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ライカ M10
ステファン・ダニエル氏 単独インタビュー

ライカM10プレス発表会の翌日、来日中のライカカメラAG社フォトビジネスのグローバルダイレクター、ステファン・ダニエル氏にPYとして単独インタビューする機会に恵まれました。前夜は日本でのライカM10お披露目とあって、きっとお忙しく過ごされたと思うのですが、我々が予定時間よりも早く着くと、すでにライカカメラジャパンの方々と一緒に、自ら会場の設営をされていました。インタビューをさせていただいたのはこれが2回目。フレンドリーで、茶目っ気があって、バイタリティーに溢れる。ダニエル氏を表現するとそうなります。とても和やかな雰囲気の中で、インタビューは始まりました。

( 聞き手 : PY編集部 K )

まずは、やはりボディのお話から。

PY編集部 K:おはようございます。お久しぶりです。私のことを覚えてますか?

ステファン・ダニエル氏:もちろんです!さっき顔を見て思い出しましたよ。「ああ、あの人か!」って(笑)

2012年のフォトキナの時でしたね。ライカカメラAGのオフィスがゾルムスからウエッツラーに戻る前で、ウエッツラーの建物の設計図を指しながら「ここが新しいオフィスでいちばん重要な場所だ」と言うので怪訝な顔をしたら、「私の部屋だ」ってウィンクされました(笑)

(笑)ああ、そうでした。再会できて嬉しいです。

ゆうべの発表会の反応はどうでしたか?

すごく良かったですよ。特にゆうべはフィルム時代からのお客様がたくさん招かれたと聞いているから、余計にです。みんなあのサイズを本当に心待ちにしていたんだと実感しました。でもこれは日本だけじゃなくて、世界中で同じ反応をいただいているんです。本当に嬉しいことです。

オーダーもだいぶ入っているでしょう?

ありがたいことに。今回は生産体制をしっかり整えてから発表したので、デリバリーまでの期間も短くできました。今まではここが長過ぎてお客様をやきもきさせたので(笑)。昨年のフォトキナでライカM10を発表しなかったのはそういう理由なんです。それでも生産キャパを超えてしまって、まだしばらくはバックオーダーを抱えると思います。

出足好調で何よりです。さて、ライカM10のことをお聞きしましょう。本当はライカM8の時からこのボディサイズにしたかったんですよね?

もちろん。でも当時はまだ技術的に不可能でした。10年かかって、やっとそれが可能になったんですよ。

ボディを薄く出来た大きな理由は何ですか?

それをひとことで表現するのは難しいですね。というのは、ダウンサイジングのためにあらゆる努力を、本当にこまごまとした改良を積み重ねて、やっと実現できたことだからです。でも敢えて分かりやすい例をいくつか挙げると、シャッターの後ろにあった2層の基板を1層にしたこと、マウントのかさ上げ、小さなバッテリーの採用でしょうか。

どのメーカーも、シャッターの後ろのパーツが増えて、それを小さくすることに苦労しています。マウントのかさ上げも殆ど気にならない。というか、並べて見比べないと気づかないですよね、これ。

上手くできたと思います。でもさっきも言ったように、これらはほんの一例。パーツの集積度を上げるとか、少しでも薄くするとか、そういうちょっとしたことの積み上げなんです。

バッテリーの小型化についてはどうでしょう?実は、すでにフォトヨドバシの作例撮影でサンプル機を地方ロケに持ち出したのですが、バッテリーが小さくなっている上にスペアが一つもないという状況で、いささか心許なかったのは事実です。結果的に、途中でバッテリーが切れることはありませんでしたが。

もちろん今までと共通のバッテリーが使えればよかったのですが、バッテリーの大きさはボディサイズに直結します。よって今回、敢えて小型化しました。もちろんただ小さくしただけではありません。不要な機能をボディ内部でOFFにするなど、省電力のパワーマネジメントを強化した結果、小型化が可能になったのです。

ムービー機能を採用しなかったことも大きく寄与していますよね?

その通りです。今やライカには豊富なラインナップがあります。多機能なカメラが必要ならライカSLがあるし、M型に限定してもライカM(Typ240)の販売は継続するので、ライカM10はスチル撮影に特化させることができました。もうお使いになられたんですね?実際に使ってみてどうでしたか?

ボディサイズのことを言うと、私自身は今までの厚みでまったく不満はなかったんです。日本人にしては手が大きいので、むしろあのぐらい厚い方がしっかりグリップできますし、気に入ってました。でも、ライカM10を初めて手にした瞬間、「ああ、アカン。これ欲しい」ってなりました。

典型的な反応ですね(笑)

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2400万画素という最適解。

ライカM10で撮影した絵を初めて見た時、何と言うか、描写に「ふくよかさ」を感じたんです。ライカM(Typ240)と同じ2400万画素ですが、こいつは相当なセンサーだぞと。これはライカM10用に新たに開発したセンサーとのことですが、どこに力点を置いて開発されたんでしょうか?

ひとことで言えば、「センサーに光をたくさん当てる」ことです。例を挙げると、通常はシグナルの伝送部などのために、センサー上のすべてのエリアで光を取り入れているわけではありませんが、レイアウトの最適化により、より広いエリアで光を取り入れられるように改善しました。もう一つは、受光素子の一つ一つは井戸のような形をしていて、その底の部分に光を感じ取る部分がありますが、その「底」を浅くしました。マイクロレンズの配置にも工夫がしてあります。これらは現代のレンズに対してももちろん有効ですが、M型ライカのボディ設計における大命題は、1950年代からあるMマウントのレンズ資産がちゃんと使えるようにすることなんです。これらの改良は古いレンズ、特にセンサーに当たる光線の角度がきつい広角レンズにとって大きな意味があります。

なるほど。そういう技術革新がなされているとは言え、2400万画素は据え置きです。例えばさらに高密度化を進めて、もっと高画素のセンサーを採用するという判断はありませんでしたか?

例えばここにある写真(インタビュー会場に飾られていたライカM10で撮影した作品)を見て、2400万画素で何か不満がありますか?

いや、まったく。

でしょう(笑)。我々もそう思っています。「解像感と感度。このふたつのバランスがもっとも良いのは2400万画素である。」というのが現時点でのライカの答えです。もちろん今後もそれをキープするということではありませんよ。我々が画素数をもっと増やすべきだと考えれば、その時にはそこへ向かって邁進します。

ファインダーのことをお聞きします。まず倍率が0.73倍とのことですが?

0.73倍をターゲットにしたわけではないんですよ。我々が目指したのは「見やすいファインダー」。そのためにいろいろな試行錯誤をしました。バッテリーの話でも触れましたが、ラインナップが充実したおかげで、ライカM10は「M型らしさ」に立ち返って開発ができたカメラです。ファインダーも例外ではなく、視野を従来に比べて30%広げたり、アイリリーフを50%向上させることができました。そういうあらゆる改善をした結果、倍率も少しアップしたということです。

個人的にはファインダーにこそ「M型らしさ」を感じます。

使用者の感性に訴えかける、いちばん大事な部分です。だから正確であるだけでなく、使った時の快適性を高めることにも多くの時間を割きました。これはファインダーだけでなくライカM10全体に言えることですが、「M型らしいもの」はさらに強化し、逆に「M型らしくないもの」は思い切って切り捨てました。この考え方は多くのライカユーザーに歓迎してもらえると思っています。

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ライカの歴史を作っていくということ。

つかぬことをお聞きしますが、M型の歴史は1954年のフォトキナで発表されたライカM3にまで遡ります。ライカM3の設計に携わった人でまだご存命の方はいらっしゃるんでしょうか?まさかまだライカ社にいるということはないと思いますが(笑)

ライカM3の設計主任だった人物は1976年に亡くなっていますが、設計チームにいた一人はまだ存命で、ウエッツラーに住んでいます。たぶん90歳ぐらい。私の大先輩ですね。

そうなんですか!いや、なぜこんなことを聞いたかというと、当然、ダニエルさんもM型を最初から見てきたのではなく、ライカ社で仕事を始めた時にはすでにじゅうぶんなM型の歴史があったわけですよね。「新しいカメラを開発する」という仕事をするにあたって、そういう長い歴史がかえって邪魔になることはないのかな?と。

おっしゃることは分かります。でもそれはないですね。確かに長い歴史があって、それによる「自由ではない部分」は当然あります。しかしそれよりも、自分がその歴史の1ページを作れることが嬉しい。そのように謙虚に、ポジティブに捉えています。それに、自由で新しいことは他のモデルでたくさん実現できるので、むしろバランスが取れているんです。これもラインナップが充実したことの恩恵ですね(笑)。

私もそうですが、おそらくダニエルさんも元々ライカの、あるいはM型カメラのファンだった筈で、M型ライカがどういうものであるかを分かっている。だからこそ、ピュアな気持ちで取り組めるのかも知れませんね。

現代ではライカM3が伝説的なカメラとして取り上げられることがありますが、あのカメラだって突然この世に出て来たわけではなく、バルナックライカ時代からのさまざまなフィードバックがあって、やっとあそこに行き着いたんです。それは今でも同じ。まったく何も変わっていませんよ。歴史が作ってきた「どういうものか」は大事ですが、これから先「どのようにしていくか」が大事で、その原動力となるのは市場からのフィードバックです。

ライカM8から10年経ちました。デジタルになってユーザーは変わりましたか?

若い層のユーザーが増え始めていますが、大きくは変わってないですね。フィルム時代、「ライカしか使わない」という人は実はあまり多くなくて、他のメーカーのカメラと並行してライカM6も使う、そういうユーザーが殆どでした。それはデジタルの今になっても変わっていないと思います。

私や、私の周りを見ても確かにそうですね。

ただ一つ違うのは、昔は、ライカは写真を撮るための純粋な「道具」でした。それが変化し始めたのは80年代からで、ライカは自己表現の手段としての役割も持ち始めたんです。ファッション、あるいはライフスタイルを表現するためのカメラ。そこが大きく変わった点ですね。

こんなことを聞いていいのかどうか分かりませんが、ライカの業績はどうなんでしょう? 全世界的にカメラ業界は冷え込んでいますが。

カメラ業界の現状とは裏腹に、幸いライカは成長傾向にあります。と言っても、決して急激なものではありませんよ。少なくとも落ちてはいないし、横ばいでもない。その程度です。それでも業界のトレンドに巻き込まれていないのは、やはりラインアップを拡充して、それぞれの商品特性を強化し、分かりやすくしたことが大きいと思います。

それを聞いて安心しました。昨年のフォトキナではライカSofortしか無かったので、ちょっと心配していたんですよ。

Don't worry!(笑)

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インタビューを終えて

ダニエル氏はインビュー中も終始にこやかで、話の途中でもカメラマンがレンズを向けるとポーズをとってくれるというサービス精神。今回のインタビューでは新製品ライカM10のことはもちろんですが、ライカの歴史に関することや、ライカで働くということ、さらにはダニエル氏個人の考えなどいろいろお聞きしたいと思っていました。シビアな質問にも真摯にお答えいただき、なかなか興味深い話が聞けたと思います。ここにステファン・ダニエル氏、ならびにライカカメラジャパン株式会社のみなさまに改めてお礼を申し上げます。


ライカ M10の実写レビューがフォトヨドバシで公開されました。フィルム時代のM型や前モデルのライカ M (Typ240)とライカ M10を並べた写真もご用意しました。こちらからご覧いただけます。

ライカ M10のプレス向け発表会のレポートはこちら。

( 2017.02.07 )

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まったく新しいデジタルの「ライカM10」いよいよ発売です。こちらはブラッククロームボディ。

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こちらはシルバーボディ。あなたはどちらがお好みですか。

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ライカTLと共用となるEVF。少々値は張りますが、GPSを内蔵し、見えもたいへんよくなりました。アクセサリーシューに内蔵された接点により、外観もシンプルかつスタイリッシュです。

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先代よりコンパクトになったバッテリー。これまで同様、バッテリーはかなりもつ印象ですが、コンパクトだからこそ保険としてバッグに忍ばせておきたいですよね。

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サードバーティ製で人気となっていたサムレスト。純正品の完成度は嬉しいですよね。M型ライカをお使いの方で、巻き上げレバーがないことで右手親指が落ち着かない方には必須のアイテムです。

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こちらはシルバーカラーのサムレスト。ボディのシルバーと同じ塗装になりますから、より一体感のある佇まいになるでしょう。

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Noctiluxなど大きなレンズをお使いの方にはホールディングが安定するハンドグリップがおすすめです。こちらもボディカラーに合わせて、ブラックとシルバーをラインナップ。シルバーをご希望の方は商品写真をクリックするとカラーバリエーションをご選択いただけます。

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純正品として液晶保護フィルムも登場しました。背面液晶のカバーガラスは強度の高くスマートフォンでも採用されている「ゴリラガラス」になったそうですが、万が一を考えたら着けておくにこしたことはありません。

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