LEICA M10 | SHOOTING REPORT
M型ライカがついに「M10」に到達。少し整理しましょう。ライカM(Typ240)の上位版がライカM-P(Typ240)であり、この2機種は動画撮影が可能。その他に、ライカM(Typ240)から動画撮影機能を省いたライカM(Typ262)という機種が現在ラインアップされています。さて、ライカM10(Type3656)ですが、これまでの派生モデルではなく、完全な新モデルとなります。従来ユーザのみなさんにとって、大きなトピックとしては、まずボディが薄くなりフィルムM型ライカとほぼ同じ厚みとなったこと、そしてファインダー倍率が0.73倍となり視野も30%程度広くなったことでしょうか。画素数は有効2400万画素、Wi-Fi機能がM型ライカとして初めて搭載されました。また、EVFもライカTL用のものにアップデートすることで、高解像度化を果たし、GPS機能も活用可能に。その他も細々としたアップデートはありますが、個人的な印象としてはフィルムM型で築き上げてきたパッケージングに、デジタルという感材をキッチリ取り込み、再パッケージングに完成を見たモデル、それが「ライカM10」であると感じます。
( 写真 / 文 : K )
手前からM2、M10、M(Typ240)となります。ライカM10は、ライカM2のように巻き上げレバーこそありませんが、フィルムM型によく似た意匠となりました。フィルムM型の歴史は、1954年4月発売のM3から数えて今日まで60年以上。そして未だに新品のフィルムボディを買うことができるのです。ライカM5のように一時期ボディの形状が変わったモデルもありますが、長年この形であり続けてきたのは、それ相応に理由があるのです。ライカM10を手にしてみると、やはり「しっくり」きます。ライカM3登場当時、今のように検索窓にキーワードを打ち込めば様々な情報が出てくるような時代ではありません。マーケットの声は聞こえてもたかだか半径数十メートル程度、開発陣は自分事として本当に練り込みに練り込んだことは想像に難くありません。もちろん、現代のカメラやそれに携わる皆さんにそれがないというわけではまったくありません。しかし人は見えなければ触り、感じ、思い描くしかありません。だからこそ生まれるものがあるのかなとも思います。実際にライカM3が登場した当時、レンジファインダーを諦めて一眼レフの開発に他社メーカーが走るきっかけになったと聞きます(これが後年ライカ社を苦しめることになりますが)。いずれにせよ、ライカM3は当時、1つの解を体現するモデルであったのでしょう。いまのモデルのように何から何までできてしまうというモノではありませんでしたが。ライカM10を手にして実際に撮影すると、世の中の大半の物事はこれで撮れてしまうな、という気にさせられます。写真のデキはともかくですが。
テスト撮影の最中、あまりに寒くて手が凍えてボディを落としそうに。指先の感覚が鈍るので、どんなに寒くてもたいてい手袋はつけないのですが、コンビニで買ってしまいました。デジタルになってもフィルム時代のクセがついているのか、いまでも感度を積極的に上げることはありません。できるかぎり低感度で撮影。しかし、高感度特性が上がるにつれて「撮れる」と感じることが増えるわけです。フィルムM型のリワインドノブに似た感度ダイヤルの新設はありがたいですね。手袋をした手でもダイレクトに変えられます。液晶モニターに反応する手袋があるって?? さすがの私でも知っているのですが、手袋をつける以上グリップ最優先で選んでしまうのですね。イボ付きなのです。。。
操作系もルックスも、やはり慣れ親しんだモノには安心を覚えます。いわゆる性能と呼ばれるものに1つカウントされるものだと思います。車でいえば、パワーもトルクも大事、ハンドリングも大事、大事でないことは1つもないと思うのですが、その中でも走らせてストレスがない、つまり気持ちよい、ということもとても大事だと思うのです。ライカM10は、私にとっては気持ちよいカメラでした。ライカM3から長年親しまれた形、操作系により近づいたのですから、同様に当てはまる方も多いのではないでしょうか。余談?ですが、背面から削除ボタンが消えました。メモリーカードの容量をさほど心配しなくてよくなったこともあるのでしょうけれども、極力ミニマルに、そして、撮ったものを削除なんてするな、ということでしょ うか。おそらく、どちらもなのでしょうね。なんせ、背面液晶を取っ払ったデジタルカメラをリリースするようなメーカーですから。
50mm1本のみの最小構成で楽しめるカメラ、より懐深くなった描写
車で金沢、福井、滋賀、大阪を回りました。カメラはライカM10とAPO-SUMMICRON-M 50mm F2のみ。単焦点レンズ1本だけで撮り歩くなど、いつ以来だろうかと思い返してもにわかに思い出せません。おそらく過去のライカに関する作例撮影以来でしょう。海であろうが、街であろうが、50mmで撮れるもので撮るのです。撮れないものは撮らない。最短が遠いため、撮れないものといっても呑み屋で出てくるアテぐらいでしょうか。それとて、椅子から立ち上がって背伸びして撮ってしまいますが。機材において大事なことの1つに、いかにカメラを身体化できるかということが挙げられると思います。昨今のミラーレスカメラのようには軽くありませんが、ボディもレンズも小さく、撮影に連れて出ても本当に気楽。ただ小さいだけだと困りますが、ホールドしやすく、撮影のためのすべての操作がスムーズに行えることが前提での最小を追求したボディで、相変わらず使い心地がいいなと実感。
APO-SUMMICRON-M 50mm F2 ASPH.は、M Monochromで使うときと、カラー機で使うときで印象が違います。M Monochromで使うと、ちょっと目を疑うような解像力を見せるのですが、カラー機で使うと、その凄みはあまり感じることができません。おそらくベイヤー構成でモノクロとカラーであれば、カラーにはオーバースペックなレンズなのでしょう。過去のインタビューで、「M Monochromがあったからこそ作ろうと考えたレンズ」と開発者であるピーター・カルベ氏がコメントしていたので、その内容そのままなのかもしれません。ライカM10でこのレンズを使うと、ライカM(Typ240)とそのファミリーモデルとは違った印象を受けます。「お…」と、感じるのですが、これを詳しく解説できるほどゆっくりと試すことができなかったので、次回のレビューでこのあたりの違いをお届けできればと思います。
相変わらず、シャドーに表情があり、中間が豊かな描写です。そしてハイライト側のトーンの厚みが増した印象です。ジャンパーや傘の質感がよく伝わり、傘の上の雨粒も鮮明に解像。中間が豊かだと、露出を切り詰めていっても、シーンの状況が目減りしないのです。つまり、黒く塗りつぶされずどんなシーンであるかがキチンと伝わるのです。
2400万画素でローパスレスといえば、カメラボディだけでかなりの解像力があります。これを活かすことのできる性能のレンズであれば、おぼつかない光の中でも適度にメリハリが生まれ、かつ、相反するようですが、空気の澱も同時に写るのだと思います。たとえばレンズだけ図抜けていても、単にヌルい画になり、ボディだけでも同様です。オールドレンズをライカM10に用いても、それ相応の雰囲気で楽しめると思います。しかし、現行レンズで撮っても、いわゆる"雰囲気"の漂う画が撮れると思います。冒頭に「再パッケージングの完成」と書いたのはこのあたりの印象からです。
少しハイキー気味も試してみましょう。ライカM8のような雰囲気の画だな、という印象です。ライカM8は独特の発色で、ハイライト側の描写がとても綺麗なカメラでした。いまでもファンが多いらしいのですが、私もその1人です。どことなくネガフィルム的な色再現で、それがライカM9になってから一転ポジフィルム的に。ライカMで中庸になったという印象でしたが、ライカM10はポジ的にもネガ的にも懐が深くなった印象です。ライカMの特性をもう一段階進めたといったところでしょうか。
白飛びしない程度に開けて、開放のため周辺減光で白からのグラデーションを見ることができるだろうと撮影。もう1/3は飛ばしても大丈夫そうです。ライカM(Typ240)とこのあたりは、厳密に撮り比べてみたいところです。印象は、いいですね。
ハイライトを飛ばさず、シャドーを潰しきらず、といった程度に露出を切り詰めます。一昔前のカメラであれば、単に眠い画になるだけです。
今度は中間からハイライト側にトーンを閉じ込めてみます。M8を思い出す描写です。これはちょっと嬉しい。デジタルカメラでプリントをしてみたい と思うことはあまりなかったのですが、ちょっとやってみたいですね。
触れて居たくなるボディ、魅惑のレンズ群、一家言ある写り
この時代にわざわざ軍艦とベースプレートは真鍮製、ここは"流れなのか"ボディはそのままマグネシウム製。なにせ目の前にあれば用もないのに触り回し、ファインダーを覗いてしまうのです。マニュアルフォーカスで、例外を除いて単焦点レンズのみ。決して便利なカメラではないですが、要は「自分で」撮るんだ、と、常にライカは撮影者自身が全てなのだと、勝手なアナウンスでも思いつきそうな魅力に満ちあふれています。現行レンズはともかく、オールドに至っては「そりゃ君、ほんとに神の話だよ」というような眉唾なオーラを纏うレンズもあります。もちろん銘玉と呼ぶに相応しい玉もたくさんありますが。それもこれも、まあ、魅力あって、たくさんの人々が、様々な想いで接してきた歴史がつくるのでしょう。さすがに価格が価格で、そうポンポンと買い換えるわけにはいかないのです。「薄くなっただけでしょ?」と軽口を叩いていましたが、テストが終わればすっかり欲しい。困ったモノです。写りの面では正常進化、このカメラとシステムが持つアピアランスからすれば、再パッケージ完了、といったところでしょうか。新時代へのレンズ置換もほぼ終わり、一つ上の次元で、レンジファインダーカメラの撮影が楽しめるようになりました。さて、今回は短い時間でのテストであったため、次回以降、少し撮りたいモノをじっくり撮りに行きたいと思います。歴代デジタル機とフィルムとの比較など、いろいろ試してみたいこともあります。もちろん、オールドレンズも。ぜひお楽しみに。
書き忘れてました。デジタルライカに、これまであまり惹かれなかった方、ぜひ手にしてみてください。
( 2017.01.27 )