Leica APO-Vario-Elmar-T F3.5-4.5/55-135mm ASPH.
ライカ初のAPS-Cサイズのセンサー搭載のミラーレス機「LEICA T」。そのレンズラインナップとして登場した「アポ・バリオ・エルマーT」です。コンパクトな「LEICA T」においてこの望遠域を手に入れることは大変な魅力であり心待ちにしていた人も多いでしょう。ライカと言えばスナップや風景など、単焦点レンズを装着しての撮影をイメージするところですが、やはり望遠域は、被写体との距離も立ち位置でコントロールするのも難しく、ズームレンズを使うことでフレーミングも追い込めます。35mm判フルサイズ換算で約80mmから200mm相当の画角で、極端に倍率を欲張らないところもライカらしいところではないでしょうか。そして何より、「LEICA T」の持ち味であるライカらしい渋めのトーンや、その描写への期待も高まります。さらに最短撮影距離は1mと短くF値は3.5-4.5と明るめ。開放での描写はもちろん、少し絞ったあたりからの解像感も楽しみのひとつです。そんな期待をたずさえて、朝の連続ドラマ『まれ』の舞台、能登へ出掛けました。
( 写真 / 文:T.Takahashi )
逆光の中、波しぶきが陽炎のように舞い上がる幻想的な光景を、うまく描いてくれました。テレ側での撮影ですが、ハイキーなトーンでも白飛びすることなく階調があり、木々の枝も崩れることなく解像。ピント位置は描写が平坦になりがちな無限遠ではありますが、奥行き感もあり実に美しく表現されています。
ワイド端55mmでの撮影です。穏やかな内浦の波が絹のように繊細に描かれ、家並みも浮かび上がっています。また逆光の中、コントラストも見事です。寒さ厳しい色味の少ない季節ではありますが、かえって本レンズのトーンとLEICA Tの発色にうまくマッチしたようです。
一見、フラットに見えた雲も捉えてみると微妙な階調までもしっかり描かれています。また、木の枝一本一本まで解像しながら、雲から浮き上がってくるような立体感もさすがだと感じます。
開放での撮影です。ズーム全域最短撮影距離が1mですので、ちょっとしたマクロ撮影にも使えます。氷点下の朝でしたが、角度を変えるごとに表情を変える寒々しい氷に、何度もシャッターを切ってしまいました。枯れた草の表面を、うっすらと覆った霜の表現など見事なものです。
望遠ズームとなるとやはり動体撮影でのAF合焦速度が気になるところです。動き回る被写体を望遠レンズで狙うのに、EVFファインダーではなく背面液晶での撮影という難しい条件で撮りましたが、ピント位置も狙い通りにあってくれました。また思いの外フォーカスは速い印象です。テレ側開放での撮影ですが、顔に付いている砂までもリアルに捉えています。毛並みの表現もいいですよね。
そっと近づき飛び立つ鴨を狙いました。AFも中々むずかしいシーンではありますが、うまく被写体を捉えてくれました。大きなボケではありませんが、ピント面はぐっと立ち上がり非常に立体感があります。
ガラスの透明感、手前の木の枝の解像感とともに、すばらしい表現力です。
「LEICA T」というカメラはどういった人が使うのだろうとイメージした時、それは「LEICA M」などレンジファインダーユーザーではないかと思います。レンジファインダーで200mm相当の望遠を捉えることは難しいでしょう。そんな時に「LEICA T」と「アポ・バリオ・エルマーT」を持って旅に出れば、いろんな風景を捉えることが出来ます。決して切れっ切れの描写とはならないものの解像感はしっかりとしており、むしろ写真表現としてはとても自然で、渋めのトーンなど質感の再現性は本当に見事です。遠景から中望遠、最短撮影距離を活かしてのマクロ撮影。さらにはポートレートを狙ってみたりと、撮りたいシーンがいくつも思い浮かびます。色味と解像力。そしてライカらしい世界観。ぜひ楽しんでください。
( 2015.06.09 )