PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
格好いい写真を目指すあまり、明るい単焦点レンズを手に入れた佐藤さん。いよいよレンズ沼に足を踏み入れようというところでしょうか。趣味の食べ歩きやプライベートでのバイクツーリングを減らして資金を工面しているとかいないとか。さて今回はどんな質問が出るのでしょうか。
(文:Z II)
質問者は、日頃から趣味のバイクでお付き合いのある佐藤剛史さん。30代独身。BMWモトラッドさいたまシティ店の営業マン。趣味は食べ歩きとバイクツーリング。愛用のカメラ機材はFUJIFILM X-S10ダブルズームキットと、最近購入したFX56mmF1.2 R WRです。
今回の質問
どうすればこんなふうに撮れますか?
上の写真はPY編集部Kが撮ったものですが、これを見て「どうすればこんなふうに撮れるのかな」と佐藤さんは思ったようです。そうそう、私たちもそんなふうに思うことはよくありました。思い返せば自分でも、いいなと思う写真を見ると、機材は何を使っているのだろう?とか、この場所はどこなのだろう?と想像したものです。今回は撮った本人に直接聞いてみれば手っ取り早く疑問が解消するのではと編集員Kに直接聞いてみました。
真似してもいいんです!
佐藤さん、とりあえず真似してみたい写真を、できる範囲で真似してみるといいですよ。
いや実は、真似して撮ってみたいのです。ただ、あからさまに「真似してみました!」というのも、学生の時にノートを丸写しみたいで恥ずかしい気持ちになるのですよね。
気持ちはわかりますが、全く恥ずかしがることなんかないですよ。私なんか写真をはじめた頃は「いいな」と思う人の写真を真似しまくりましたよ!おそらく皆んな誰しもそうじゃないかなあ。そもそも今も昔も、ネットやら雑誌にこれだけ写真が溢れているのに影響を受けてないわけがないと思います。
確かに言われてみればそうですよね。なんだか目から鱗です。真似しちゃっていいんですね!
はい、いいと思います。最初は物真似でもよいと思います。どんどんやってみましょう!といったものの、実は物真似って難しいですよ。場所とレンズの焦点距離だけならまだしも、刻々と変化する光の条件や湿度、カメラ機材を全て同じにするなんて大変すぎるでしょう?
考えてみれば確かにそうですね・・。あ、そうか。いまのお話から「良いな」と思った写真を見て「どうやって撮っているのか」を事細かに分析すると、その「良いな」に近づいていけるということですか。
私なんて、最初は「良いな」と思う写真と同じような雰囲気で撮れないかなあと、闇雲にシャッターを切ってました。これがなかなか同じようにならない(笑)、当たり前ですよね。写真がどのように構成されるか因数分解できればよいのですが、なにせロクに何もかも分かってないわけですから。
いまの私がまさにその状態です!
そうですか。ならば近道になるかはともかく、まずは同じように撮ってみましょうよ。
<こんな場所でトライ>
そんなわけで、佐藤さんはFUJIFILM X-S10に買ったばかりのXF56mmF1.2 R WRを携えて愛車と共にKと撮影に出かけました。冒頭の写真と同じ場所でもよかったのですが、かなり遠いので、近場の行き慣れた場所で撮影をスタート。
佐藤さんもそうだと思うのですが私は車が大好きです。走らせるのはもちろん、眺めるのも。広い駐車場に停めた時に離れた位置から眺めてニヤニヤしたり。
めっちゃわかります。私の場合、後ろから見るのも好きですが、やっぱり顔(前)かな〜、横からも好きだなあ。
いいですね!正しい車好きの反応です(笑)。皆んなそれぞれ愛車の「いいな」と思うところがあるはずです。今回は佐藤さんが気にいってくれた写真とは場所も状況も違うので、元の写真のことは少し意識する程度で真似にこだわらず、いいなと思うところでシャッターを切ってみましょうか。
ちなみになのですが、(冒頭の)私が真似したいあの写真はあんなふうに暗い場所で光が射し込む状況だったという事ですか?
そう。厳密には、写真のような仕上がりになる場所に車を置いたのです。事細かに説明する前に、まぁとりあえず撮ってみましょう。
佐藤さんに自由に撮ってもらいました。意識しなくていいと言われても意識してしまいますよね。ボディを暗く落としたかった意図は感じますが、なかなか思うようにいかないようです。
全然似た感じにならないなあ、こうじゃない。Kさんの写真を意識して日陰にクルマを置きファインダーを見ながら露出補正をしたのですが、近い感じになりません。
私が撮ったものと比べると何が違うか、ちょっと考えてみましょうか。何が違うと思いますか?
場所というか背景が違うのもありますが、この場所で撮るとどうしても空が入るので、似た感じにならないです。
確かにそうですね。では、車だけ見て違うところはありますか?
あ! Kさんの写真には車にだけ光が。
そうですよね。それが大きな違いですね。実は、このカットを撮る前に何カットも違うカットを撮っていて、佐藤さんが今回撮ったような後ろにハイライトのあるカットもあったのです。それで、最終的には画面内に他の光が無い構成でまとめられる場所に車を移動して撮影しました。
なるほど〜。ああ、そうか。そうすると、車のシルエットにハイライトがきわ立つのですね。
そういうことです。車を見てカッコいいなあと思うときって、その車が持つ曲線とかだったりしません?
確かに! リヤのフェンダーやヘッドライトなどの曲線がたまらなくカッコよくて好きです。
そうそう。そのことだけに一点注力した、まさに車オタクなカットなんですよ。「うっわ〜かっけええ!」と自分が思う瞬間を再現すべく、そういうのが強調されやすい場所に車をわざわざ動かして撮影しました。ある意味、見る側のことなんて考えちゃいない、自己満足なカットなのです(笑)
なるほど〜。ちなみになのですが、普通に撮ってもこんなに暗くならないですよね?マイナス補正をしているとか?
そうですね、露出の補正は割と小まめに変えて撮影することが多いですよ。現場では、これでもか!というぐらいマイナス補正しています。よく見るとわかるのですがボディカラーは白。だからこそ、背景は真っ黒に潰れるぐらいマイナス補正が掛けられるのです。実際の背景は、草むらだの金網だのあるのですが、黒く塗りつぶせます。これが黒ボディだと、全体が黒くなりすぎてしまいカッコよさが伝わらないと思うので全然違う撮り方を考えたと思いますね。
そうか、もし同じ場所で私の車を撮ってもシルバーだから似た感じにはならないのですね。今この場所だと同じように撮るのは難しいでしょうか?
そうですね。もっと引きが利いて、望遠レンズであれば橋桁のシャドウを使ってやれなくもないですが。佐藤さんは「XF56mmF1.2 R WR」一択となると、ちょっとアプローチを変えるほうがいいかも。
Kさんの写真は、かなりローアングルで撮られているので、そこだけちょっと真似して撮ってみます。
佐藤さんが再度撮影した画像です。
考えるって面白い
カッコいいじゃないですか!まず、見せたいリヤに光が回っていて、サイドを落としながらもきれいにハイライトが入りメリハリが効いています。そして明るいレンズの特性を活かし背景をぼかすことで分離し、よりきわ立っています。佐藤さんの見せたいポイントがストレートに伝わってきますよ。佐藤さんも手応えあったのではないですか?これはどう撮ろうと考えたのですか?
Kさんにカッコいいと言われると、本当に嬉しいです。でも特に深く考えていません。Kさんのカットのようにローアングルを意識し、しゃがんだ状態で車の周りを2〜3週まわって、お!ここだと思いシャッターを切りました。
今、深く考えていないとおっしゃいましたが、実はちゃんと考えているのですよ。つまり真似の元になる画像が頭にあり、そこに近づけるにはと思考し無限にある撮影アングルから、これだ!と選び出したのですから。
はあ、実感はないですが、自分の車をあのイメージで撮ってみたい。ただただカッコよく撮りたいというのはありました。
ほら、それは考えて撮っているのですよ。こういう事を何度もやっていると、カッコよく撮れる場所の法則というか条件みたいなことが自然と見えてくると思います。そうなると、車を置く場所から考え始めるようになりますよ。もちろんそれには何度も何度もやらないとですけどね。
なるほど、そうなると場所と光の状態を見れば、撮る前に撮れるカットが見えるみたいな感じですか?
そう、ある程度ですけどね。
それはすごいなあ。まるで未来予想ですよ。
考えるって面白いんですよね。真似って、それの本当にいい材料だと思います。写真を見て、この人は何を考えてこう撮ったんだろうと考えたり。自分がこの現場に居たら、どう撮るかなあ、とか。こんな風には撮れない(思いつかない)なあとか。
ふと思ったのですが、いろんな人のいいなと思うところの真似をしているうちに、自分だったらこうしたい!みたいなものが芽生えてくるもんなんですか?
そうだと思いますよ。想像ですけどね、どんな有名な方でも、必ず憧れみたいな人が居たと思いますよ。それを真似して、真似して、みたいな。でも、元となる人の作風みたいなのがあからさまには見えない。オリジナルって、そこからが始まりなんじゃないかなあ。
いや〜真似するってこんなに奥深いことだったのかと初めて知りました。人の写真や「真似る」ということを、そんな観点で捉えたことがなかったものですから、なるほど・・。なんだか写真を見るのも楽しくなりそうです!
バンバン真似すればいいと思います。楽しいですよ!
はい。バンバンやります!(笑)ところで、Kさんが真似してきた人たちって居ますか?
私は雑食で(笑)その時代・時代で、色んな人から影響受けましたよ。ただ、いわゆる写真の作家さんだけでなく、広告の世界とか、報道の世界、写真じゃないけどグラフィックデザインや、映画の1シーンとか、もうありとあらゆるものから。そうだなあ、写真家さんだと、超有名どころだと一通り真似してみたけど、たとえばアンリ・カルティエ・ブレッソンさんとか、変わったところ?だと、芸術家である岡本太郎さんの撮る写真とか。人の写真を見るって楽しいですからね。ぜひ、いろんな写真を見てください。いいなと思ったら、やってみる。これも実に楽しい。真似を意識したからこそ辿り着けるともいえるわけですよね。おもしろいでしょう?
みんな通る路なんですね〜。車とバイクの写真以外にあまり興味なかったのですが、今出てきた人の作品も見てみたくなりました。
ぜひぜひ。今までと見方が変わるはずだし、真似をしたくなったらやってみる。簡単に真似できないから、また考える。うまくそれに近づいたと思えたら楽しいじゃないですか。そうしていると例えば、好きな写真が出てきて、どうしても真似をしたい。でも機材はGFXを使っている・・。なんてこともあるでしょう。もしそうなったらこの写真を真似するには絶対に必要なのだから買うしかない!と、買うための口実ができてしまうのですよ。
え?まさかKさんもそうやって機材が増えていったのですか?
御名答!機材を買った時点で、もう撮れた気になるから恐ろしい(笑)。
うわ〜そこは聞かなきゃよかった。
まだまだ! まだ君は沼の入り口にも立っていない!
しょ、精進いたします。。。
( 2023.09.12 )
F2.8クラスの200mm相当なら、これ一択。少々値は張りますがクルマやバイクを撮る際にもってこいです。
もっと先の望遠の世界をのぞいてみたくなったら最新のこちらをおすすめします。モータースポーツから飛行機まで狙えます。
佐藤さんがお持ちのX-S10の後継機はさらに使い勝手がよくなっています。
いつかはラージフォーマットに。このボディでしか撮れない画は間違いなくあります。
20世紀を代表する写真家の作品を見るだけでもよいですし、何か感じるものがあれば真似してみるのもよいでしょう。
せっかくなので突き抜けた芸術も見ておきましょう。