PHOTO YODOBASHI
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Voigtlander NOKTON 50mm F1.5 Aspherical II VM SC
2020年10月に発売となりました、ライカMマウント向けの大口径標準レンズ「Voigtlander NOKTON 50mm F1.5 Aspherical II VM」の実写レビューをお届けします。同一レンズでシングルコーティングとマルチコーティングの2タイプが存在し、外装の材質と仕上げはアルミにアルマイト処理のシルバーまたはブラック、真鍮にブラックペイント×ニッケルメッキの3種類。合わせて計6種類が一気にラインアップされています。こちらのレビューでお届けするのはシングルコーティングのSC版です(マルチコーディングのMC版の実写レビューはこちらをご覧ください)。
スクリューマウント時代から含め、コシナのフォクトレンダーブランドから生まれた「50mm F1.5」というスペックでは本レンズが三世代目となります。前モデルと同様、クラシックで美しいスタイリングと最新の光学設計を組み合わせた"Vintage Line"のモデルとなり、特に真鍮鏡胴はブラックペイントにニッケルメッキとクラシカルで趣味性をより高めた1本となっています。一方で軽さを追求したアルミ鏡胴のモデルも実用性が高く、同じ製品ながらも違う魅力を持っています。
レンズの特徴について触れておきましょう。まず触れておきたいのが、50mm F1.5というスペックとしてはコンパクトかつ軽量であること。全て実測値となりますが、全長は36.5mm、重量は198g(真鍮鏡胴は256g)。LEICA SUMMILUX-M F1.4/50 ASPH.の52.5mm/331g(ブラックのアルミ鏡胴、フード組み込み)、Carl Zeiss C Sonnar T* 1,5/50の37mm/230gと類似スペックのレンズと比べてもよりコンパクト・軽量に仕上がっています。光学系は最新の設計を採用し、7群8枚構成の後玉には両面非球面レンズが採用され、絞り開放から優れた描写を誇り、絞り羽根は12枚、距離計連動による最短撮影距離は0.7m、フィルター枠は43mmとなっています。
( Photography & Text : Naz )
切り詰めた露出で鈍く光るビルの壁面と、窓ガラスに強く反射した青空を強調してみました。開放絞りからたいへんシャープで絞る必要を感じないほど。
ストリートスナップにおいて50mmレンズはシンプルで大胆さのある構図を作りやすい画角です。絞り値によって被写界深度は浅くも深くもできますから、撮り手の意図を表現しやすいレンズとなります。手摺りにピントを置いてタイミングを合わせましたが、このカットではF4まで絞ったため、人物と背景を分離するのに十分な被写界深度に収めながら画面隅々まで安定した描写も得られています。素通しのファインダーとなるM型ライカではタイミングを捉えやすく、また本レンズでは全長の短い鏡胴により、フレーム右下のケラレも少なく抑えられています。
最新レンズらしい情報量の多い写りです。スムースで量感ある前ボケに比べ、後ボケは撮影距離にもよりますがざわつきや微妙な硬さなど個性を感じます。ニュートラルな発色のMC版に対し、シングルコーティングのSC版は発色に少し黄色味を感じました。といっても、同条件で撮り比べてわかる程度のわずかな差ではあります。
太陽高度の低い冬期は斜光での撮影が捗りますね。
最新レンズですから開放でも無限遠までビシッと写ります。高層ビルとその手前のマンションとの前後の位置関係もしっかりわかります。また大きく写り込んだ看板の前ボケのスムースさや存在感の残し方もすごくいいですね。
開放F1.5のハイスピードレンズですから、日没後の光の乏しい条件でもカメラを仕舞う必要はありません。カメラのISO感度を無闇に上げることなく、夜の撮影でも十分に楽しむことができます。強い立体感を感じる1枚です。
M10 Monochromを用い、被写体まで0.7mの最短撮影距離で撮影しました。MC版と比べコントラストが低くなっているため、モノクロでは豊かなトーンが画から浮かび上がってきます。繊細さと鋭さが同居したような美しい描写です。
10m以上離れた人物にピントを置きましたが、ピントのキレが素晴らしいですね。潰れにくいシャドウに比べ、ハイライトは少し飛びやすい印象でした。
色収差は良好に補正されていて、ほとんどの条件で目立ちません。子細にみれば扇風機のカバーに僅かながら出てますが、気になるようでしたら現像時にすっきりと取り除けるレベルです。電子補正を前提としたレンズが多い中、補正なしでこの結果は優秀といえるのではないでしょうか。
ウェットな描写が夕方の光をいい感じに演出してくれています。プラスチックや錆びたドラム缶等の質感描写もなかなかですね。
- こちらもM10 Monochromで撮影しました。点光源のボケ玉は周辺部に向かうにつれ口径食が出てくるものの、ボケ玉に年輪ボケのようなものは見られず、また輪郭強調された縁もなく、滑らかで美しいものでした。
- シングルコーティング(SC)ですから、マルチコーティング(MC)と比べると逆光時のゴーストには注意が必要です。強い光源では時として派手なゴーストが現れました。フードの使用が望ましいでしょう。
趣味性を高めたSC版、使いこなす楽しみがより味わえます
いかがでしたでしょうか。小型軽量かつ常用レンズとして扱えるポテンシャルを十分に持ちながらも趣味性の高さが伺える1本に仕上がっています。今回のロケではブラックペイント×ニッケルメッキの真鍮鏡胴のモデルで主にロケを行いましたが、総金属製となる鏡胴の工作精度の高さは現代レンズとしても最高レベル。末永く使える素晴らしいものに感じました。特に真鍮という素材は金属ながらも柔らかさを感じる肌触りがあり、ブラックペイントに組み合わされたニッケルメッキは黄色みを帯び、よりクラシカルな印象を持ちました。伝統的なMライカのボディデザインにもよく合う印象で、同じブラックペイントのM9やM9-Pと組み合わせてみたくなりました。操作フィーリングについても小気味よいクリック感のある絞りリングや、滑らかで適度なトルク感のあるフォーカスリングの動作等、プライス以上のクオリティを感じ、見る度、手に触れる度に所有欲を満たしてくれるでしょう。
問題はNOKTON classic 35mm F1.4以来のSC/MC版のラインナップとなり、手にする多くの方がMC版にするかSC版にするかを悩まれることでしょうか。個人的にはメインの50mmレンズとしてバリバリお使いになる方には実用性の高いMC版を、既に何らかのメインとなる50mmレンズをお持ちで、本レンズに描写の個性や撮影の楽しみ等を求める方にはSC版をおすすめしたいと思います。その差はわずかではありますが、現代レンズらしい緩さのない高い光学性能を有しながらも、どこかクラシカルに感じさせる世界観はSC版の方が際立っているように感じました。
一方でSC版の特徴として、逆光時にはフレアやゴーストが出やすく、特に光学ファインダーで撮影する際には、クラシックレンズと同様にその出現傾向は使い込んでみないことには掴めないものではあるとは思います(MC版も出ないわけではありませんが、SC版よりも少なく感じました)。そういった使いこなしも本レンズといい関係を長く維持するためのポイントではないかと思います。ただ現代レンズですから、ピーキーで使いにくいものにはなっていません。むしろそのちょとした「癖」を隠し味のように加えられたところこそが本レンズの大きな魅力であると付け加えておきたいと思います。
( 2021.02.01 )
真鍮鏡胴にブラックペイント×ニッケルメッキと凝りに凝った1本。少々派手な見た目となりますが、その分所有欲も満たしてくれます。
アルミ鏡胴にブラックアルマイトのスタンダードモデル。199gと最新の光学設計ながらも超軽量に仕上がっています。
こちらはアルミ鏡胴のシルバーモデル。シルバーはよりクラシカルに感じますね。シルバーのライカボディにはベストマッチングです。
NOKTON classic 35mm F1.4、NOKTON classic 40mm F1.4と共用のスタイリッシュなフード。SC版では特に装着をおすすめします。