PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
じぶん史上最高の写真集
#2 WINDS / 浅井愼平
Text by A.Inden
学生時代、月の家賃12,000円、風呂なし共同トイレに住んでいる身分で10,000円もする写真集を手に入れるのは、清水の舞台から飛びおりた気分だったことを覚えています。今でもよく買ったなと。きっと作者直筆の綺麗な水色のサインが背中を押してくれたのかもしれませんね。
「自分がいちばん好きな写真集を順番に紹介する」という企画の2番手はA.Inden。紹介するのは生まれて初めて買った写真集です。大袈裟な言い方かもしれませんが自分の生き方のスタイルを決めるぐらい影響を受けました。
高校時代に山岳写真に憧れ、広大な雪景色を撮影できる大学へ。高山植物を撮るため大雪山縦走と山岳写真生活に明け暮れていました。望んだ通りの写真生活(勉強はそっちのけで)だったのですが、ある日ふと、本当に突然に、南の海への憧れが芽生えてきてしまったのです。そこにとどめを刺したのが、地下街に貼られていたB倍のファッションブランド「ジャンセン」のポスターとの出会い。
サーファーがきれいな波に乗っている全面写真の真ん中に、社名だけが入ったこのポスターを見た瞬間「あっ」と魅せられてしまったのです。そして、一瞬で心を虜にする写真ってすごいなと。写真で何かを伝えられたらいいなという思いが、沸々と湧き上がってきたことを何十年も経った今も鮮明に覚えています
その後どうしてもフォトグラファーの名前が知りたく、「コマーシャル・フォト」(コマーシャルの世界を中心に編集している月刊紙)から探し出し、知ることができました。しかしポスターの写真が掲載された写真集がなく2年後にやっと手に入れたのがこの写真集です。
タイトルは「WINDS — 風の絵葉書」 photography by 浅井慎平
お目当てのサーファーの写真はもちろんですが、世界各国の何気ない風景が、フォトグラファーの感性を纏ってさりげなく撮られ、早足で歩くように切り取られたストリートフォトは、爽やかな風を運んでくるようでした。普通の風景を普通に撮る、でも何か感じさせられる写真。こんなふうに写真が撮れたら、こんなふうに写真を見る人に何かを運んでいけたらいいなと。つまり、なぜ写真を撮るのかという答えのようなものをこの写真集が教えてくれたように思えます。
今回の企画のおかげで久々に手にしてビックリしてしまったのですが、日頃自分が撮っている写真にとてもよく似ているではありませんか。画面を傾ける角度まで同じとは、どこまで深く心に刻まれてしまったのでしょうか。一枚のポスターから写真集にたどり着きその写真達に影響を受け続ける。そんなこともあるのですね。
STAY HOME、こんな時期だからこそお気に入りの写真集を探してみてはいかがでしょうか。衝撃の出会いがあるかもしれませんよ。
( 2020.05.08 )
記事の一覧
- #1
Cafe Lehmitz / Anders Petersen
Text by NB - #2
WINDS / 浅井愼平
Text by A.Inden - #3
PERSONA 最終章 / 鬼海弘雄
Text by Rica - #4
浅田家 / 浅田政志
Text by TAK - #5
Instant Light / Tarkovsky Polaroids
Text by TA - #6
SUWA / 小林紀晴
Text by Naz - #7
永遠のソール・ライター / Saul Leiter
Text by Z II - #8
umep / 梅 佳代
Text by KIMURAX - #9
BEFORE THEY PASS AWAY / JIMMY NELSON
Text by Serow - #10
ON READING / Kertész Andor
Text by Serow
広告の写真は誰が撮影したかわからないもの。好きなポスターから写真集にたどり着く、そんな手助けになる雑誌です。
コダクロームは随分昔に生産終了してしまいましたが、まだコダックのリバーサルフィルムは健在です。
波の音だけが入っているCD。LPで持っていますが、これを聞きなながらの昼寝は最高です。
浅井慎平監督作品。内容には賛否両論ありましたが、タモリ、山下洋輔、桃井かおりという個性のあるキャストが見もの。