ROLLEIFLEXOLOGY
ROLL 4 - SPECIAL : デジタルデュープ
フィルム撮影が愉しいのは分かっているけれど、現像した後のデジタル化を考えると二の足を踏んでしまう方も多いのではないでしょうか。ほんの一昔前までは、フィルムスキャナーやフラットベッドスキャナーなどが各社からラインナップされていました。そしてフィルムが次々と生産終了となる中でスキャナーたちも姿を消してゆき、今や新品で買えるものは数える程しかありません。しかし、まだ手はあります。お手持ちのデジカメで、フィルム自体を撮影してしまうのです。フィルム時代、デュープ(dupe)という手法がありました。duplication(複製)の略語で、フィルムの1コマをそのままマクロレンズで撮影し別のフィルムに焼き付けることで、同じコマを複製するというものです。もちろん全く同じ画質というわけにはいきませんが、貴重なスライドなどのバックアップとしても使われた方法です。これと同じことが、デジタルカメラではいとも簡単にできてしまいます。ライブビューが可能なものであれば、背面液晶でピントや露出、ホワイトバランスなどをリアルタイムに確認しながらできちゃうのですから、これを使わない手はないわけです。今回は手前味噌ではありますが、スライドフィルムを使ったお財布に優しい方法をご紹介いたします。
( Photography & Text : TAK )
1. 準備
用意するものはデジタルカメラ(レンズ交換式)、マクロレンズ、コピースタンド、LEDビュアー(ライトボックス)、デュープするスライドです。
デジタルカメラはライブビューが可能なものが理想です。マクロレンズは35mm判換算で標準、中望遠のものがよいでしょう。今回はマニュアルフォーカスのマクロレンズをアダプター経由でミラーレスカメラに装着しています。
コピースタンドを使うことでフィルム面とセンサー面の平行性を簡単に確保できます。
フィルムはマウントにした方が扱い易いです。35mmなら現像時にマウント仕上げにしてもらえますし、6x4.5、6x6、6x7などは専用のマウントを使ってご自分でスライドを作ることができます。
2. 機材のセッティング
三脚穴を介してカメラをコピースタンドに装着します。フィルム面とセンサー面が平行になっている必要がありますから、カメラ、レンズがきっちりと真下を向くように装着してください。
LEDビュアーをコピースタンドの台座の上に置きます。
カメラとLEDビュアーの電源を入れ、背面液晶を見ながらスライドを大体真ん中に来るように置きます。微調整はスライドではなく、LEDビュアーごと動かした方がやり易いです。
3. ピント合わせ
背面液晶を見ながらコピースタンドとレンズのフォーカスリングを調整して、スライドに大まかなピントを合わせます。スライド全体がより大きく見えつつピントも合う位置がありますので、それを探します。画面いっぱいになる少し手前で止めるくらいがベストでしょう。
なお、ご使用のカメラのセンサー、レンズ、フィルムサイズによっては中間リングが必要になる場合もあります。レンズの最短撮影距離など、機材の諸元をご確認ください。
背面液晶の拡大表示を使って、ピント部が一番シャープに見えるように合わせていきます。スキャナーだとモデルによってはピントが甘い、ピント調整もできない、やろうと思っても時間がかかることもありましたが、デジタルデュープなら自由自在なのです。絞り値については、この環境においてはF8あたりが最もシャープでした。
次にカメラのホワイトバランスを設定します。スライドと液晶の画像を見比べながら調整します。オートで間に合うことも多いのですが、スライドの見た目と違って見える場合はマニュアルで色温度を調整していきます。ちなみにこちらの「フジカラー LEDビュアープロ [4×5]」の光源の相関色温度は「4740~5310ケルビン」となっていますので、ケルビン(K)の指定ができるカメラであればその範囲内に設定しておいても良いでしょう。
以上で撮影前の設定は完了です。ブロアーなどでホコリを除去しておきましょう。
4. いよいよデュープ!
といきたいところですが、その前にフィルム面が外光を反射していないかご確認ください。暗室内であれば心配ないのですが、遮光性の高いカーテンで部屋を暗くする方法もあります(説明のために明るい環境でお見せしています)。さらにお手軽な方法としては、無光沢の黒い紙でレンズを囲みゴムシートでカメラ周りを覆うのも効果があります。ちなみに布で覆うとクタッとなり過ぎてレンズを囲む紙に触れてズレてしまうことがあったので、ゴムシートに落ち着きました。いずれにしても室内は暗いに越したことはありません。
さあ、いよいよデュープ開始です。タイマー撮影が確実でしょう。レリーズケーブルも使っても良いですが、その際は機材周りに当たらないようご注意ください。
あっという間でしょ?スキャナーがウィ~ンと言い始める頃には既に終わっているのです。
5. データの編集
デュープ作業が終わったらデータをPCに移し編集します。こちらの画像は、1:1フォーマットを2:3比率のカメラ(2400万画素)でデュープしたものです。センサーの1/3以上のピクセルが無駄になってしまっているのですが、それでも原版が6x6cmのフィルムですし、元が2400万画素ですからかなりの高画質が得られます。画像をクリックで原寸大のJPEG画像(ストレート現像)をご覧いただけますのでご覧ください。ピント部の自然なシャープネス、立体感、階調の幅など、中判フィルムの底力を感じていただけるかと思います。ちなみにこのスライド、ちょっと傾いていますが、どのみち最終調整するので良いのです。あまり神経質になりすぎないのもアナログを楽しむ秘訣ということで。
データをPCに移したら画像編集ソフトウェアで仕上げていきます。LEDビュアーに照らされたスライドの見た目に近づけていくのが基本ですが、この「手本」があるのが心強いのです(反面ネガフィルムはそれ自体を見ても色が全く分かりませんので難しいものがあり、特にカラーネガフィルムに関してはいまだにお見せできるレベルには達しておりません)。カメラの液晶とPCのモニターとで色温度などが違って見える場合も、ここでしっかりと調整します。気になるホコリも修正しておきましょう。
こちらが編集後の画像です。ね、十分でしょう?
本来スライドはルーペや映写機で直接見るのが一番美しいですし、そういった目的で開発されています。実際、スライドをデジタルデュープした画像と、同じ被写体を同じデジタルカメラでそのまま撮った画像には違いがあります。解像感という要素ではデジタルに分があるようですが、だからと言ってフィルムが劣っているわけではありません。あくまで持論ですが、解像感というより「解像性」が違うのだと思います。また、シャドウを基準に露出を合わせてデュープ画像を作る時、デュープではハイライト側が飛んで見えてもスライドでは飛んでいない、なんてこともよくあります。これはフィルム時代から同じなのですが、デュープするとどうしてもコントラストが増し、硬めの調子になってしまう傾向があります。その辺りの調整も含め中々奥が深いのですが、そこがまた面白いところでもあります。そもそもフィルムとセンサーでは仕組みが全く異なるのですから、簡単に比較なんてできませんよね。
ちなみに35mmスライドであれば、ニコンの「ES-1スライドコピーアダプター」という大変便利なアクセサリーを使って、さらに簡単にデュープできます。
レンズのフィルター枠(52mm)に取りつけて使用することで、部屋を暗くしなくてもスライドを撮影できます。メーカー推奨レンズは、「マイクロニッコール55mmF2.8S(PK-13併用)、AFマイクロニッコール60mmF2.8D(BR-5リング併用)」となっておりますが、今回はマウントアダプターや接写リングなどのアクセサリーを併用しています。色んなものを組みわせて試行錯誤するのも写真の楽しみですよね。
何の変哲も無い被写体で申し訳ありません。スライドを見た時にあまりのシャープさにゾクッとした覚えがありまして、その感じがデュープでも出せるか試してみたのですが、ちゃんと出ていますね。元祖「フルサイズ」、ここにあり。とはいえこうした比較ができるのも「デジタルさまさま」なのです。
このアウトフォーカス部のモゾモゾッとした感じ。デジタルのようにスコーンと抜けないからこそ、空気の奥行きを感じるのですよね。
今こそフィルムをデジタルでも。
ハイブリッドに写真を楽しもう。
いかがでしょうか。フィルムかデジタルか、ではなくフィルムをデジタルでも気軽に楽しんでしまう技、それがデジタルデュープなのです。もちろん欠点もあります。フィルム自体の平面性やホコリなど細かいことを言えば完璧ではないでしょう。とはいえ、ウェブ上での公開には十二分のクオリティーではないでしょうか。ちなみにこのコラムで公開している全てのショットはこの方法でデジタル化したものです。最終出力はデジタルなのにもかかわらず、フィルムらしさがちゃんと出ているのですから面白いですよね。
100年を超える歴史を持つフィルムの絵作りには、デジタル主流と言われる今もなお、理屈抜きで感情を揺さぶるものがあります。デジタル化の手段が限られているというだけで眠らせておくのは、あまりにももったいない。デジタルもフィルムもある今だからこそ、どちらも使える贅沢が味わえます。そんな豊かな写真ライフを、デジタルデュープで謳歌してみませんか。
( 2017.09.07 )