PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
じぶん史上最高の写真集
#9 BEFORE THEY PASS AWAY / JIMMY NELSON
Text by Serow
写真のパワーというのは被写体そのもの、すなわちそこに何が写っているかにあると思います。何をどう撮るかということに写真家のすがたが出るとはいえ、最初から「誰がそれを写したか」を気にして写真を見たりはしません。写っているものに興味があるから写真集を手にする。写真から目が離せなくなって思わず手に取る。出会いはそういうものだと思いますし、それが写真というものの凄さだと思います。
「BEFORE THEY PASS AWAY」は世界の少数部族を題材とした写真家ジミー・ネルソンの作品。失われつつある文化・風習を惜しむように、世界の部族の姿を収めた写真集です。
百聞は一見にしかずという言葉がすべてでしょう。ページをめくるごとに見たことのなかった人々の姿を目にして、思考は停止せざるを得ません。こんな場所に暮らす人々がいるのか、こんな服装や生活スタイルがあるのかと。誰もが似たような生活様式を手に入れた現代、当たり前と思っていたことが見事に打ち砕かれていきます。
被写体となる人々について、セクションの冒頭に簡潔なテキストでまとめられているのですが、まずは美しい写真の数々に見入ってしまいましょう。土地・暮らし・風習を象徴するようにきちんと作り込まれた写真ですから、じっくり見るほどに手がかりが表れます。たとえば雄大な山々、力強い馬、腕に止まる鷹。身につけた衣類からその場所の空気を想像できるでしょうか。彼らはどんな環境のなかで、どんな生き方をしてきたのでしょう。
個人的な経験をいえば、大学で文化人類学を学んだことで世界の見え方が一変してしまいました。思い知らされたのは、私たちの「ふつう」が一文化あるいは一時点でのふつうでしかないということ。育ててしまった固定観念を晴らしてくれるのは知識です。本で得られる刺激を一発で与えてしまうのだから、やはり写真というのは面白いですね。自分の想像力をかるく超えた人々のすがたに、なんだかうれしくなる一冊でした。
( 2020.06.24 )
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Text by Serow
人類の多様性を見せつけられるパワフルな作品。彼らの中に入って信頼を得る、フィールドワークの結晶です。
文化人類学の名著といえばこれ。貨幣経済を当たり前と思う私たちに強烈な一撃を。