Hasselblad XCD F4/21mm
Hasselblad XCD F4/21mmは35mmフルサイズ換算で17mmとハッセル史上もっとも広角なレンズ。中判デジタルは大きなイメージサークルが必要となるためどうしてもレンズが大きくなりがちですが、このレンズは長さ106mm重さ600gとコンパクトに作られています。そして、このコンパクトさの中に9群13枚のレンズ(そのうち2枚が非球面)と1/2000秒〜60分に対応するレンズシャッターが収められています。レンズシャッターの大きなメリットは全速ストロボに同調することです。ファッション写真で見かけることがある昼間なのにダークな背景に人物がストロボで浮き上がっている写真は、レンズシャッターのカメラを使って撮影されています。35mm判換算17mm相当は超広角のカテゴリー。ここまで広角になると画をまとめるのが一苦労。うまく作例が撮れるのかと軽いプレッシャーを感じています。
( Photography & Text : A.Inden )
消えゆく光で狙う
中判デジタルの一番の売りは広いダイナミックレンジと豊かな階調に裏付けされた光の再現力です。このレンズを使用するHasselblad X1D-50cは画像階調16bitと65536色を表現し、ダイナミックレンジは14ストップと幅広い明暗差をカバー、さらに5000万画素と高画素。このカメラのポテンシャルを引き出すには相当高いレンズ性能が必要とされます。1941年からプロユースの機材を作り続けているハッセル、そんな当たり前のことは普通にこなしているとは思いますが、まずは豊かな階調がどこまで再現されるか、そして超広角レンズに一番求められる直線の美しさを試してみました。
日中どんよりと曇り単調なグレー一色だった空に、夕方になってほんの少しオレンジ色の濃淡が見えてきました。とはいえ差し込んでくる光はディフィューズされたような感じで弱々しく、適正露出だと全体のトーンが浅くなりそうなので少しアンダー気味に。全体的にロートーンですが、切り詰められた露出でもビル、金属のフェンス、人物の質感はしっかりと再現されています。超広角につきものの周辺光量落ちはJPEG撮って出しではほとんど感じませんが、無料でダウンロードできる純正現像ソフト「Phocus」でRAWデータを見てみるとレンズ補正(周辺光量)にチェックが入っていました。最近はレンズをコンパクトにするためにソフトによるレンズ補正は当たり前のようになってきています。建物写真や風景を撮られる方はソフトまで含めて正確な補正がどこまでされているのか、気になるところではないでしょうか。チェックを外してみたら・・・かなり好みの周辺光量落ちになりました。サムネイルでチェックを外した画像を掲載しています)
直線に関しては周辺まで真っ直ぐに再現されています。ソフトでレンズ補正(レンズ歪み)のチェックを外してみたのですが、ほとんど影響がないぐらい光学設計時に補正されているようです。
21mmのパース感を楽しむ
35mmフルサイズ換算で17mm相当とはフレームに入る範囲が17mmと同じというだけで、パースはレンズの表示通り21mmになります。「そんなこと当たり前」なのですが、パース感は被写体選びにかなり影響してきます。最初17mm超広角はプレッシャーだなと思っていたのですが、実際ファインダーをのぞいてみるとそこまでのパースは感じられず自然な風景が目に入ってきました。そう思えたら肩の荷がおり、コンパクトな中判デジタルをいつものように目に入ってきたシーンに向けるだけ。AFはそこまで速くはありませんが、レンズ繰り出し量が少ない広角のため動きのあるシーンもストレスなく撮影、静かなレンズシャッターは耳障りのいい音を奏で、撮影にいいテンポを生み出してくれました。
レンズの性能は作例を見ていただければお分かりだと思います。描写は開放からシャープ、21mmでボケの話をするのはおかしいとは思いますが、菜の花に寄って撮影すると背景は形を崩すことなく美しくボケていきます。あっさりとした描写の評価ですが、不思議なものでここまで余裕のある描写を見せられると性能云々なんて言っても仕方ないと思ってしまうのですね。申し訳ありません。
- 上から7枚目の作例をレンズ補正(周辺光量)のチェックを外して現像しました。雲間から少しのぞいた太陽で柵の真ん中だけに残照が当たっています。そのスポットのような光を強調するため周辺光量落ちを利用してみました。
- 上から11枚目の作例を真ん中の光芒(光条)を強調するためレンズ補正(周辺光量)のチェックを外して現像しました。超広角の周辺光量落ちはうまく使えばいい武器になると思います。光芒の数は絞り羽根の枚数と関係します。このレンズは同じ太さのものが8本出ているので8枚羽根です。絞り羽根が奇数になると、羽根の枚数と同じ数の細い線と太い線が出ます(9枚羽根だと18本ですね)。これはあくまで個人の好みですが、8枚羽根の光芒が一番美しいと思います。
中判デジタルを活かし切るレンズ
決してカリカリしていないが驚くほどシャープ。決してコントラストが高いと感じないが被写体の存在感を表す立体感がある。そして、周辺までその描写が同じ調子で続く。その美しい描写を見たとき「なるほどこういう写りもあるのか」と新たな次元を感じさせられました。
中判センサーは光を豊富に捉えるため、広いダイナミックレンジと豊かな階調で画像を描いていくことができます。Hasselblad XCD f4/21mmはその利点を余裕を持って描き切るレンズ。フィルム時代からブローニーフィルムで撮られた厚みのある写真に、光を受ける面積が大きい写真の凄さを感じていました。今回の試写の通じて、中判の凄さを形にするにはレンズの描写の傾向がいかに大事かを改めて感じました。「写真はレンズで決まる」、懐かしいコピーですがデジタルには「写真はレンズとセンサーの相性で決まる」ともう一言足してみたくなりますね。
( 2019.05.13 )