PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
- 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
- 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
- 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。
3群1枚目 設計者の描く理想とは
レンズ設計ことはじめ
ここまで、当研究所では写真用レンズにまつわる基礎的な光学の研究を進めてまいりました。この章からは、とあるメーカー(仮に、ここでは「ニコン」とします)では実際にどのようにしてレンズの設計・開発をしているのか、その実情に迫る調査レポートをお届けしていきたいと思います。
むむ・・・ |
おや、二人で将棋でござるか? |
いやいや、違いますよ。放課後の部室じゃあるまいし。 |
バタン。お疲れさまでーす。ドーナッツ買ってきたわよ。お茶にしましょう。 |
・・・放課後の部室みたいでござるな。 |
本当にまじめな話をしていたんですって。ほら、これを見てください。 |
あら、レンズの断面図ね。今日は何なの? |
新しいレンズのことをですね、二人であれこれ考えていたんですよ。 |
へえ〜、おもしろそう! |
あのう、今「二人であれこれ」と言っていましたが・・・ |
はい、何でしょう? |
今ここには原田さんと町田さんという、ふたりのレンズ設計者がいるわけですが、ふたりいれば、設計の仕方や考え方も違ったりするものなんですか。 |
いい質問ですねえ。それは大いにあります。分かりやすく例えると、ある問題を解決させようという時、私は「レンズを1枚足す派」の設計者なんです。 |
私は「レンズを1枚抜く派」です。 |
まったく逆でござるな。 |
アプローチの仕方が最初から違うのね。 |
足し算で考える私と、引き算で考える町田さん。これは設計者の癖というか、好みみたいなものかもしれませんけど。 |
例えばこのドーナッツをひとりで左端から食べていくとして、これだと最後のほうで胃がもたれそうだな・・・という時。原田さんは最後にオールドファッションを足して素朴な味わいで食後感をまとめる。町田さんなら最後のフレンチクルーラーを抜いて、そもそももたれにくくする。そういう感じ? |
それは実に的を射た表現ですな、穴の開いた丸いドーナッツだけに。ぷぷ。 |
ささ、みんなで食べながらにしましょう。そもそもこういうレンズ設計って、どこからスタートするのかしら? もぐもぐ。 |
うーん、まずは「こういうレンズを作ろう」っていうお題からですね。もぐもぐ。 |
「お題」って? もぐもぐ。 |
例えば「次はこの焦点距離でこの明るさのレンズを作ろう」だとか、「このレンズに手ブレ防止機構をつけてアップデートしよう」だとか。もぐもぐ。 |
なるほど。そういうお題は誰が決めているのでござるか? もぐもぐ。 |
市場で何が求められているかとか、そういうことを調査・分析してくれるチームがあります。調査結果をもとに綿密な検討を重ねた結果、決められているんですよ。 |
設計者が思いつきで決めているわけではないのでござるな。 |
当たり前じゃないですか。「趣味のレンズ設計」じゃないんですから。 |
まぁ私の場合は趣味みたいなもんですけど。 |
そしてお題が決まったら、いよいよ設計者の出番ということになりますが・・・どこから手をつけるのかというのが、ぼくらには雲を掴むような感じなのですけど。 |
これはですね、ある程度経験を積んだレンズ設計者であれば、お題を見た瞬間にとりあえずの方向性が頭に浮かぶと思います。採りうる手法と結果の理屈が、すでに体に染み付いていますから。 |
理屈で行けちゃうものですか? |
理屈は重要です。各レンズでの光線の曲がり方は、公式と計算で導くことができますしね。理屈を理解した上で、試行錯誤を繰り返し、設計解を作り上げます。 |
すっごいドヤ顔。 |
私は感覚を大事にするけどなあ。 |
うーん、原田さんのそういうところが私は・・・ |
いやいや、町田さんこそ、そういう考え方はちょっと・・・ |
なーに言っちゃってんですか。だいたいですね・・・ |
(この部分、2万字割愛)
まぁ、お題にもよりますけどね。ひとくちにお題と言ってもいろいろあるので。 |
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い
- 3群6枚目 「商品企画」というお仕事 - 商品が生まれいづるところ
- 3群7枚目 試作のプロフェッショナルたち (前編) - 設計図と完成品のはざまで
- コラム:原田研究員からのメール - 「交換レンズは3本まで」という法律について
- 3群8枚目 試作のプロフェッショナルたち (後編) - ものづくりの最終工程で行われる試作とは
- 4群1枚目 Zマウントはこうして生まれた - 100年間変えられないことを、考えて、決める
- 4群2枚目 フード首脳会談 - レンズ設計のその果てに
- コラム:原田研究員からのメール - レンズの楽しみ方案内