LEICA Q (Typ116) | SHOOTING REPORT
ライカからワクワクするような新製品が生まれました。2400万画素のフルサイズセンサーを搭載し、SUMMILUX 28mm F1.7 ASPH.という大口径単焦点レンズを組み合わせたレンズ固定式カメラ「LEICA Q」です。ライカ製品のファンからすれば「いよいよフルサイズコンパクトが出てきた」というだけで興味津々なのですが、明るいAFレンズやEVF、マクロモードに動画撮影ときっちりと盛り込まれたスペック、そして製品リリースにあたってローンチイベントを開催するという力の入れように否応なく期待は高まります。懐との相談はさておき、まずはそのファーストインプレッションをお届けしたいと思います。イベントの様子もレポートしておりますので、併せてご覧ください。
( 写真:Z II / 文:Serow48 )
このうえなくフレンドリーな、新しいライカ。
M型ライカをお使いでない方は、レンジファインダーやマニュアルフォーカスという機構に「じっくり撮影する、趣味のカメラ」なんて思うかもしれませんが、実はヘビーなライカユーザーほど「スピーディに撮影できるからM型を使う」ものです。半端なAFは撮影テンポを落としますし、撮りたい時にシャッターが切れなければ「決定的瞬間」は撮影できません。身体性に直結するからこそM型ライカは使いやすいのであり、だからこそ他のカメラには越えがたい壁があるわけです。フルサイズセンサーを搭載したLEICA Qは、もはやサブカメラというよりも1台で完結するメインカメラとしての本領が問われることになるでしょう。となれば、実は超えるべきハードルは60年前に生まれた至高のMシステム、と言えるかもしれません。
さて、実際に触ってみてどうか。これが驚くほど使いやすく仕上がっています。レンズ固定式のカメラということでXシリーズの延長を想像していたのですが、AF速度や各種レスポンスを含め、新しいシリーズ名を冠しただけのことはありますね。ボディ形状や各種インターフェイスについては後述しますが、オートでもマニュアルでも直感的に操作でき、もたつくところはありませんでした。パフォーマンスが良いとなると人間は現金なもので、片手で扱えるライカであることを素直に喜んで受け入れてしまうものです。画像処理プロセッサもライカM(Typ240)より新しい「LEICA MAESTRO II」ですから、今回のレビューはJPEGの画そのままにご覧いただきたいと思います。まずは海へのワンカット、状況もかまわず開放での撮影です。開放F1.7からここまで写る頼もしさはもちろんですが、実に「らしい」色合いに、思わずニヤリとしてしまいますね。
少し絞ってF5.6、普通のスナップならこのあたりが一番よく使う絞り値でしょう。広角でもしっかりと立体感のある描写で、目の前の光景を生々しく写し取ってくれました。あたり前かもしれませんが、精細さも階調もMシステムに遜色するところはありません。28mmという画角もあって、軽快なスナップを楽しむことができます。
「すごい! 寄れるよ」なんていう理由で感動しているのですから、ライカユーザーとはおかしなものです。しかし寄れるズミルックスなんて、M型では体験できなかった世界ですよね。色乗りもコントラストも良好ながら、決してわざとらしくない描写に好感が持てます。ボケも自然でスムースです。
高感度はISO50000までに対応。こちらはISO6400の撮影ですが、昔なら考えられなかったクオリティに隔世の感を覚えます。とはいえレンズは開放F1.7という明るさがありますし、感度を上げるとしても実際はISO1600〜ISO3200あたりで十分だと思います。いずれにしても感度についてそれほど神経質になる必要はないわけで、テクノロジーの進化は撮影を一層自由にしてくれるわけです。
撮影はあまりにも自然に、最初から慣れ親しんだカメラのように使うことができました。これはPY編集部員がM型ライカに慣れているということもありますが、各部のインターフェイスや機能が考え抜かれたものであり、またレスポンスも良いことにあると思います。AF単焦点のカメラなんて他にもあるでしょう?と言われればその通りなのですが、やっぱりフィーリングが良いのですよね。
広角レンズではありますが開放でこの距離となればボケも楽しめて、被写体が浮き立つように表現できます。レンズの印象はキレキレというよりは端正なイメージで、色乗りやヌケは良好。安心して被写体に向かうことのできる優秀なレンズと言えますね。
M型ライカでは撮れなかった、こんな1枚。フルHD動画の撮影やWi-Fi/NFC対応など、現代的な機能にも抜かりはありません。これをベースにしたレンズ交換式システムが出てきたりするのかな、なんて妄想してしまいますが、さてどうでしょうか。そんな展開のための最初の一歩が、このモデルなのかもしれません。
見事な立体感に唸ります。最後にわた菓子を口に含んだ日を思い出し、ベトベトになった手を想像してしまいませんか? もしそんなイメージが浮かぶなら、よいルポルタージュ写真が撮れたということです。
ぎっしりメカを詰め込んだ、スマートなボディ。
新しい製品が生まれたとき、どこから見てもライカのカメラであることがわかる。これがライカのすごいところです。フルサイズセンサーをカバーする大口径AFレンズやEVF搭載というスペックから考えて、どうしても大きく不格好にならざるを得ないと想像していたのですが、これだけスマートに仕上げてくるのは流石ですよね。「コンパクト」と呼ぶには少し大きい印象ですが、Xシリーズに比べて少し大きく、Mシリーズに比べて少し小さい、そんなボディサイズになっています。レンズの大きさなどのバランスは、従来モデルで言えばX Varioのような雰囲気をイメージしていただくと良いでしょう。
LEICA Qの特長でもあるマクロモードは、レンズ根本のリングでスイッチできます。このリングを回転させると同時に距離指標もスッと変化し、無限遠だった指標が0.3mに。このあたりのメカが大変に良く出来ていて、むやみに動かして楽しんでしまいました。AFとMFの切り替えもヘリコイドリングひとつ。とても直感的でスマートなインターフェイスです。
背面のボタンもシンプル。ポップアップや外付けではなくボディ内にEVFを収めたところにライカの美学が伺えます。面白いのはグリップ位置の左にある小さなボタン。このボタンを押すとレンジファインダーのようなフレームが現れ、35mm/50mmの画角にデジタルクロップができます。クロップですから画素数は少なくなってしまいますが、あたかも28mm/35mm/50mmの3本のレンズを搭載したカメラのような感覚で、気分はまさにトリエルマー。28mmのレンズを搭載した理由はこういう所にあるわけですね。(このボタンにはAEロックやAFロックを割り当てることもできます)
ライカユーザーはフルサイズAFカメラの夢を見るか?
ライカのカメラ誕生から100年を超え、101年目の新製品として生まれたLEICA Qは、次の100年をはじめるに相応しいライカ渾身の1台です。M型の登場によってカメラのひとつの形が定義されてしまったように、ライカはいつも「カメラのあるべき姿」を追求し続けているように感じます。盛り込まれる要素や機能は同じでも、それをどのような姿で、どのようなクオリティで実現するか。基調音のように根底に流れる哲学があればこそ、ライカのプロダクトは輝きを失わないのでしょう。100年という時間を経てもその哲学が受け継がれていくのは、メーカーだけでなくユーザーがそれを共有しているからに他なりません。
さてメーカーからの問いが市場に放たれたとすれば、次は私たちユーザーが答える番です。LEICA Mには50mmレンズをつけて、28mmのLEICA Qと2台の組み合わせ。既にそんなイメージをお持ちの方も多いでしょう。M型で十分満足しているという方も、一度はこの新しいカメラを使ってみて欲しいと思います。写真を撮る道具としてM型を選んできたライカ使いの方ほど、LEICA Qに備わったAFやマクロ、EVFなどのもたらす意義を素直に受け止め、すぐに使いこなしてしまうことでしょう。ライカが真剣に作りこんだこのフルサイズAFカメラは期待通りの写りの良さと使い勝手に優れたボディで、現代のテクノロジーの恩恵を存分に味わわせてくれるはずです。
ライカユーザーではない方にとってはどうでしょう。ライカは敷居が高かったという方、あるいはマニュアル操作が難しいとか、レンジファインダーでのピント合わせが得意ではなかった方なら。LEICA Qは、実はそんな方にこそぴったりのカメラです。基本はオートで撮影を楽しめばよいのですし、慣れてきたら絞りやシャッタースピード、ピント位置を自分でコントロールしていくなど、写真撮影の楽しみをステップアップしていくことができます。技術が身についてきたからといって買い換える必要がなく、そして交換レンズの沼に迷い込む必要がないという点でも極めて「健全な」カメラだと思うのです。手にしたら、どうぞ長く長く付き合ってください。
半世紀を超えて愛されてきたM型ライカ。その枠を越える新しいモデルは、きっとこのLEICA Qからはじまります。
( 2015.06.17 )