写真を読み解く
第2回 「砂浜 ・ 逆光 ・ 四駆」
砂浜にシルエットで佇む四駆。太陽が傾きかけ長い1日の終わりを感じさせます。ハードなイメージの写真ですが、車の描写がよく計算されていて車種も色もわかりますね。さてどんな計算がされているのか、check sheetに記入しながら考えてみましょう。
( 文 : A.Inden )
実技 : 分析
では実際に写真を見ながらcheck sheetに記入してみます。
写真を読み解く ・ check sheet 1 : 機材セッティング
レンズ | 設定 | 効果 | check memo |
---|---|---|---|
焦点距離 | 広角⬅標準(35mmフルサイズ換算50mm相当)➡望遠 |
遠近感の強調⬅目に近いパース➡圧縮効果 ピントが深くなる⬌ピントが浅くなる |
広角28mmより短い |
ピントの位置 | 奥⬌手前 | 前ボケが大きくなる⬌後ろボケが大きくなる、ピントが深くなりやすい⬌ピントが浅くなりやすい | ピントは車 |
絞りの設定 | 最小絞り⬌開放 | ピントが深くボケない⬌ピントが浅くボケが大きく | ピントは深く、風景全体に合っている |
その他 (フィルター、味など) |
フィルター、特徴のあるレンズ、アオリ(ティルト・シフトレンズなど)のセレクト | フィルター・特徴のあるレンズで描写を変える、アオリでピント、形のコントロール ※注1 | |
機材 | セレクト | 効果 | check memo |
機種 | フィルムカメラ or デジタルカメラ | フィルムは8×10まであるためメディアサイズが大きい | フィルムっぽいが、太陽を見るとデジタルか? |
センサーサイズ | 小さい➡APS-C➡35mmフルサイズ以上 | ➡階調が豊富、ボケ味が大きい、高画質 | 3:4ぐらいの縦横比だが、解像感が高い。デジタルバック? |
カメラ設定 | 設定 | 効果 | check memo |
シャッタースピード | 遅い⬌速い | ブレやすい(ブレの利用)⬌被写体の瞬間を止める | 1/500秒以上(波しぶきが止まっている) |
ホワイトバランス | タングステン➡太陽光➡曇り | ブルー➡アンバー | 太陽光 |
ISO感度 | 低感度➡高感度 | コントラスト:➡硬くなる ノイズ:➡乗ってくる |
ISO感度は最低か一段アップ |
露出補正 | マイナス補正⬌プラス補正 | 暗くなる⬌明るくなる | マイナス補正(-1.5EVぐらいか) |
カメラ or 現像 | コントラスト | 効果 | check memo |
コントラスト | 低い⬌高い | 柔らかな調子⬌硬い調子 | 普通(逆光だがアンダーのため) |
彩度 | 低い⬌高い | シックな雰囲気に(0はモノクロ)⬌鮮やかに | 少し低い |
カラーバランス | レッド⬌シアン/グリーン⬌マゼンタ/ブルー⬌イエロー | 正しい色に補正したり、独自の色味が作れる | 少しグリーン+アンバー メディア(フィルム or センサー)の癖? |
※注1:形を変えた作例(Canon TS-E17mm F4L)、ピントを変えた作例(Canon TS-E24mm F3.5L II)、PY撮影ノート Vol.3 「ピントの話」をご参照ください
メモ : アングルと構図
- 車に対するアングル:真サイドに近いアングルで車のシルエットをわかりやすく。ヘッドライト・グリルを少し見せることでフロントのイメージも感じさせる。ボンネットが少し見える高さで構えることで四駆らしい厚みを。そして空が写り込むスペースを作り出している。
- 全体の構図:左奥に砂浜のカーブが感じるように切り取ることで砂浜の長さを強調。雲のドラマティックな表情を活かすために空を多めに入れている。カメラを水平に構えることで全体的に端正なイメージになり、逆光でドラマティックな雲だが、全体から受ける印象は上品に感じられる。
写真を読み解く ・ check sheet 2 : 状況分析
光 | 様子 | 効果 | check memo |
---|---|---|---|
高さ | 低い⬌高い | 影が長い⬌影が短い | 少し低い。太陽が海に反射する高さ |
方向 | 逆光➡斜光➡順光 (撮影したい被写体に対して) |
影:なし➡あり➡なし 色:浅い➡濃い➡濃い コントラスト:低い➡高い➡高い |
逆光 画面左上が太陽の位置 |
硬さ | 影がない➡影が薄い➡影が濃い | 色:浅い➡浅い➡濃い コントラスト:低い➡標準➡高い |
逆光だがアンダーのため影がはっきり見えている |
色味 | レッド・シアン・グリーン・マゼンダ・ブルー・イエロー | 色で雰囲気を変える | 若干グリーン+アンバー |
人工光 | メイン、補助 | 光で雰囲気を強調、光が足りない部分を補う | なし |
周辺 | 様子 | 効果 | check memo |
周りの状況:自然 | 開けている(高原・海)・囲まれている(森) | 開けている:コントラストが高い、影が濃い 囲まれている:コンタラストが低い、影が薄いかない |
海の波打ち際 日本で砂浜を走れるところは石川県の千里浜(ちりはま)のなぎさドライブウェイ |
周りの状況:都市 | 建物が低い・建物に囲まれている | 建物が低い:コントラストが高い、影が濃い 建物が高い:コントラストが低い、影が薄いかない、ビルの反射で光が多方向から来る |
|
周りの状況:室内 | 広い・狭い 壁・天井・床の素材の違い 窓が小さい⬌大きい・低い⬌高い |
この3つの要素が光のコントラストに影響 例えば広くて、素材が白くて、窓が大きいとコントラストは低く、逆の場合は高くなる |
|
どこの国か | 風景、建物、小物等、国によって異なる | その国の特徴を入れることで、国をイメージさせる | |
時系列 | 想定 | 効果 | check memo |
1日の流れ | 何時頃を想定しているか | 朝・昼・夕・夜の雰囲気を感じさせることで物語を | これから日が落ちていくイメージ |
1年の流れ | 何月頃を想定しているか | 春夏秋冬の雰囲気を感じさせることで物語を | 日本海の海の色。冬のイメージ |
※印刷してお使いいただけるPDFのcheck sheetはこちらからダウンロードいただけます(82KB)
ドラマティックな風景の中に小さく車が配置されていますが、この写真の主役はあくまで車です。四駆と言う車の性格を出すため、轍のついた砂浜、旅を感じさせる広大な風景、ドラマティックな雲、荒れた鉛色の海、太陽の煌めきとハードに感じられる条件が選ばれています。この条件を満たすには、場所は砂浜を走ることができる石川県の千里浜なぎさドライブウエイ、海を鉛色にする季節は雪が降る前の冬、撮影時間は冬であれば太陽がきらめくように海に写り込む14時前後でしょうか。車の置き方とカメラアングルも計算されています。逆光で車は黒く潰れるはずですが、少しフロントに太陽が当たるように車を置くことと、カメラアングルをボンネットが少し見えるところまで上げることで車のラインをうまく見せています。シャッターチャンスは雲と太陽の関係から生まれるフロントガラスの煌めき。止まっている車から少し動きが感じられます。
再現のためのまとめ
ではおさらいにポイントをまとめてみます。
- レンズは広角で遠近感を強調し砂浜の広がりを感じさせる
- 絞りは、緻密な描写でハードなイメージを出すため絞り込む
- 露出は空の調子がドラマティックに残るようにアンダーに
- アンダー露出で車がシルエットになるのを避けるため、車の置き方とカメラアングルを工夫
- シャッターチャンスは、フロントガラスに写りこむ太陽の煌めき
第二回「写真を読み解く」は第一回と同じ条件(砂浜、逆光)で、ハードなイメージに仕上げるコツが感じられる写真を選んでみました。同じ条件でも被写体によって表現方法を変えることで、写真から受ける印象が変わってくるのですね。さて次回に向けて気になる写真の散策。ただ写真を眺めているだけでも楽しいですが、もう一歩踏み込んで遊んでみたいと思います。
( 2016.10.12 )
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参考