PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
じぶん史上最高の写真集
#4 浅田家 / 浅田政志
Text by TAK
「史上最高」を選べるほど数多くの写真集を見てきたわけではないのですが、「浅田家」は見てすぐに涙が出た一冊です。一言で言うならば「ロールプレイング家族写真」になるでしょうか。おおよそ芸術というものには、即効性の高いものもあれば、後でじわじわくるタイプもあります。この写真集はその両方です。第34回(2008年度)木村伊兵衛写真賞を受賞した作品で、作者自身を含む4人の家族(父、母、兄、本人)が様々な役を演じています。初めは目新しさや面白さでニヤニヤしながら見るのですが、ページをめくるほどに自然と涙がこみ上げてくるのです。頭で理解するよりも、身体が先に反応して涙が出てくる類の涙です。感動まで一切の言葉や共感が不要。向こうから全部やって来るので眺めているだけで心が動くのですが、これが写真の持つ力なんだなと思えてくるのです。
本書は両側とも表紙になる構成で、真ん中に黄色のページがあり「あとがき」のような内容になっているので、どちら側からも読めます。赤い表紙からめくっていくと、飲んだくれの職場の同僚、スナック、ロックバンド、海女、食堂、あるいは泥棒など、数えてみると40以上のシーンが1枚ずつ収録されています。普通の(何が普通か分かりませんが)人生を歩んでいれば、大体見たり体験したことがあるようなシーンです。設定もかなり細かく練られていて、演技も相当気合が入っています。個性を消して役に徹していますね。「いるいる、こういう人!」と言いながら、次はどんな写真かなとページをめくるのが楽しくなります。
一生懸命「演技指導」したんだろうなと思うとクスッと笑ってしまうのですが、中には葬式のシーンもあったり。いつか必ずやってくる日を想像して思わず涙が出たかも?なんて想像しながら見ていると、なんだかこちらの涙腺が緩んだような気が。あとがきの後は、いわゆる「普通」の家族スナップなどメイキング映像的な写真たちが並ぶのですが、全員の手が組まれている一枚を見て涙腺崩壊。みんなで「よし行くぞ!」とか言ったんだろうなと思うとね、もうダメです。途中に空や4羽の水鳥の写真なども散りばめてあり、これもまた示唆に富んでいて輝いています。
こちらの青い方がもう一つの表紙です。こちらから見始めてもまた違った味わい方が出来るので、2倍楽しめますよ。家族写真も様々なアプローチがあると思いますが、一番大切なのは撮影時のコミュニケーション。この迫真の演技も撮り手が指示するだけではなく、家族みんなでああだこうだ言いながら作り上げていったはずです。もうそのことだけで愛おしい。
お母さんは当初は嫌がったかもしれませんが、息子の頼みだからと心を決めたのでしょうか。お父さんは意外にノリノリで、お兄さんは「まあええんちゃう?」と。それぞれの人脈も使ってロケ場所や小道具を押さえ、関係者の協力を仰ぎ、ロケ計画を練りに練って、実行して、仕上がりを見て撮り直したりもしたのでしょうか。この家族は元々仲が良いのかもしれませんし、これを機に更に絆が深まったことでしょう。完成まで相当の時間と労力を要したはずですが、段々と演技が演技を超えて生活の一部になったかもしれません。
、、、などというのはあくまで想像でしかありませんが、写真を見ているだけで色んな想像や感情が湧き上がってきます。そして、そんな気持ちになるだけで幸せになります。これ以上は無粋ですので申しません。とにかく感動まで一切の努力を必要としない写真集です。と書いていたらなんだか自分も家族写真を撮りたくなってきまして、「でっかいサイズのフィルムが良いかも」と考えています。
*ちなみに「浅田家」を原案とした映画「浅田家!」が製作中で(中野量太監督)、2020年10月2日公開とのことです(5月時点での情報)。
( 2020.05.20 )
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家族のかたちは様々。一番身近で、究極のテーマなのかもしれません。
表紙に、特集に、浅田家が登場しています。
ポートラ、まだあります。家族写真もフィルムも、今が旬ですよ。
バイテンでモノクロ。素敵にもほどがあります。