PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
“スロウ レンズ”
暗いレンズ特集 Vol.2 : 暗いのに高いレンズ編
暗いレンズ特集の第1回は小口径レンズの入門ともいえる明るさを抑えた標準レンズをご紹介しました。第2回は「暗いのに高いレンズ編」。普通ならば開放F値の明るいレンズほど性能も価格も上がっていくもの。だからこそ、人はみな明るいレンズに憧れるのです。しかし世の中には明るくないのに高いレンズというものも存在します。「明るさ」という個性の中でも最も強いものをあえて抑え、その代わりに何を手に入れようとしているのか。今回は「暗い=安い」ではないレンズから、明るくなくとも素晴らしい個性を持ったレンズがあるのだということをお伝えできたらと思っています。長い前置きはいりません、行ってみましょう。
SONY SEL35F28Z Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA
強行日程で南の方へ。旅のお供は常にコンパクトなカメラをひとつだけ。今回はこのSonnar 35mm F2.8をマウントさせたα7Sにしました。もともとゾナータイプが好きというのもあるのかもしれませんが、出会ったとき数枚シャッターを切ってすぐ「あ、このレンズ好き。」と感じました。写りの傾向は「SEL55F18Z Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」と似ていて、誠によく写ります。中距離にピントを置いても、立体感を感じる描写で淀みがなくクリア。
コンパクトで軽量、そのうえ旅の記録としてしっかり残しておきたいものをきちんと写しこむ。撮影者がちょっと無茶したって「ドンマイ!」と言いつつきちんとフォローしてくれる。そんな頼りになるレンズです。手にするとびっくりするほど軽くて、コンパクトにまとまった精鋭君。しっかり良い仕事をしてくれますよ。35mm好きの方はぜひとも試してみてください。(TA)
» SONY SEL35F28Z Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAの実写レビューはこちらからご覧いただけます
LEICA Summaron-M 28mm F5.6
この「Summaron-M 28mm F5.6」というレンズは、1955年に発売されたSummaron 2.8cm F5.6を4群6枚というレンズ構成を変えずに復活させたものです。1935年に発売されたHektor 2.8cm F6.3を20年かけて半絞り明るくしたわけですから、発売当時は画期的な明るいレンズだったのかもしれません。中古市場で「赤ズマロン」と呼ばれたオリジナルは、シックで深い色合の描写が独特で欲しいレンズの一本でした。ただ、程度の良いレンズが少なく、出会いがあってもおいそれと手が出る価格ではなく高嶺の花でした。ウインドウ越しに見る「赤ズマロン」は、先細りのフォルム、真鍮製のフードがかっこよく、ただ眺めているだけでも幸せになれるそんな稀なレンズでした。
復活を機に手に入れた「ズマロン」。手に持った時の重さが心地良い、無限遠のロックがカチッと入る、フードのロックねじをキュッと締める、そんな単純なことだけで、ただ眺めているだけでない幸せに浸ることができました。さて…レンズですから撮らないといけないですね。肝心の描写ですが、さすがによく写ります。ただそこは60年以上前に手計算で設計されたレンズ。良い悪いは置いておいて、味のある描写を楽しんでみるのがよいのではないかと思います。(A.Inden)
オリジナルの「赤ズマロン」については、レンジファインダーサイトの「ライカ×モノクロ×オールドレンズ カメラひとつで旅に出る。 第二回 喜多方編」や「VINTAGE LENS RHAPSODY Vol.01」をご覧ください
ZEISS Loxia 2.4/85
多くの上級85mmレンズがF1.4という開放値を持つなか、この「Loxia 2.4/85」は1段以上も暗いF2.4。しかもそのF1.4級の高性能レンズたちと比べても、同じか上回るほどのプライス。なかなか手が出にくい1本ではあります。ポートレート撮影のように物理的なボケ量が欲しいなら、やはりより明るいレンズを選ぶべきでしょうが、このLoxiaは「中望遠」の画角が欲しい時に選ぶべきレンズ。普及価格帯でもF1.8~2というスペックのなかで、このレンズは明るさを抑えて携行性を高めつつ、最上級の写りを実現したツァイスらしい1本。既に85mm F1.4を使い込んでいる方こそこのレンズの存在意義を感じられるのではないかと想像します。
オール金属製の質の高い鏡胴に滑らかかつ適度なトルクを持ったヘリコイド。じっくりとピントを繰り出す様は、まさに“フォーカスを操る”イメージそのもの。このレンズは写りだけではなく、撮影のプロセスさえも最上のものにしてくれるのだと感じました。「手に入れることができるなら、ぜひ旅へ持ち出したい」とファインダーを覗きながらいつか行った旅先の情景を思い浮かべます。
最初の1本を手に入れるなら、85mm F1.4を買うべきでしょう。価格や性能のバランスがよくスタンダートともいえるF1.8もいいですね。このレンズはさらにその先で私たちを静かに待っています。中望遠レンズの沼から上がれるひと筋の光、つまり救世主レンズなのでしょう。趣味性の高いLoxiaシリーズの中でも特にその方向性を強く打ち出しているように感じます。色々遠回りを楽しむことこそ機材遊びの真骨頂ではありますが、結局のところは上がりを持っているツァイス様の掌(てのひら)で転がされているだけなのかもしれません。(Naz)
» ZEISS Loxia 2.4/85の実写レビューはこちらからご覧いただけます
旅の記憶を彩るレンズ。
いかがでしたでしょうか。大口径の高性能レンズを手にして撮影に挑めば、気合いとともに肩に力が入るものです。もちろんそれは時と場合によては必要なもの。一方で今回ご紹介したレンズたちは、個性ある上質な写りを持ちながらも、肩肘張らずに使えるような気がします。数値的な性能というわかりやすいところ以外にも、造りのよさや操作感のよさなど、“モノ”として使う喜びを感じさせてくれますよね。仕事の機材ならおそらく不要なレンズ。だからこそ「趣味性」というものをどこまでも追求して生まれてきたのでしょう。普段手にしている機材とはちょっと違う特別なレンズたち。これらを持って旅に出たら、写し撮るものにも何か違いが出てくるのかもしれません。それがプラスへ作用するなら、少々値が張るのも仕方がないですよね。
( 2018.12.06 )
極めて軽量・コンパクト、しかもツァイス。高いといっても手が届くレベルの1本です。フルサイズEマウントユーザーは持っていると重宝しますよ。
60年以上も前のレンズを当時と同じ構成・構造で再現してしまうとは恐れ入ります。オリジナルは曇りやすいレンズでしたが、現行ならば安定した性能を手に入れられます。問題は突き抜けたプライスでしょうか。
トップ・オブ・中望遠と言ってしまってもいいでしょう。52mmの小さなフィルター径を持つこのレンズが写し出す世界もまた一級品であります。動画撮影にもしっかり対応。