PHOTO YODOBASHI
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LEICA SUMMILUX-M 90mm F1.5 ASPH.
現行のライカMマウント用90mmレンズの中で最も明るいF値となる「SUMMILUX-M 90mm F1.5 ASPH.」が昨年末にリリースされました。外径74mmのズドンとしたシンプルなフォルムは、先行していた「NOCTILUX-M 75mm F1.25 ASPH.」とまさに瓜二つ。全長も同じ91mmですからね。同様にダブルヘリコイドを用いたいフローティング機構を組み込み、収差を徹底的に抑え込んでいるとのこと。重さは1010gと現代的なスッキリとしたフォルムながら確かな手応えがあり、ぎっちりと贅沢なものが詰まっているなぁという印象。メーカーアナウンスを引用させていただくと「MTF特性図では、被写体までの距離に関係なく、レンズは絞り開放から非常にシャープにコントラスト豊かにディテールまで忠実に再現できるという特性を示し」との記載が。世の中によく写るレンズは数あれど、ライカのレンズにあっては、さらにそれらの上を行くような深みというか味わいをも期待してしまうのですよね。データには表れない何かを。そんな期待を大きく膨らませつつ、ちょっと肩の力を抜いてスナップ撮影からのスタート。もちろん、全カット絞り開放で試写してまいりましたのでどうぞご覧ください。
( Photography : A.Inden / Text : KIMURAX )
絹糸を紡いだような描写
「新しいレンズの試写したんやけど、名前を忘れてもーたんや」「ほなら一緒に思い出そうや、なんか覚えてへん」「ライカで開放値がF1.5やねん」「そりゃズマリットやね。ライカはノクチルックスとかエルマーとかちょっと怪しいのはあるねんけど、開放値でレンズの名前が決まってるから。特にズミクロンやズミルックスは、全くブレがないからなー」「そう思てんけどな、なんかレンズの前にSUMMILUX-M 90mm F1.5とか書いてあった気が・・・」「そりゃーおかしいやろ、ズミルックスはF1.4と神様が決めはったんやから、たった0.1の違いかも知れへんけどF1.5に付けるのは間違うとる。真面目なドイツ人とは思われへん暴挙や!」そうですよね、ズミルックス信者の皆様方におかれましては、間髪入れずに突っ込みたくなったのではないでしょうか?そんな漫才師みたいなやり取りを夢想しつつ、私も心の中で何度も突っ込みました(笑)。
「なぜズミルックスなのか」この大きな命題を携え、丸一日どっぷりと試写したことで、なるほどと納得できました。本レンズの描写は一言で言えば繊細、それも絹糸を紡いだようなディテールで柔らかく光を表現しているのです。”繊細で柔らか”、それは、ズミルックスと名付けられたレンズの持つ味。味付けで料理が決まるように、レンズのセレクトで写真の雰囲気は決まってくると思います。作例を見ていただくとお分かりいただけたのではないか思いますが、本レンズの雰囲気はまさにズミルックス、それも繊細さと柔らかさを上品にブラッシュアップした写りではないでしょうか。光の境目が見せる美しい旋律を感じてください。
ライブビューで濡れた砂浜に映り込んだ雲の位置を計算しながら撮影。開放のピントピークはシャープですが、エッジが立つ感じではなく豊富な諧調がもたらす立体感で解像感を出している印象です。
レンジファインダーのメリットはシャッターを切った瞬間の画が確認できることです。動きのある被写体を狙うときはシンプルにレンジファインダーを使います。シャッターの音とトンビが獲物を狙った瞬間の目の動きが重なった時、写っているという確信が持てました。その瞬間はまさに快感ですね。
窓に写った風景と、お店の中に立てかけられた雑誌のボケ具合のバランスをライブビューで確認しながら撮影。ライカもライブビューが使えるようになってから、中望遠の大口径レンズの使い勝手が良くなりました。
中望遠大口径レンズにしては背景のボケが崩れていません。その雰囲気が、今風の大きくボケていくレンズと違いクラシカルな雰囲気を醸し出しています。
ライカのレンズを試写する時ついつい描写の癖を探してしまうのですが、本レンズではほとんど見つけられず。唯一、開放で露出オーバーにすると若干にじみのようなものを感じるぐらいでした。癖と言ってもそれが美しく感じてしまうのが、ライカマジックですね。
最短撮影距離で撮影。開放ですが少しアンダーな露出で撮ると、一つ上のカットと違い癖のようなものが感じられません。豊かな諧調と柔らかいボケ味で全体がしっとりとまとまっています。
二刀流で愉しむ。心躍る圧倒的な描画力と表現力。
NOCTILUX-M 75mm F1.25 ASPH.からわずか2年で、今回の中望遠大口径レンズSUMMILUX-M 90mm F1.5 ASPH.の投入。ライカの大口径シリーズの勢いが止まりません。確かにカメラのセンサーがCMOSになりライブビューが使えるようになったライカは、大口径レンズを使用するときのピント合わせが格段にやりやすくなりました。特にM10になってからはライブビューでピント位置も変えられるようになりましたからね。そのおかげで、ピント合わせの後少しフレーミングを変えることでピントがズレるコサイン誤差も考慮する必要がなくなりました。
今回使用したのはカメラマンの手に馴染みきったLEICA M (Typ240)。現代レンズの描写の違いを感じ取りたいからとのこと。やはりF1.5の開放で撮るには、ライカ ビゾフレックスを付けないと厳しいだろうと準備してから試写に出発。実際、正確なフレーミングを決めたりボケ味を確認したり細かなピント合わせをしたりと、ビゾフレックスは想像通りの活躍をみせてくれました。ただ撮っているうちにシャッターを押した瞬間のブラックアウトが気になり出したそうで。広角のときはあまり気にならなかったのですが、中望遠で被写体の動きを細かく追っていたからでしょうか。トンビを撮影しているとき思い切ってレンジファインダーで狙うことに。素通しのファインダーは美しく、トリミングされたように見える焦点距離の枠はフレーミング外でのトンビの動きを予測でき、そして再認識できたのが二重像合致式のピント合わせがスムーズに行えるではありませんか。一度味をしめてしまったらもうダメですね。スケボーの少年のカットはレンジファインダーオンリー。何度も練習している少年を寸分の違いもなく同じポーズでワンカットに収められています。ボケ味を見ながら構図を詰める、シャッターの瞬間をみる。そんな相反する望みを叶えてくれる中望遠大口径レンズとCMOSレンジファインダーの組み合わせは、最高の相性なのかもしれませんね。ところで、カメラマンが前のめりで撮影してきたことが伝わっているでしょうか?写欲が刺激されるレンズだからこそ、いろいろな撮影を試みたくなるものなのですよね。F1.5のズミルックスは、繊細で柔らかなシルキーな描写をもたらしてくれる、紛れもないズミルックスでした。それでもなおご納得いただけない方は、ぜひご自分で撮影されることをお勧めします。ご納得いただけた方は、こちらにて即決でよろしいかと。
( 2020.03.17 )
この描画力と表現力はやはりズミルックスの写りであります。絞り開放からその力を存分に発揮してくれる垂涎の一本。間違いのないお買い物です。
さらに明るい中望遠レンズもご入用でしたら、こちら75mmのNOCTILUXがございます。まだお持ちでない方は、SUMMILUXとドーンとご一緒にどうぞ。
保護するならやはりライカ純正フィルターで。SUMMILUX-M 90mm F1.5 ASPH.のほか、NOCTILUX-M 75mm F1.25 ASPH.とも共用できます。
開放F1.5ですからND4あたりがよろしいかと。これで絞り要らずに(笑)。
最新のライカMボディ。距離計精度もバッチリです。
ピントピークも見極めたい。ビゾフレックスが揃ってこそミラーレス一眼の本領発揮ではないでしょうか。※こちらはライカM10/M10-P用となります