Hasselblad XCD 2,5/38V
XCD 2,5/38Vは、ハッセルブラッドXシステムカメラと907Xカメラに対応する広角レンズです。画角は35mmフルサイズ換算で30mm相当。350gと軽量で扱い易く、中判センサーを搭載したカメラを使っている感覚さえ忘れるほどです。最短撮影距離も30cmと結構寄れるので、日常を気軽に撮るメインの万能レンズとしておすすめできる1本となっています。35mmフルサイズでは、広角の中でも広すぎず狭すぎずといったところの画角ですが、4:3のフォーマットを持つXシステムでは縦方向への広さもあるので、30mmという数字から想像するよりも広く感じます。どうぞご覧ください。
( Photography & Text : TAK )
建築物の場合、縦方向に伸びる被写体も多くなるでしょう。ほぼ床上から見上げての撮影でしたが、天窓も入れつつ階段の曲線美も入れ込むことができました。これが3:2だと階段が中途半端に切れてしまい悩ましいところなのですが、4:3では実にフレームしやすいのです。
F5.6まで絞ってみました。当然のことながら、言うことなしですね。CFV 100C自体の画力もありますが、フラットな状況下でも高いポテンシャルを見せつけてくれました。
開放は一見ふんわりとした印象なのですが、実際は線も細く上品な描写です。XCD4/45PなどXシステムデビュー当初のレンズの描写を想像していると、ちょっと傾向が変わったかな？と感じるかもしれません。もちろん十分にシャープで、解像自体もしっかりとしています。センサーが超高画素ということも関係しているかもしれませんが、そもそもパッと見のシャープネスを追い求めてはいないようにも見受けられます。シャープネスのレベルに1と2があるとしたら、画素数が増すことで1.5のレベルも表現され、しかもあえてエッジ処理を加えていない？、、、そんな印象を受けます。いわゆる「新XCDレンズ」ということで、描写傾向にもバリエーションを持たせて来たのかもしれません。美しい周辺減光もウェルカム。人間の網膜だって周辺は、、、（笑）。
開放では中距離でもピント以外は想像以上にボケます。中判センサー用ですから、やはり35mmフルサイズのF2.5よりボケ量は大きいのです。コントラスト、色再現も素晴らしいですね。
最短付近まで寄ってみました。美しくとろけるようなボケです。分かりやすいシャープネスを追い求めないのであればボケは良くなるだろうと思っていましたが、その通りでしたね。ハッセルブラッドは商品写真にもよく使われますが、この傾向、花の商品写真にもピッタリではないでしょうか。
周辺減光からも想像はつきますが、周辺のボケにも口径食が見られます。リアエレメントも相当なサイズですからね。「画面の隅々までまん丸！」な状況になったのはつい最近のこと。代々のハッセルを使い込んできたユーザーは、そもそも問題にすらしない気がします。ボケ味はやはりまろやかで、複雑な背景も距離感を感じさせつつ上品に溶かしてくれます。ほどよい残存フレアはちょっとクラシックなレンズのようにドリーミーで、温かみすら感じられます。
やっぱりハッセルはスクエアフォーマット。F8ですが、遠距離の建物まで細かく解像しています。
画角とサイズのバランスが絶妙で、スナップも楽しくなります。
逆光で最大限の意地悪をしてみました。やはり多少白っぽくなる印象で光の存在を打ち消すような表現ではありません。ピント部のコントラストの低下は軽微です。AFは爆速とまではいきませんが、ストリートも問題なくこなせます。レンズの新しいフォーカシングモジュールとCFV 100Cの位相差AFが効いていますね。
繊細な描写。麗しきボケ。常用できる広角。
個人的感覚ですが、開放からエッジの効いた高解像でねじ伏せるのではなく、光を丁寧に拾い何も端折らず繊細に描いてくれるレンズです。深みを感じさせてくれる、お酒で言えば「芳醇」路線の1本といったところでしょうか。ボケも大変美しく、花や食べ物などを近距離で撮影すると甘美な雰囲気をもたらしてくれます。もちろん絞ればシャープにもなるので、表現に幅が生まれます。適度な広さがあり構図を取りやすい上に取り回しも良いので、1本だけで出かけるとしたらこのレンズを選ぶでしょうか。コントロールリングとフォーカスリングの模様もただのギザギザではありません。あの「H」マークが規則的にあしらわれた、デザイン性の高いものです。普通、そんなところまで凝りませんよね。最高速1/2000秒のレンズシャッターの音にも精密感があります。金属の鏡胴内で心地よく響き、まさに時を刻んでいる感覚を味わうことができます。どこを取ってもやっぱりハッセルブラッド。惚れます。
( 2024.02.27 )
