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(A058)」を開発するにあたって、F2.8は必須。でもそれだけではつまらないので、F2スタートの可変タイプにしようということになりました。

三澤: その甲斐あってか、おかげさまでとても良く売れています。

PY: ズーム域の設定は、ちゃんとニーズに合致していた。見事にリベンジを果たしましたね。


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タムロンだとわかる描写、ボケ、色味を常に

PY: 今回、特集記事を組むにあたって、改めて試写させていただいた5本のレンズすべてに感じた点ですが、どれもピントピークでの切れがあるのに硬すぎない。そしてボケの傾向すらも似ているように感じました。このあたりの画作りは意図的に何かされているのでしょうか。

平川: レンズにはいろいろな収差がつきものですが、収差を取り除いていくほどにコントラスト高めでカリッとした無機質な画になっていきます。つまり収差を取り過ぎると不自然になってしまうのです。そこでいかにいい塩梅に収差を残すかがポイントになるのですが、当社の光学設計にはそのノウハウが蓄積されています。また、写真には収差だけが作用するのではなく、逆光時に出てくるゴーストやフレアも影響するので、徹底的に抑え込むように設計していますね。特にフレアは画が白くなり、ヌケの良さにも関わるので。カリカリさせないでピントからスッとボケていく描写は弊社伝統です。設計者が先輩から教わって受け継いでいます。

三澤: ただの流れでそのようなことが行われているのではなく、良いものとしてきちんと受け継がれているものです。ですから、もし今までの製品とまったく異なる描写傾向のレンズを開発するとなれば、“違う描写で”と最初に伝えない限り、ラインアップと違う描写のレンズは生まれてきません。“いい描写とは”という確固たる軸がありますから。

平川: ボケに関しては、球面収差やコマ収差、非点収差が影響しますが、とりわけ影響の目立ちやすい球面収差をいかに律するかがポイントですね。また前後のボケがいずれも柔らかい傾向であるに越したことはないのですが、ズームレンズということもあり後ボケ重視の設計を行っています。

PY: 共通のレシピでチューニングされているのですね。色味は若干アンバーが乗ってくる傾向があるように感じますが、いかがですか。

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平川: その傾向はありますね。暖かみのある色を大切にしてきています。人の肌もきれいに出やすいということもあるので。すべてをコントロールできるわけではありませんが、意識している部分ではあります。色の話のついでになりますが、レンズには様々なガラスが使用されているのはご存じかと。その中に、高屈折率ガラスという硝材があるのですが、ガラスを透過する青色の成分を吸収してしまう特性があります。高屈折率の硝材は、レンズの小型化に効果的ではあるのですが、色再現性を極端に悪くしてしまうのです。弊社では、小型化を重視していますが、色味も大切だと考えているため、高屈折率の硝材は使わないようにしています。

PY: 便利な硝材だけれど、あえて使わないという考えなのですね。


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語り継がれるズームレンズへの挑戦

PY: その時代ごとのカメラシーンにおいて、歴史に名を残すエポックメイキングなレンズを送り出されてきました。近年におけるエポックメイキングな存在あるいは、そこを目指して注力した製品があれば教えてください。

平川: 二本ありまして、まず一本目が「28-75mm F/2.8 Di III VXD G2(A063)」ですね。現在は名前にG2とあるようにII型になりますが、初代モデルはミラーレス化によりカメラが小さくなったタイミングに合わせて開発をスタート。より小さくて軽いミラーレス版28-75mmとして誕生しました。ズーム域やF値はデジタル一眼レフ用の「SP AF28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO(A09)」の流れを汲んでいます。その品番がA09だったことから、タムロン90mmマクロレンズの愛称 “タムキュー”に因み、 “裏のタムキュー”と呼ばれていました。隠れたロングセラーだったこともあり、その写りの特長をトレースして初代のミラーレス版を開発しました。

三澤: 当時はシャープな写りのレンズが評価された頃でしたが、A09の柔らかで味のある写りを再現したいと考え、あえてそのような個性を持たせた企画で行こうとなりました。

平川: 収差をかなり残す設計でしたので独特な柔らかさがあり、個人的にも好きでした。ところが現在のII型開発の際に様々な人にヒアリングすると、好き嫌いが分かれたんですよ。

PY: 個性の評価って難しいですよね。その違いを、どう捉えるかによりますから。結局はどうされたのですか。

平川: 周辺の収差を抑えることで、現代的な描写にアップデートしました。実際の写真を比べていただけると一目でわかっていただけるほど、解像感が異なります。癖のない素直な描写とでもいうのでしょうか。おかげさまで発売から2年経ちますが、人気は衰えていません。

PY: では二本目を聞かせてください。

平川: 最初の“面白いズーム域”のところで話に出た「35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(A058)」です。タムロンのレンズとしてはサイズ大き目で、そこそこ重い。そしてお値段も高めでして。。。

PY: 20万オーバーでしたよね。思い切りましたね。

平川: いやもうホントにドキドキでしたよ。ちゃんと売れるのか心配で心配で(笑)。タムロンレンズの価格イメージからはみ出ちゃいましたから。

三澤: とはいえズーム域が独特ですしF値が明るく、データ的にも優れており、レンズのスペックに見合った価格設定をしたと考えています。元々、フラッグシップとなるよう開発をスタートさせたレンズでもありますので。

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PY: 色々な点においてチャレンジングな存在なのですね。ところで、撮影を担当したカメラマンが「黒の締まりがいいんだよ」としきりに言っていたのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

平川: ゴーストやフレアが出ると黒が締まらなくなりますから、しっかりと抑えられている証です。また、レンズの研磨精度は透明度に直結しますので、そういった要素も好影響をもたらしているのではないでしょうか。まだまだありますが、ひとつひとつのこだわりがユーザーさんに少しでも感じ取ってもらえるとありがたいですね。


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工夫し続けることでより深化する高倍率ズーム

PY: こだわりってなかなか通じにくい部分もありますよね。メインの性能であればユーザーさんたちも注視しているでしょうけど、例えば便利さだったり快適さって使い慣れてしまうと、次の瞬間にはもう全然意識しなくなっちゃっていますから。当たり前のこととしてその有難みを全く感じなくなっている、空気みたいに。

平川: ホントそうですね。例えばズームリングの適度なトルク感と滑らかさを実現するために、真円度を高めた金属リングを組み込んだりしています。精度の低いリングは極端な話、楕円ですから滑らかに回転しません。高精度なリングとリングがグリスを介すことでスムーズに回転するのです。

三澤: 緩すぎても硬すぎてもだめで、その中間というかいい塩梅に落ち着けるために、地道にアップデートしていっているのも確かです。

平川: その結果として「滑らかになったね」といった言葉を聞けた時はもの凄く嬉しくなります。よくぞ気づいてくれました!と。

PY: 手にした感触や操作フィーリングって、ある種のクオリティ感に直結しますから手が抜けないですね。開発にはさらに大変なことが色々あるでしょうが、平川さんが今パッと思いつく“これ大変~”ってことがありましたら最後にお聞かせください。

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平川: 高倍率ズームってやっぱり大変なのですよ、作るのが。高倍率がタムロンのお家芸とは言えどもです。最近の高倍率ズームレンズですと「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD(B061)」になります。繰り出し式のズームレンズは、繰り出した状態では重力の影響を受けることで、前のレンズが下方向にわずかに撓むのです。高倍率ズームレンズは、その影響が大きくなります。目に見えて撓んだりはしませんが、この極わずかな狂いが生じることで、スペック通りの解像力を出すのに非常に苦労するわけです。

PY: 可動するだけに負荷は相当なものですね。

平川: 初期の高倍率ズームは正直、精度が高いとは言えませんでした。しかしその後も高倍率ズームを開発し続けることで、どうすれば撓まないのか、といったメカ設計や製造段階でのノウハウが着々と貯まっていくのです。一方、光学設計は性能を出しつつ、製造のし易さをいかに担保するのかといったノウハウも蓄積していくことで、改善・改良が加えられ進歩してきました。積み重ねがものをいう部分が大きいです。

PY: 現在、ミラーレス一眼用ズームレンズでは18-300mmの16.6倍が最高レンジですが、このあたりが限界なのでしょうか。

平川: 社内で「限界」って言葉を使うと怒られるのですよ(笑)。

PY: おっ、それなら期待してもよさそうですね、楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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( 2023.12.08 )

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