写真を読み解く
第1回 「プロローグ」
写真を学ぼうと思いたったら、身の回りにある写真を参考にしてみてください。書店に足を運べば印刷された素敵な写真が。インターネットには世界中の写真がアップされ、映画、TVの中の動画にも参考にできるものが。
PY撮影ノートではテーマごとに撮影をするための技術、考え方などを紹介してきました。新しく始まるコラム「写真を読み解く」は一枚の写真を取り上げ、写真の中にそれらがどうやって生かされているかを探って行こうという試みです。今までバラバラに紹介してきたことが、ジグソーパズルのピースのようにはまり、一枚の写真を作り上げていくことの参考になれば幸いです。
( 文 : A.Inden )
「読み解く」とは
写真には反射的に撮影し記録するパターン(昆虫採集的と筆者は呼んでます)と何らかの意図を持って撮影するパターンがあります。「写真を読み解く」ではその両方を対象と考えています。反射的に撮られた素晴らしい写真は、その要素を分析し再現できる方法を。何らかの意図を持って撮られている写真からは意図を分析し、それを写真に反映していく技術を学ぶ。
PY撮影ノート Vol.14 「絵画の雰囲気から学ぶ」では絵の雰囲気を分析し、写真に取り入れてみました。同じように写真を読み解くことで、その雰囲気のみならず、技術までも習得してみようという試みです。さてどこまで読み解くことができるか。楽しみでもあり不安でもありますね。
「写真を読み解く」 check sheet
頭で考えていても難しそうなのでcheck sheetを作ってみました。現時点ではこのぐらいの要素があればなんとかなると考えていますが、コラムが進んでいくともっとチェック項目が増えてくるかもしれませんね。(拡大されたcheck sheetは後半の分析のところで使っています)
※印刷してお使いいただけるPDFのcheck sheetはこちらからダウンロードいただけます(82KB)
実技 : 分析
では実際に写真を見ながらcheck sheetに記入してみます。今回は第一回ということで軽めにスタートです。
写真を読み解く ・ check sheet 1 : 機材セッティング
レンズ | 設定 | 効果 | check memo |
---|---|---|---|
焦点距離 | 広角⬅標準(35mmフルサイズ換算50mm相当)➡望遠 | 遠近感の強調⬅目に近いパース➡圧縮効果 ピントが深くなる⬌ピントが浅くなる |
標準より短い |
ピントの位置 | 奥⬌手前 | 前ボケが大きくなる⬌後ろボケが大きくなる、ピントが深くなりやすい⬌ピントが浅くなりやすい | 手前の人物 |
絞りの設定 | 最小絞り⬌開放 | ピントが深くボケない⬌ピントが浅くボケが大きく | 浅い(広角なのに水平線がボケている) |
その他 (フィルター、味など) |
フィルター、特徴のあるレンズ、アオリ(ティルト・シフトレンズなど)のセレクト | フィルター・特徴のあるレンズで描写を変える、アオリでピント、形のコントロール ※注1 | 少しハイライトが滲んでいるので古いレンズの可能性もある |
機材 | セレクト | 効果 | check memo |
機種 | フィルムカメラ or デジタルカメラ | フィルムは8×10まであるためメディアサイズが大きい | デジタル(空のトーンが若干硬い) |
センサーサイズ | 小さい➡APS-C➡35mmフルサイズ以上 | ➡階調が豊富、ボケ味が大きい、高画質 | APS-C以上(水平線がボケている) |
カメラ設定 | 設定 | 効果 | check memo |
シャッタースピード | 遅い⬌速い | ブレやすい(ブレの利用)⬌被写体の瞬間を止める | 1/500秒以上(波しぶきが止まっている) |
ホワイトバランス | タングステン➡太陽光➡曇り | ブルー➡アンバー | 太陽光 |
ISO感度 | 低感度➡高感度 | コントラスト:➡硬くなる ノイズ:➡乗ってくる |
ISO感度は最低か一段アップ |
露出補正 | マイナス補正⬌プラス補正 | 暗くなる⬌明るくなる | プラス補正(+2EVぐらいか) |
カメラ or 現像 | コントラスト | 効果 | check memo |
コントラスト | 低い⬌高い | 柔らかな調子⬌硬い調子 | 少し低い |
彩度 | 低い⬌高い | シックな雰囲気に(0はモノクロ)⬌鮮やかに | 少し低い |
カラーバランス | レッド⬌シアン/グリーン⬌マゼンタ/ブルー⬌イエロー | 正しい色に補正したり、独自の色味が作れる | 少しシアン |
※注1:形を変えた作例(Canon TS-E17mm F4L)、ピンントを変えた作例(Canon TS-E24mm F3.5L II)、PY撮影ノート Vol.3 「ピントの話」をご参照ください
写真を読み解く ・ check sheet 2 : 状況分析
光 | 様子 | 効果 | check memo |
---|---|---|---|
高さ | 低い⬌高い | 影が長い⬌影が短い | 高い(肩に日が当たっている) |
方向 | 逆光➡斜光➡順光 (撮影したい被写体に対して) |
影:なし➡あり➡なし 色:浅い➡濃い➡濃い コントラスト:低い➡高い➡高い |
逆光 太陽の位置は少し空が薄くなっている 上あたり |
硬さ | 光の硬さを影で判断 影がない➡影が薄い➡影が濃い |
色:浅い➡浅い➡濃い コントラスト:低い➡標準➡高い |
逆光のため光が柔らかく感じられる |
色味 | レッド・シアン・グリーン・マゼンダ・ブルー・イエロー | 色で雰囲気を変える | 若干シアン |
人工光 | メイン、補助 | 光で雰囲気を強調、光が足りない部分を補う | なし |
周辺 | 様子 | 効果 | check memo |
周りの状況:自然 | 開けている(高原・海)・囲まれている(森) | 開けている:コントラストが高い、影が濃い 囲まれている:コンタラストが低い、影が薄いかない |
波打ち際 |
周りの状況:都市 | 建物が低い・建物に囲まれている | 建物が低い:コントラストが高い、影が濃い 建物が高い:コントラストが低い、影が薄いかない、ビルの反射で光が多方向から来る |
|
周りの状況:室内 | 広い・狭い 壁・天井・床の素材の違い 窓が小さい⬌大きい・低い⬌高い |
この3つの要素が光のコントラストに影響 例えば広くて、素材が白くて、窓が大きいとコントラストは低く、逆の場合は高くなる |
|
どこの国か | 風景、建物、小物等、国によって異なる | その国の特徴を入れることで、国をイメージさせる | |
時系列 | 想定 | 効果 | check memo |
1日の流れ | 何時頃を想定しているか | 朝・昼・夕・夜の雰囲気を感じさせることで物語を | 太陽の高さで考えると昼過ぎ |
1年の流れ | 何月頃を想定しているか | 春夏秋冬の雰囲気を感じさせることで物語を | 服装で判断すると初夏 |
反射的に撮られた写真だと思います。中学生ぐらいの女の子の仲の良さと楽しさが伝わってきますね。
逆光で人物に露出を合わせたため、全体としてはオーバーな露出で撮られています。逆光、露出オーバーで撮影すると色調が浅くコントラストが低くなり、柔らかく優しげに感じやすくなります。色味は全体にシアンが被っています。シアンを感じる色調は、ナチュラル系の雑誌で多く使われる手法で、安心感と手の温もりを感じさせます。またこの写真では、空、海のブルーと服装のピンクをうまくなじませる働きもしていますね。ピントは浅く水平線がボケて柔らかく感じます。あまり意識してないことですが、海は水平線がシャープに見える見えないで印象が違って見えます。さてカメラセティングから受ける印象はこのぐらいでしょうか。どこまで撮影時に計算されているかわかりませんが、すべてのセティングが優しい雰囲気に向かっていたのですね。あとはシャッターチャンス。波が足元に来て驚いた瞬間、友達に助けを求めてる手がいいアクセントになっていますね。これは計算したとは思えませんが、右側の女の子の顔がうまく白波に入って、表情がはっきりと読み取れますね。
再現のためのまとめ
優しい雰囲気の写真を撮るのに参考になる写真ですね。ではおさらいにポイントをまとめてみます。
- レンズは、人の目の画角に近い標準レンズ前後。普段慣れている画角からは安心感を受けやすいです
- 絞りは、人物に目が行くよう開け気味にして背景をぼかしてシンプルに
- 露出は、全体が少しオーバーに。そのためには逆光を選び、シャドーの人物を適正露出に
- 色は若干シアン調。色味はカメラセッティングでも現像時の後処理でもOK
- 彩度は少し抑えめ。カメラセッティングでも現像時の後処理でもOK
- シャッターチャンスは、二人のいい関係がわかるタイミングで
さて第1回「写真を読み解く」は今すぐにでも撮影に応用できそうな写真を選んでみました。いかがでしたでしょうか。思ったより簡単でしたか?
みなさん、気になる写真がありましたら、ぜひcheck sheetで分析してみてください。最初はうまくいかないかもしれませんが、根気よく続けることで、写真を意図した通りに表現できるようになると思います。夏もあとわずか。こんな写真を撮ってみたいと思い立ったら、家族で、友達と、そして恋人と海に出かけてみませんか。
( 2016.09.20 )