PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
マルミ光機 「なついろパンチ!」「アルプスパンチ!」
〜 解像度のいらない世界へというキャッチコピーにのけ反る 〜
メーカーを問わず、歴史的名レンズにまで装着させることができるフィルター。その中には写りの雰囲気を変える、まったく新しい世界を描き出すフィルターがあります。今回は、そういった効果が得られる、マルミ光機(以下マルミ)から出ている「なついろパンチ!」と「アルプスパンチ!」をご紹介します。パンチのきいたネーミングに可愛らしいパッケージ。極め付けは”解像度のいらない世界へ”といったキャッチコピー。メーカー各社が写真の解像度を上げようと躍起になっているというのに、このキャッチコピーの存在感はなんでしょう。私自身も「解像度は高い方がいいに決まっている」と盲目的に思い込んでいたフシがありますが、まさに強烈な「パンチ」を喰らった感じです。
( Photography & Text : TA )
写真左「なついろパンチ!」写真右「アルプスパンチ!」
この2つのパンチフィルターは「肉眼で見ている世界とは別の世界を作る」「記憶の中にある心の画像を写す」というコンセプトのもと、写真家の鈴木さや香さんとマルミによって共同開発されています。このフィルターをつけることによって、目の前の世界がガラッと変わる。強い滲みと独特な色表現を持ち味としています。
フィルターにはケースが付属し、嵩張らず常に持ち歩けるのが魅力です。製品に至るまで手作業の工程が多いとのことで、佇まいにもそれが滲み出ています。
なついろパンチ!は3枚のガラスで構成されています。装着させたレンズで撮影すると、画面全体を強く滲ませ、青味がかります。これは青を強調する特殊な透過率特性を持つ色ガラスを2枚のソフトフィルターで上下に挟むことでこのような効果を出しているとのこと。一方で、赤やピンクといった暖色も強調されます。カラーバランスを極端に崩すことなく、青や赤といった色味が強調されるので独特の色表現になります。暖色のフレアやゴーストを出現させることも可能です。
なついろパンチ!を一般的な現行の50mmレンズに装着させてみました。フィルターの効果をご覧いただきたいのでRAW現像を施さず、全カットJPEGを使用しています。ホワイトバランスの設定は太陽光。滲みが強く、解像とは無縁の世界を描きます。まるで白昼夢をみているかのような淡く儚げな印象ですが、ずっと見ていられるような、家のリヴィングでくつろいでいる時のような心地良さを感じます。光をあえて拡散させることによって画面全体を柔らかなトーンで描き、白く抜けてしまいがちな空や雲の表情までもしっかりと表現されています。青が強調される一方で、オレンジやピンクといった色も強調されていて色表現も独特です。ゴーストやフレアも見られます。
全体に薄く青がのる反面、赤も鮮やかです。パンチフィルターをつけて撮影していると、なぜか夏休み最終日に宿題の絵日記を10日分くらいまとめて描いたことを思い出しました。ちなみに、なついろパンチ!の「なついろ」には、夏色と、なつかしい色の2つの意味が込められているそうです。
曇りの日は特に青が強く滲み、より印象的な画になりやすいです。例えば組み写真などで複数枚を見せる場合、フィルターを付けずに通常通り撮影したものの中に、1、2枚こういった画を差し込んでも面白そうですね。フィルター径が同じ標準ズームに付け替えて撮影していますが、レンズとのマッチングを見る愉しみもまたあります。
レンズの素の写りでは、おそらくレンズを向けていなかったと思われるシーンです。フィルターを通した画をEVFで確認しながらカメラを持っていると、いつもとは違うものに目を(レンズを)向けてみたり、フレーミングも変わってくるのが興味深いなと。全く新しい別のレンズを手にしている気分ですし、新しい視点(目)を手に入れた感覚です。
アルプスパンチ!に付け替えてみました。ホワイトバランスは太陽光。エッジが強く滲んで影絵チックな1枚になりました。普通のレンズで撮ろうと思ってもこうは写せませんし、個人的に大好物です。全体に緑がのり、ハイライト部を反転させたかのようなゴーストの発現がまた面白いですね。あえて出る方向に工夫されているというパープルフリンジも見られます。
アルプスパンチ!は、1枚のガラスの表裏計4面に、マゼンタ色に強く反射する特殊なコーティング(Vコート)が施されています。これによって全体に緑の色をのせたり、マゼンタ色のフレアを出やすくしているとのこと。また2枚のガラスは一定の空間を設けて配置され、ガラスの内面反射によるゴーストやフレア、パープルフリンジに似た効果が得られるよう工夫されています。
もともと緑だった部分は、緑がより強調されます。
アルプスパンチ!もまた、赤やピンクの発色が強くなります。可愛いですね。
いつもとは脳みその違う部分を使って撮る快感
パンチを付けると、勝手を知ったレンズがまったく新しい別の世界を描きはじめました。強い滲みと独特な色表現が、ありふれた光景を独創的な世界に昇華させてくれる感じです。最初こそ、新しいレンズを手にしたような高揚感がある反面、パンチに振り回され、撮らされている感覚があって正直戸惑いました。でもしばらく使っていると、忘れていた古い記憶が呼び戻されることがあったり、新しい視点(目)を手に入れたような感覚もあって面白いなと。当然シーンの選び方も変わりました。これも、EVFでフィルターを通した画を確認しながら撮影できる今だからこその楽しみ方かもしれませんが。ともかく、写りの自由を手にいれるには、レンズやカメラが唯一の選択肢ではないと教えてもらいました。パンチを付け外しすることによって画にバリエーションをつけるのも良いでしょうし、ホワイトバランスで色味を調整して、滲みだけ利用するという手もあります。オールドレンズで撮影したかのような雰囲気もまた楽しむことができます。嵩張らないので常時持ち歩くのですが、写りの違うレンズをもう1、2本持ち歩いている感覚ですよ。広がる世界を体感するその1アイテムとして、ぜひ。
( 2024.08.27 )