PHOTO YODOBASHI

Back to PY HOME

御朱印をめぐる旅 Vol.10
神奈川県鎌倉市 瑞鹿山円覚寺

大河ドラマで改めて注目される鎌倉は、八百年の時を経ても人が集まり賑わう町。歴史を感じさせる町並みはもちろんのこと、天然の要害であったこの地は山と海に囲まれ、四季折々の豊かな自然が魅力です。都心から訪れやすい距離ということもあって今や一大観光地ですが、武家政治のはじまりを歴史に刻んだかの時代は、戦乱と天災によって社会的に不安定な時代でありました。そんな背景もあって日本仏教においてはさまざまな宗派が生まれてくる重要な時期でもあります。今回は鎌倉仏教に数えられるひとつ、臨済宗のお寺を訪ねてみるとしましょう。（写真・文：Serow）

 

残暑を感じる天気の良い日でした。北鎌倉駅を降りれば円覚寺はすぐそこ、線路沿いを少し歩くだけで入り口が見えてきます。鎌倉市街からお散歩して訪れるにもちょうどよい距離で、山の中をひと駅分歩けば辿り着いてしまいます。

 

境内に入れば、立派な山門（三門）が見えてきます。風雪に耐えた趣のあるこの門は1785年に再建されたものですが、中央にかかる扁額は北条貞時の時代ですから700年以上も前のこと。大河ドラマで描かれた北条義時の時代から時は流れ、蒙古襲来による殉死者を「敵味方の区別なく」弔うために建立されたのが円覚寺ということです。

 

臨済宗はいわゆる禅宗のひとつ。坐禅を重要なメソッドとしており、一般の人に門戸を開いて日常的に坐禅会を開催しています。実は今回円覚寺を訪れたのは、坐禅というものを学び、体験してみたかったということがあります。

 

● 臨済宗と公案
臨済宗は中国における禅宗の一派で、南宋に渡って仏教を学んだ栄西が開祖となり日本に広めました。京ではなく鎌倉に下って、武家政権と結びついて活動したこともあり、鎌倉には臨済宗のお寺がたくさんあります。同じ禅宗でも曹洞宗が「ひたすら座る」感じであるのに対し、臨済宗は「公案」というものが有名。禅問答と言われたりもしますが、取り組むことで初学者を導くような問題となっています。ひとつお試しになりますか？
− 両手を打ち合わせると音がするが、片手にはどんな音があるのか。それを示しなさい。

 

このあたりには、丘陵地が侵食されてできた谷間（谷戸）が多くみられます。円覚寺はそのような地形のひとつをまるまる境内としたような形で、谷間に沿って伽藍が建てられています。こちらの建物は居士林（こじりん）と言って、いわば道場。かつて江戸の地で柳生流の剣道場であったということですが、ここ100年の間に移築され、今なお坐禅会などで利用されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の坐禅会会場はこちらの選仏場。思いのほか境内に人の気配がなく、参加する人は少ないのだろうかと思っていたところ、中にはすでに沢山の人が座っていました。汗ばむ陽気のなか一畳のスペースに一人ずつ座って、坐禅会の始まりを待っています。これほどの人が集まることに驚きを覚えつつ、心強さのようなものも感じてしまうのが正直なところ。さて坐禅をはじめましょう。

● 坐禅会の体験
坐禅にも色々なやり方があり、ひとつひとつ解説を受けながら実践をしていきます。まずは立つこと、足の裏を感じること、身体の各所に意識を向けること。座り方、坐禅の始め方、終わり方。短い時間で、実際に坐禅。歩く瞑想。寝る瞑想。もう少し長い時間で、坐禅、等々。「ハイ、1時間坐禅」ということではなく、5分〜10分のセッションを繰り返すので、はじめての参加でも無理なく実践できました。やってみれば、やはり坐禅は体験です。頭でっかちに「私とは何か」と迷妄するのではなく、実際にそれを確かめる試みとでも言いましょうか。感覚の発生を眺め、それを手放していくと、心身はすこし楽になっていきます。やがて身心脱落、私という普遍的なものはなく、自他の区別のない世界を実感していくのが禅の目指すところなのかなと思いますが・・・そうでなくとも坐禅に取り組んでみる意義を大いに感じた時間でした。

 

はじめて参加した坐禅会でしたが、終わってみればなんだかスッキリ。参加者の方々も半数以上はリピートのご様子で、子供から大人まで朗らかな顔つきで帰っていきました。いつでもどこでも実践できる行為とはいえ、やはりガイドがいてくれるのは助かります。また折に触れて参加したいと思います。

 

 

かつては葬儀や法要でしかお寺と触れることがありませんでしたが、御朱印巡りをきっかけに学んでみると、仏教がほんとうに面白く感じられてきました。ブッダの教えは「信じよ」というものではなく「確かめてみよ」というもの。理論的ゆえに思想的な発展もあって学ぶのは大変ですが、そもそも座学だけでは意味がないのです。仏教がすごいのは具体的なメソッドに落とし込まれていることであって、行動するほうが近道だったりする。現代人がそれに触れようとするとき、わかりやすいのは禅でしょう。仏教本来のコンテンツを伝えようとしてくれているお寺は、ちゃんとあります。あとは門をくぐるかどうかです。

( 2022.12.14 )

PHOTO YODOBASHI HOME

Copyright © Yodobashi Camera Co.,Ltd. All rights reserved.

特定商取引法に基づく表示 お買い物方法の詳細、お問い合わせ先 www.yodobashi.com