PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
じぶん史上最高の写真集
#5 Instant Light / Tarkovsky Polaroids
Text by TA
皆さまお変わりありませんか。じぶん史上最高の写真集を一冊ずつ紹介していくこの企画も第5回目となりました。実は「じぶん史上最高の」という点で考えると一冊に絞るのがとても難しかったのですが、家で静かに過ごす時間が増えた今、手に取りたい写真集はなんだろうかと考えたら、この一冊しかありませんでした。アンドレイ・タルコフスキーの「Instant Light」です。本書はなんとも言えない心地よさがあって、時折ゆっくり浸りたくなる。そんな一冊です。
タルコフスキーは、映画「惑星ソラリス」などで有名なロシアの映画監督です。この「Instant Light」は、タルコフスキーが生前ポラロイドカメラで撮影した60点の写真を収載しています。巨匠トニーノ・グエッラ(脚本家)の序文から始まり、前半は生活の拠点であったロシア、そして後半は映画撮影地にもなったイタリア。2つの思い入れのある土地で撮影された写真で構成されています。ポラロイド写真の原寸を生かしたレイアウトとなっていて余白が多いのですが、この余白が、より心地良さを感じる所以でしょうか。恣意的なものは何も感じない、ただただ静かで美しい映像の数々。写っているのはタルコフスキーの家族や愛犬、街、映画のロケ地探しで訪れた場所など。外行きの顔というよりは気取りのないタルコフスキーの日常、その瞬間の光景をそのまま切り取ったかのような写真が散りばめられています。また、タルコフスキーの世界観がフィルムでもデジタルでもないポラロイドカメラ独特の色調や儚さにとても合っていて、一枚の写真がそれぞれ印象深い作品となっています。グエッラの序文によると、タルコフスキーは当時手に入れたポラロイドカメラを持って楽しそうにしていたそうです。その光景が目に浮かぶような、そんな愛らしさも感じられる写真集です。
昔は世界中の写真集が一同に並んでいるお店に良く出かけていました。それまで気にもとめてなかった写真に、手や心が止まったりする思いがけない出会があり、それが面白くて。その時出会ったのがこの「Instant Light」です。初めてこの本を手にした時、作者とは生きている国も文化も違うのに、シンクロ率100パーセントを超えて作品に没頭している自分にハッとしました。いつか何処かで見た風景を思わせるような郷愁が切なさを呼び、すっかり心を奪われてしまったのを昨日のことのように覚えています。以降、ポラロイドカメラで撮影された写真集にはまって何冊か購入したのはもちろんのこと、当然の流れか、気づけばポラロイドカメラも手にしていました。
本書に触れていると、ある一人の画家がどうしても脳裏に浮かびます。アンドリュー・ワイエスです。それはもう大好きな画家で、写真の構図なんかはワイエスの影響をかなり受けているかもしれません。儚さと耽美な画の中に、ヒト・コト・モノ全てを慈しむ心。反面、無情なまでもリアルを追求する姿勢。ともすれば相反するものを同時にいくつも持ちあわせている。そんな印象をワイエスの作品に抱くのですが、タルコフスキーとワイエスの両者にはどこか通じるものを感じてなりません。自分の中でこの両者が線で結ばれた時、自分の「好き」は、どこまでいってもやはり「好き」なのだなあと再認識した次第です。
( 2020.05.27 )
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現在「Instant Light」はヨドバシカメラでのお取り扱いがありませんが、こちらのワイエスの作品集はご購入頂けます。ワイエスの初期から晩年までの代表作をバランスよく網羅した一冊。作品の背景や技法などの解説も充実していて作品への理解が深まります。ワイエスを知るにはまずはこの一冊をおすすめしたいです。
現在所有している二眼レフインスタントカメラです。絞り値は4段階に可変可能で、露出調整機構バルブ・多重露光撮影まで可能な本格派二眼レフインスタントカメラです。気軽に撮れて、その場で撮った写真を手軽に共有できるのもインスタントカメラの魅力ですが、写真本来の楽しさを再確認させてくれたのがインスタントカメラでした。
ビーハーフ MiNT ミント インスタントフレックスTL70で使えるモノクロフィルムです。
ビーハーフ MiNT ミント インスタントフレックスTL70で使えるカラーフィルムです。