PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

LEICA M10-R, Elmarit-M 28mm F2.8 ASPH., Photo by A.Inden

LEICA M10-R / SHOOTING REPORT

LEICA M10-Rです。巷ではいろいろと噂に上っていましたが、いよいよ登場です。まず名前に興味が沸きますよね。「P」や「D」がつくM型ライカはフィルム時代からいくつかありますが、「R」は初めてです。この「R」の意味は、このシューティングレポートの後、ウェッツラーからの製品発表イベントレポートの中で明らかになっていますので、そちらも併せてご覧ください。では、さっそく見てみましょう。

( Photography : A.Inden / Text : NB & A.Inden )


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まずは外観です。ダイヤルの文字色やレンズ着脱ボタンの特徴から判断するに、ベースになっているのは(無印の)M10のようです。そして実際に撮影して分かったのは、センサーは4000万画素だということ。これ、巷で言われているようにM10 Monochromに搭載されているセンサーのカラー版、ということなのでしょうか。逆に4000万画素になったM10がM10-Rである、という言い方はできそうです。なので作例のキャプションはM10との比較を中心に書いています。


LEICA M10-R, Elmarit-M 28mm F2.8 ASPH., Photo by A.Inden

M10と較べてみると、画素数が4000万画素になったことで諧調が豊富になり、色の再現力が増したように思います。作例は明暗差があるグレーに統一された単調なシーンですが、建物を構成する材料の質感の違い、微妙な色の違いが見事に再現されています。

LEICA M10-R, Summilux-M 50mm F1.4, Photo by A.Inden

レンズの特徴や個性を余すところなく表現しつつ、そこにどんなプラスαをもたらしてくれるのか。特にライカの場合、どうしたってそれがレビューの大きなテーマになります。それならばと、レンズは新旧取り混ぜて用意してみました。「用意してみました」というか、「つい用意しちゃいました」が正直なところですが。このレンズは開放でピントピークに独特の柔らかさを持った描写をします。ウインドウ越しで光も弱く、条件としてはイマイチでしたが、柔らかな調子の中に花弁一枚一枚の個性が写し止められています。特に一番下の花の透け具合。撮影時には気づきませんでしたが、後からパソコンの画面で見てゾクゾクしました。

LEICA M10-R, Summicron 35mm F2, Photo by A.Inden

ここで使ったレンズは1966年製。果たして古いレンズの解像力が怒涛の4000万画素に太刀打ちできるのか。そんな心配、ぜんぜんありませんでした。むしろ細かくなったドットが、一本一本のレンズの個性を今まで以上に感じさせてくれるようになったとすら思います。このレンズの一番の特徴は開放でのピントピークの周りに現れるハロ。そのハロをこうやって表現できるのですから、このセンサー、画素数もさることながら基本的な素性の良さが伺えます。

LEICA M10-R, Noctilux-M 50mm F1, Photo by A.Inden

ピントを合わせたのはサドル部分。このレンズらしい、諧調で質感を描いていく写りで、このサドルが経てきた時間の流れを見事に再現しています。画素数が2400万から4000万に増えたことにより、画像全体に滑らかさが生まれました。諧調も細かく再現されています。でも4000万画素の最大の恩恵は、ボケが美しく表現されるようになったことだと思います。

LEICA M10-R, Elmarit-M 28mm F2.8 ASPH., Photo by A.Inden

小さくて分かりづらいですが、高校生の白いシャツの立体感に驚きました。デジタルMはM8から全て使ってきましたが、順光でここまで立体感が表現されているのを見たのは初めてです。28mmで少し絞っていますが、絞りを開け、背景をぼかすことで被写体を浮き立たせるやり方が全てではないと、今さらながら教えられました。この驚きの描写が「お金さえ出せば」手に入るのだと思うと、いろいろグラグラし始めて困ります。本記事執筆の時点では価格は分かりませんが、実際にそれを見れば少し冷静になるでしょう。

LEICA M10-R, Elmarit-M 28mm F2.8 ASPH., Photo by A.Inden

高感度ISO 6400での撮影ですが、そうとは思えない滑らかな写りです。さすがにシャドーにはノイズが乗りますが、フィルムの粒子を感じさせる整ったきれいなノイズです。高感度の撮影ではコントラストの高い画になりがちですが、よく見るとなだらかな諧調がそのまま活かされ、シャドーの調子も潰れずに残っていることがわかります。光量の乏しい条件では手ブレが気になりますが、ここまで高感度が使えるならもうそんな心配はしなくていいでしょう。

LEICA M10-R, Summicron 35mm F2, 1/250, Photo by A.Inden

雨の合間に急いで撮ったカット。シャッタースピード1/250秒でいつものように撮ったら手ブレを連発してしまいました。2400万画素だったらたぶん大丈夫だったと思われるレベルなのですが、4000万画素は見逃してくれません。これが4000万画素の緻密さです。「8枚玉」と呼ばれるレンズですが、その柔らかな写りがよく表現されています。撮って出しのJPEGは若干黒を締めてコントラストを高めるチューニングがされているように感じました。(画像クリックで原寸表示)

LEICA M10-R, Summilux-M 50mm F1.4, Photo by A.Inden

山に日が沈み空の残照が水面に写り込んだ微妙なトーンを、このレンズ特有の柔らかい開放で狙ってみました。ドットが細かくなり描写が滑らかになったことでフレームの隅々までレンズの特徴が現れ、これまで以上にレンズのクセを考えた画作りができるようになったと思います。(画像クリックで原寸表示)

LEICA M10-R, Noctilux-M 50mm F1, Photo by A.Inden

F1の開放ともなるとピントが極薄。レンジファインダーというフォーカス機構は、宿命的に微妙なピント合わせが苦手。ここはライブビューのお世話になるのが正解です。MFアシストを「オート」に設定すれば(お借りしたものはデフォルトでオートに設定されていました)、フォーカスリングを回すと同時にピントが拡大されて被写体の細部を確認することができます。さらにピントピークの縁が色付きでマーキングされるので、液晶を見づらい条件でも苦労せずにピントを合わせることができます。F1開放での近接撮影、その独特な雰囲気をご覧ください。


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ライカですから

断片的な噂でしか窺い知ることができなかったLEICA M10-Rですが、こうして実機に触れ、撮影する機会に恵まれました。仕事なのに「機会に恵まれた」とはおかしな言い方ですが、でも本当にそう感じたのです。新製品にいち早く触れることが当たり前になっているわれわれですが、それでもライカの場合には特別な感情が湧き起こります。理由はシンプルです。だって、ライカですから。

内径39mmのスクリューマウントによって、ユニバーサルマウントの先鞭をつけたのはライカです。おかげで古今東西のレンズメーカーが、たくさんのライカ用レンズを作ってきました。そして、それらは今でも世界中で生き残っています。もしかしたら、皆さんのご実家の押し入れの奥にだって眠っているかもしれません。それをMマウントに変換するための、笑っちゃうほど単純な、しかし見事に考え抜かれたアダプターを間に挟むだけで、1930年のレンズが2020年の新製品に何の問題もなく装着でき、機能するのです。でもそのぐらい当たり前です。だって、ライカですから。

「そりゃ欲しいけど、もうちょっと買いやすければなあ」と思っている人は多いでしょう。私もそう思います。でも1925年に最初のモデルが発売されて以来、ライカが買いやすいカメラだったことなど一度もないのです。かつて「ライカ一台、家一軒」と言われた時代がありました。それが本当かどうかは知る由もありませんが、当時のライカをうまく言い表した言葉だったのは事実でしょう。ずっと昔から高嶺の花であり続けたのです。そして今。幾多の難関を乗り越え、やっとの思いでライカを手にした人は、支払いのことなどいったん忘れて幸福の何たるかを知り、愛おしそうに抱いて眠るのです。だって、ライカですから。


Join us for the unveiling of the next M10 family member!

日本時間の7月16日22時、ウェッツラーからのYouTubeによるライブ配信で "Join us for the unveiling of the next M10 family member!" と題されたLEICA M10-Rのお披露目が行われました。

まず画面に現れたのは社主のアンドレアス・カウフマン氏。やはりCOVID-19の話から。苦境を乗り越えて生産を再開できたことの喜びと、従業員のみなさんへの感謝を述べられていました。そしてグローバルダイレクターのステファン・ダニエル氏が登場し、とてもリラックスした雰囲気で対談が始まります。ライカの歴史を振り返る中で、「M型ライカにとって一番の危機は一眼レフが主流となった70年代。完全に死に体で、もうM型はやめようという話まで出た」とダニエル氏。しかし実際にはM型は生き残り、代を重ねて今日に至ります。面白かったのは「M9の次は番号をつけずにただの "M" にしたが、客は気に入らなかった。客は "M240" などとタイプ番号を言い出したので、だったら番号を戻しゃいいだろとなった」というくだり。M10誕生秘話ですね。そのM10も、M10 > M10-P > M10-D > M10 Monochromと来て、今回のM10-Rで5台目のM10シリーズとなります。それだけ素性のいいカメラということなのでしょう。すでに名機。

そしていよいよM10-Rのお披露目。テーブルの上に置かれていたベールをとると・・・うむ。M10ですね。ダニエル氏によれば、

  • ルックスはM10
  • 画像処理系はS3
  • 静かなシャッターはM10-P

とのことで、さらに、「4000万画素のカラーセンサーは新開発だが、ノイズ耐性やダイナミックレンジはむしろ2400万画素のセンサーより向上している。2400万画素しか知らなかった時はそれで幸せだったが、それ以上を見せられると戻れなくなる。もちろんこれは高画素の問題を解決していればの話だが、M10-Rはそれを達成した。まったく妥協はしていない」とのこと。「オールドレンズでも素晴らしい。むしろ更に高い性能を発揮する」というのもレンズマニアには嬉しい発言でした。

そして、「R」は「Resolution」の意味だそうです。

その後はもう一人のゲスト、俳優のクリストフ・ヴァルツ氏が加わって3人での対談になるのですが・・・上の画像からお披露目の様子をご覧いただけますが、視聴していた全世界3,000人あまりの人がいっせいに椅子から転げ落ちた瞬間は36分ちょうどあたりです。その後のダニエル氏の苦笑いがなんとも・・・。

カウフマン氏が終始ライカの顧客のことを "Leica Family" と呼び、M10-RはそのFamilyの "New Baby" であると表現していたのが印象的でした。


  • ライカ プレス発表会より
  • ライカ プレス発表会より
  • ライカ プレス発表会より
  • ライカ プレス発表会より
  • オンラインでのプレス発表会より(画像のクリックで大きな画像をご覧いただけます)

ライカ オンラインプレス発表会

続いて7月17日15時より、ライカカメラジャパン株式会社主催の「ライカ オンラインプレス発表会」が開催されましたのでレポートいたします。

まず最初に社主のアンドレアス・カウフマン氏の挨拶。「本当は日本へ行って、皆さんの目の前でこの素晴らしいカメラを紹介したかったのだが、今は移動に限界があって叶わなかった。それができるようになったら、必ず日本へ行ってみなさんとお会いしたい」とおっしゃっていました。

次はステファン・ダニエル氏によるM10-Rのプレゼンテーション。このM10-Rがいかに革新的なカメラであるかを、一つずつ丁寧に説明されていました。ダニエル氏曰く、「センサーを4000万画素にすることによって、感度やダイナミックレンジが犠牲になることは避けたかった。Mレンズの利点を最大限に活かすために高解像度と低照度撮影の両立に注力した」とのこと。具体的には、

  • ISOは100〜50000を維持
  • シャッタースピードは最長16分(従来は最長4分)
  • 歴代のM用センサーを上回る、13-15段階のダイナミックレンジ

を挙げ、これらによって4000万画素を最大限に活かすことができるようになり、圧倒的な高画質を実現したと作例を交えながら解説していました。それら以外にも、

  • シンプルなボタン配置、タッチスクリーンの採用
  • M型伝統の「控えめさ」を持つ静音シャッター
  • Leica FOTOSによる、スマートフォンやタブレットとのシームレスな連携

も魅力として挙げられていました。ダニエル氏のプレゼン中にはレンズ開発責任者であるピーター・カルベ氏が登場し、レンズ開発面から見たM10-Rの優位性を説かれていました。「ライカは万年筆のようなものだ。最初は使いづらく感じるかもしれないが、慣れると万年筆以外では書きたくなくなってしまう。そして、万年筆を使うと字が上手く書けるように感じる瞬間があり、それは写真も同じだ」という言葉が印象的でした。

そして、この発表会にオンラインで参加している方々からのQ&A。やはり4000万画素のセンサーのことに質問が集中していましたが、ここでM10-Rの発売日と価格が明らかになりました。

発売日:2020年7月24日(金)
価格:1,050,000円(税別)

  • ライカ プレス発表会より
  • ライカ プレス発表会より
  • オンラインでのプレス発表会より(画像のクリックで大きな画像をご覧いただけます)

そしてトリを飾ったのは、写真家・若木信吾氏によるトークショー。長年ライカを使って仕事をしてきた若木氏のライカ愛が伝わる内容でしたが、このM10-Rで撮影した作品の写真展が行われるようです。

若木信吾 写真展「My Garden」
2020年7月18日(土)〜8月22日(土)
ライカプロフェッショナルストア東京

「こんな時代だからこそ、生命力の象徴として花を撮りたかった。誰かに向かって咲くのではなく、ただ種の保存のために咲く花の力強さを表現した」とのこと。いくつか作品が紹介され、若木氏による解説がありましたが、とても興味深い写真展のようです。ぜひ足をお運びください。

( 2020.07.17 )

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