Leica Super-Vario-Elmar-T F3.5-4.5/11-23mm ASPH.
「アポ・バリオ・エルマーT」と同時に発売の超広角ズーム、「スーパー・バリオ・エルマーT」です。35mm判フルサイズ換算で約17mmから35mm相当という、超ワイドからスナップにも使いやすい広角までのズーム域を持ち、最短撮影距離も20cmと短く、被写体にしっかりと寄れます。周辺光量や像の色被りなど、ワイドほどシビアになるところですが、LEICA Tマウント専用設計ですので描写はどうだろうと自ずと期待も高まります。ダイナミックに風景を切り取ったり、テレ側をうまく工夫しながら標準レンズのように扱ったりと色々楽しめそうなレンズです。早速、陽射しが眩しい能登へ行って来ました。
( 写真 / 文:T.Takahashi )
朝の連続ドラマ『まれ』の舞台にもなった輪島です。この細い竹を並べ作った垣根は「間垣」と呼び、日本海から吹き付ける冬の風から家屋を守るためのものです。通りを埋め尽くす高く立ち並ぶ竹の枝ですが、手前から奥の一本一本まで解像しながら描いています。僅かな周辺落ちはありますが、パースの効いたこういった写真に立体感も与え印象的です。
その間垣の中を入ると「そとら村」と描かれた建物がありました。ドラマに登場した役場です。思いがけずドラマの中に入ってしまったようです。こちらも逆光の中、手前の建物の古びた壁などがよく表現されています。また電線の描写も繊細で解像度の高さを感じます。
白米千枚田では、秋から冬にかけてロマンチックなイルミネーションが棚田を彩ります。昼間はまったく味気がありませんが、これがイルミネーションの正体、LEDです。最短撮影距離は20cmと短いので、超広角のワイド端ながら非常に柔らかいボケ味があります。波や雲の柔らかな描写からピント面の立体感が際立っていて、いいバランスです。
街を歩き目に止まったガラス張りのビル。こういった建物も正面から撮りたくなるのが超広角。映り込む光と伸びやかな柱を気持ちよく捉えることが出来ました。僅かな歪曲はありますが気になるレベルではないでしょう。逆に補正されていると立体感を失い、むしろ気持ち悪く感じる場合もあります。少し角度を付けることでワイドの効果もさらに楽しめます。
金沢、冬の風物詩。兼六園の雪吊りライトアップです。手ぶれ補正機能を搭載していませんが、手持ちでの撮影も少し感度を上げることで不安無く撮影出来ます。拡大して見ると、闇夜に浮かぶ縄一本一本のディテールまで描写していることが分かり、深く落ち着いた群青の空にうっすらと見える雲の階調表現も申し分ありません。
街中でのスナップショットです。ISO1600での撮影ですが、ノイズも少なく様々な光源が入り混じる中、カメラ側のオートホワイトバランスも自然で、うまく見たままの印象で捉えてくれました。余談ですが、「LEICA T」の美しい液晶を見ながらの撮影は、ついついテンションが上がってしまいました。
伸びやかな画が楽しくてワイド端を使いがちですが、テレ端を日常スナップに使ってみてはいかがでしょうか。角度を付けず正面などから撮ると標準レンズで捉えたような表現も出来、これ一本で焦点距離以上に楽しめます。
表現の幅を広げるワイドズームレンズ。日頃、単焦点レンズにこだわるライカユーザーにも、丸呑みするような超広角域からのズームは、広大な美しい景色に出会った時には活躍するでしょう。また、今回はスーパー・バリオ・エルマー1本と決めて撮影旅行や街撮りスナップに出掛けるのもいいですし、「LEICA M」のサブにと言う方には、超ワイド域は「LEICA T」とこのレンズに託すというのもいいですね。カメラボディと一体を為すスマートな佇まい。ルックスだけでも欲しくなってしまいます(笑)。とにもかくにもライカですね。ご覧頂いた通り、高い解像力とともに繊細な描写力を持つ「スーパー・バリオ・エルマーT」。色調、コントラスト、階調ともにライカファンを納得させるレンズだと思います。さすがはライカ、間違いのない一本です。
( 2015.06.09 )