PY撮影ノート Vol.16 らしい光 〜四季篇
暖冬なのかなかなか冬らしい光に出会えません。それどころか、降り注いでくる光を見ているともう春なのかとさえ感じてしまいます。不思議ですよね。太陽から届けられる光は一つなのに、感覚的に四季それぞれの「らしい光」を感じ分けているのですね。
季節を表現しようとすると、撮影者はそれらしい被写体を切り取ります。当然といえば当然なのですが、今回の撮影ノートでは春夏秋冬の光を考える事で季節の被写体を季節の光で撮る、そして究極は被写体と関係なく季節を感じる写真を撮る事を目指してみたいと思います。頭の中ではなんとなくシュミレーションできるのですが、果たしてうまくいくのか。我ながらハードルの高いテーマを考えついたものだと反省しつつ、想像の世界で「らしい光」を探してみます。
( 写真 / 文 : A.Inden )
春は柔らかな光
春のいちばんの特徴はなんでしょうか。北海道に住んでいた頃、春になると雪解けと同時に土の匂いに町中が包まれました。そして一斉に木々草花が芽吹く。そんな変化を見ていると不思議と優しい気持ちになり、自然と笑顔になったことを思い出します。春の光は「新緑の淡い色が感じられる少し柔らかで優しい光」そんなイメージでしょうか。
春らしい光を演出するためにPY撮影ノート Vol.14を参考にしてみます。表にまとめられたカメラでできる操作を考えると、優しい光を表現するには「逆光、開放、露出オーバー」が基本でしょうか。好みで彩度控えめ、W.B.でデーライトを選び色補正で少し黄色のファクターを入れてあげてもいいかもしれません。
夏は高い位置から差し込んでくる光
夏の特徴は太陽の高度が高いということです。さすがに日本では90度の角度は得られませんが。太陽光は高度が高いほど遮る空気の層が薄く、光がクリアーに届きます。加えて青い波長が拡散されやすくなるため、青空がどこまでも青く続いていきます。ズバリ夏の光のイメージは「脳天に突き刺さるようなクリアーな青い光」でしょうか。
夏らしく表現する大事なポイントが影の演出です。太陽が高ければ高いほど、被写体の近くに短い影がはっきりと現れます。影をはっきりさせるには、周りに余計な建物がない場所を選びます。建物がレフ板(ポートレイトでモデルの側から当て影を薄くする白い板)の役目をしてしまうのを避けるためですね。カメラのセッティングは露出を少しアンダー、コントラストを強調して影を濃く見せる。W.B.を4300k前後にして少し青みを加える感じでしょうか。フレームの中に眩しさを感じさせる演出ができれば更に佳いですね。
秋は透明度を感じる少しアンバーな光
秋といえばまず思い浮かぶ言葉は「天高く馬肥ゆる秋」。大陸からの乾燥した空気、偏西風による大気中の塵の拡散、台風、秋の長雨によって大地が湿り塵が立ちにくくなる等の気象条件が重なって、秋の空が澄んでどこまでも高く感じる様を端的に表したものですね。確かに秋の光はクリアーですが、どことなく懐かしい気持ちにさせるような気がします。どうしてでしょうか。あくまでも個人的な感覚ですが、山々の紅葉が空に写り込んで少しアンバーを感じさせる青空になっているからではないでしょうか。夕日、白熱電灯を代表とするアンバーな光には人々を感傷的にする力があるように思います。「懐かしさを感じる少しアンバーな光」秋の雰囲気にぴったりですね。
アンバーな色味にするにはW.B.を曇りモードに、もう少し強調したい場合は日陰モードでもいいかもしれませんね。そして秋のクリアーな光を演出するセッティングは「コントラスト高め、彩度高め」でしょう。ただ懐かしさを感じさせる光なら「コントラスト低め、彩度低め」の真逆のセッティングの方が良いと思います。
冬はコントラストの強い差し込む光
真っ白な雪原にほんの少し出来た凹凸の影がどこまでも伸びて行く。冬の光の印象は「強く長い影」。冬は日中でも太陽の高度が低く、長い影がいい塩梅に景色のポイントになります。普段何気なく通り過ぎる景色も影が入ることで印象的な風景に見えてきますね。また、枯れた大地、雪原、冬は大地から色を奪っていきます。地表からの色の影響が少ない青空も冬の特徴ではないでしょうか。
太陽の高度が低いと光が通り抜けてくる空気層が長くなるため、青い(短い)波長は届きにくくなり、赤い(長い)波長が届いてきます。実は冬の光は日中でも若干アンバーな色味を持っています。ただアンバーな色味は暖かさを感じやすくなるので、冬のイメージとは少し違ってきます。W.B.をオートにして積極的にニュートラルな色味を狙っていく方がいいでしょう。
四季の光の要素とは
四季の光に対する思いのようなものを書いてきました。少し個人の感覚的なものも入ってしまいましたが、光の性質が自然と密接に関係していることを感じていただけたでしょうか。では春夏秋冬のらしい光を表現するために、季節ごとの自然の変化を表にして整理してみましょう。
影響を与える要素 | 春 | 夏 | 秋 | 冬 |
---|---|---|---|---|
太陽の位置 | 春分 南中高度90°−緯度 真東から出て真西に沈む |
夏至(一番高度が高い) 南中高度90°−緯度+23.4 北寄りから出て北寄りに沈む |
秋分 南中高度90°−緯度 真東から出て真西に沈む |
冬至(一番高度が低い) 南中高度90°−緯度−23.4 南寄りから出て南寄りに沈む |
温度 | だんだん高くなってくる | 高い | だんだん低くなってくる | 低い |
湿度 | 温度が上がるにつれ、だんだん高くなってくる | 梅雨時期がピークで低くなってくる | 温度が下がるにつれ、だんだん低くなってくる | 低い |
大気の透明度 | 湿度が上がるにつれ空気中の不純物が増えてくる | 湿度が下がるにつれ空気中の不純物が減ってくる | 不純物は少ない | 不純物は少ない |
周りの自然 | 新緑。淡い色調の自然(彩度が低い) | 濃い緑。彩度が高い色調の自然 | 紅葉。彩度が高い色調の自然 | 枯れた木、濃い緑の常緑樹。雪。コントラストの高い自然 |
*この表は日本(本州)における季節の変化を基本に考えています。
四季において光の質、色に影響を与えると考えられる要素は、おおよそこのような感じでしょうか。もう一点、四季とは関係ありませんが太陽の高度と色の関係を押さえておく必要があります。太陽光は光の波長と空気の層の厚さの関係で色が変わります。具体的には高度が高ければブルーに、低ければアンバーに。夕焼けが何故赤いかということですね。
「らしい光」いかがでしたでしょうか。少しは光を考えるときの参考になればと思います。ここにあげた光のイメージはあくまで筆者が感じてきたものですが、本当はもっと色々な条件が重なって複雑な光になります。「写真は引き算」と構図の本に書いてあったりしますが、実は光も引き算なのです。一つ特徴的なものをスッと見せてあげる。その方がより「らしい写真」になるのです。
撮影には、被写体を見つけた時”反射的に撮る”、もう少し待てば良くなるだろうと思い”待って撮る”、すべての条件を熟考し”探して撮る”など幾つかのパターンがあります。「らしい光」を演出することは考えて写真を撮る一つのテクニックです。写真を撮るのに行き詰まった、もう一歩前に進みたい。そんな時、自分らしい光を頭の中で考えてから撮影してみてはいかがでしょうか。
( 2016.02.18 )
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Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
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