PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Voigtlander COLOR-SKOPAR 50mm F2.2 VM
フォクトレンダーから登場した35mmフルサイズ対応のVMマント(ライカMマウント互換)レンズ「Voigtlander COLOR-SKOPAR 50mm F2.2 VM」の実写レビューをお届けします。フォクトレンダーはこれまで数多くの50mmレンズで我々ユーザーを楽しませてくれましたが、本レンズはその中でも最軽量クラスとなる1本です。総金属製の鏡胴はこれまで同様ですが、その素材を軽金属(アルミ合金でしょうか)とすることで軽量化を実現。質量はわずか135gと同等スペックの一般的なレンズと比べても約半分といっていいほど。現行のライカM11でも、軍艦部をアルミニウム製としたブラックボディでは、真鍮製のシルバーボディと比べ110g軽い530gとなるなど、M型ライカ界隈では軽さもひとつのトレンドとなっています。
本レンズは50mmレンズとしては短い全長ながらも、異常部分分散ガラスを3枚使用した6群7枚と贅沢な構成を採用。構成図によれば、すべてが球面構成となっています。距離計に連動する範囲は他のレンズと同様に∞〜0.7mとなっていますが、そのまま繰り出すことで距離計連動外の0.5mまでの近接撮影にも対応しています。メーカー曰く「開放から優れた光学性能を有し、オールマイティに活用できるレンズとして仕上げている」とのことですから、期待が高まりますね。それでは早速ご覧ください。
( Photography & Text : Naz )
現代レンズらしい安定した描写で、光と影の描き分けが見事です。敢えて隅に被写体を配置してみましたが、画面周辺でも中心部と同様にピントのキレがあり、フレーミングの自由度が高く感じます。また十分なコントラストがありながらも、暗部が潰れず床面のディティールを残しているので、画に奥行きを与えてくれました。
全長30mmしかない短いレンズですが、指かかりのよいフォーカスレバーにより、人差し指1本で素速く確実なピント合わせが行えます。速写性の高いレンジファインダーとも相性がよく、スナップシューティングが捗りますね。
距離計連動範囲外となる0.5mまで被写体に迫ってみました。多くのミラーレスカメラや一眼レフ向けの50mmレンズでは、最短撮影距離が0.4〜0.5m程度となっていますが、M型ライカではレンジファインダー(距離計)の制約により、長らく0.7mが最短撮影距離となっていました。CMOSセンサーが採用されたM型ライカ以降では、ライブビューの実装により最短撮影距離をより短くしたレンズが登場し、本レンズも同様に最短撮影距離は0.5mとなっています。近接での20cmの違いは大きく、テーブルフォトがしやすいなど表現の幅が広がりました。
写り込んだそれぞれの距離感が掴みやすく、金属製の椅子の質感描写も見事。座面に厚く塗られたペンキの手触りまでわかるようです。前ボケとなった向日葵は少し硬さを感じる描写となっていますが、像が大きく崩れてしまうこともなく、ほどよい存在感を残してくれています。
フォクトレンダー・VMマウントレンズのピント精度にはいつも感心していますが、本レンズもそこはバッチリ。距離計連動の精度も高く、出荷時のコンディションで安心して使えるのは嬉しいポイントです。絞り開放ですが、数メートル先の花瓶に生けられた植物も緻密かつ克明に描いてくれています。最新のM11系では60MPとより高精細化が進んでいますが、本レンズならその要求にも十分に応えてくれそうです(画像クリックで40.8MPの原寸画像をご覧いただけます)。
薄暗い条件でしたが、その場の雰囲気をうまく再現してくれました。また子細な部分までシャープに描きながらも、目が痛くなるような硬さがない描写が実にいい塩梅です。単にクリアなだけではなく、その場の光や空気まで手に取るように伝わってきます。
広角に強いレンジファインダーカメラでは「35mmが標準」と言われることもありますが、被写体に迫りすぎない距離感やフレームに少し緊張感を加えられる50mmの画角も捨てがたいもの。こういった離れた被写体も35mmレンズとは異なった遠近感で画面を構成できます。
カメラの高感度性能が向上したことにより、大口径レンズはその明るさそのものではなく「薄い被写界深度=大きなボケ」を求めて使う方がより多くなったと思います。50mmレンズのF2.2という開放値は、「明るい」というより「暗い」と表現できてしまいそうな値ではありますが、実際に使ってみると実用上不足することがほとんどない「必要にして十分な明るさ」があるように思いました。このカットの通り、光がある程度得られる条件なら夜間撮影も難なく行えますし、このような撮影距離でも開放でのピントが何処にあるのか正確に感じ取ることができます。手前に前ボケを入れることで被写体までの距離感をより強調することができました。
コンパクトなM型のシステムに於いて、間違いなく“軽いは正義”
今回撮影を行ったM10-Rでは、本レンズと合わせて795g(660g+135g)。より軽量になったM11ブラックでは665g(530g+135g)と、フルサイズのシステムとしてかなり軽量な組み合わせを実現してくれます。コンパクトなM型のシステムに於いて、間違いなく軽いは正義。手にするカメラとレンズが軽くなれば、撮影はより軽快になり、スナップシューティングのような機動性が重要な撮影ではその差がとても活きてきます。「もう1歩」「もう1枚」と行動半径や撮影領域をさらに広げ、撮影を終えたときの疲労度さえ違ってきます。しかもこれが、金属製のボディとレンズでしか得られない剛性感や高級感はそのままに実現しているのです。
大口径レンズには、その大きさや重さを超える魅力を持っていますが、その一方でライカMマウント向けの標準レンズでは、小型・軽量に加え必要十分な明るさを持つF2クラスのレンズも意外と人気です。ライカでいえば「ズミクロン」にあたります。本レンズはF2.2と(F2に比べ)わずかに暗くなっていますが、使用していてその差を感じることはありません。また開放から躊躇なく使える安心の光学性能により、少し絞る必要性を感じないため、その開放値に不満を感じることはありませんでした。より浅い被写界深度が欲しい場合は、F1.4クラス等のより明るいレンズもいいですが、本レンズと比べると重量差は3倍以上なんてこともありますから、つけっぱなしにしておく常用標準レンズとして「むしろこのレンズの方が撮っている枚数は多い」なんてよくある結果になりそうな気さえしました。気負わず使え、写りも文句なくいい。普段着のジーンズのような存在のレンズ、どうぞお楽しみください。
( 2024.09.26 )
小型・軽量を実現しながら、高い光学性能を有してこのプライス。こちらはブラック塗装バージョン。
シンプルなデザインもいいですね。クラシカルなイメージのシルバー鏡胴はこちら。
ブラックボディはアルミ製の外装となりますが、多くのブラック塗装のライカレンズでも使われている通り、強度は問題ありません。シルバーより110g軽くなっています。
よりクラシカルな印象になるシルバーボディ。真鍮外装らしい手にした時の温度感がしっくりきます。