Hasselblad 907X 50C | SHOOTING REPORT
このスタイルを見て、欲しくならないわけがありません。往年のハッセルブラッドSWCを思わせる、薄くコンパクトなスタイル。「HASSELBLAD」の銘板に心が躍ります。
本モデルより先に、オールブラックの精悍なスタイリングの907Xスペシャルエディションが発売されました。ハッセルブラッドの月面着陸50周年を記念した特別なモデルは限定数での販売でしたが、今回レビューを行うのは9月18日に発売となったブラックのレザーにクローム仕上げというスタンダードモデルです。907X カメラボディとCFV II 50C デジタルバックで構成されたミラーレス機となっており、このデジタルバックはハッセルブラッド500C/Mなど、往年のVシステムと組み合わせて使用することができます。
前述の通り、907X カメラボディとCFV II 50C デジタルバックで構成されるこのミラーレス機、907Xはほんの2cm程度の薄いボディとなっており、ボディというよりはレンズとデジタルバックを接続するアダプターといった様相です。CFV II 50Cは5000万画素のCMOSセンサーを内蔵し、16ビットの色深度と14ストップの広いダイナミックレンジ、ハッセルブラッドのナチュラルカラーソリューションで人が見たそのままに近い色を再現するとのこと。X1D II 50Cと同様にXシステムに対応しているため、XCDレンズでもAFほか各種電子制御での撮影ができるようになっています。
そのクラシカルな佇まいで、手に取るとどんな気持ちになるのかと想像を膨らませるだけで幸せな気持ちになる。こんなカメラの登場は稀ではないでしょうか。まずは外観からじっくりと見ていきましょう。
( Photography : A.Inden / Text : Rica )
LOOK & FEEL
上から見ると、ハッセルブラッド500シリーズからカメラボディを抜いたような、とてもコンパクトな形状です。背面の液晶はチルト式で、90度まで稼働するため、これをファインダー代わりにウエストレベルでの撮影ができます。レンズを除き、重量は865gととても軽量です。クローム仕上げのエッジとブラックレザーの組み合わせが往年のモデルを彷彿とさせ、大変品のある仕上げとなっており、所有感を大いに満たしてくれることは間違いありません。
- マウントはXCD。X1D II 50Cと同様にXCDレンズを装着することができます。
- CFV II 50C デジタルバッグと907X カメラボディを分割すると、ボディの薄さが際立ちます。
- 背面のモニターは3.2型。236万画素のTFTタイプとなっており、90度のチルト、タッチ操作が可能です。
- デジタルバックの左側に外部端子であるUSB Type-Cのポートがあります。Wi-Fi接続も可能です。
- バッテリーとSDカードスロットは、デジタルバックの右側にあり、ここを開けるとそれぞれを入れられるようになっています。
- 背面のモニターを90度チルトさせ、これを上から確認しながらウエストレベルでの撮影ができます。
- 背面モニターはチルト式で、45度と90度の位置に固定できます。
- USB Type-CでiPadと接続し、アプリケーション「Phocus Mobile」を介してのテザー撮影ができます。
- SDカードは2枚入れることができるデュアルスロットとなっており、順次記録、同時記録が選択できます。
- シャッターボタンは向かって左側にあり、フィルムのハッセルブラッドを使用してきたユーザーには馴染みやすいでしょう。
OVERVIEW
X1D II 50C デジタルバックと同様にレンズシャッター式のため、907X カメラボディにはシャッター機構がなく電子接点があるのみで、とても薄くて軽くなっています。基本的なスペックはCFV II 50C デジタルバックによるものです。
製品名 | HASSELBLAD 907X + CFV II 50C |
---|---|
センサー | 5000万画素CMOSセンサー(43.8×32.9mm) |
撮影モード | シングルショット、連写、セルフタイマー、インターバル、露出ブラケット |
ISO感度 | ISO Auto、100、200、400、800、1600、3200、6400、12800、25600 |
記録媒体 | UHS-II対応SDカードデュアルスロット、MacまたはPCへのテザー撮影 SDカードスロットは順次撮影または同時記録が設定可能 |
ディスプレイ | 3.0インチTFTタイプ、24bitカラー、92万ピクセル、タッチ機能:あり |
シャッター | 電子制御によるレンズシャッター、最高速1/2000秒、ストロボ全速同調、電子シャッター機能搭載 |
シャッタースピード | XCDレンズ装着時: 68分~1/2000秒 HC/HCDレンズ装着時: 最高1/800秒または1/2000秒、電子シャッター:68分~1/10000秒 |
寸法 | 102 × 93 × 84 mm |
重量 | 865g(バッテリー含む) |
PHOTO GALLERY
まずは、中判センサー 5000万画素、ダイナミックレンジ14ストップの濃厚なトーンを感じていただければと思います。どうしても画素数に目が行きがちですが、大きなセンサーサイズのいちばんの見せ所はその豊富なトーンにあると思っています。雨上がり、十分に水分を吸収した草花のピンとした姿を見せるには、確かに解像度は必要です。ただ、その被写体の生命力のようなものまで見せるためには、解像度があればよいというわけではありません。作例を拡大して草花の息吹を隅々まで感じてみてください(すべての作例は画像のクリックで原寸サイズをご覧いただけます)。
解像度を確認するため一段絞って撮影しました。高解像度なので天井に貼られた板の細かな模様がはっきりと分かるだろうと想像はしていたたものの仕上がりを見て絶句。肉眼でほとんど確認することができないスプリンクラーの形状や、金属を埋め込むために丸や四角に削られた木の細工の様子まではっきりと分かることに驚かされました。単に高解像というだけでなく、階調の豊富さと適度なコントラストで細やかな質感描写がしっかりとされていると感じます。1/20秒とかなり遅いシャッタースピードで撮影していますが、首からかけたストラップを張り、ウエストレベルに構えることでしっかりとホールディングし、ブレを防いでいます。907Xのシャッターは、切れる瞬間がはっきりと分かるほど精度の高いもので、これもブレ防止に一役買っていると思います。この切れ味はさすがハッセルと思わずため息がもれました。
PCでピントを確認しようと200%まで拡大すると「そうそうこの金属はこんな質感だったな」と、ピントとは違うところに感心してしまいました。金属に注目しながら全体をみると、アウトフォーカスにまで、質感の違いがしっかりと再現されています。金属のパーツが浮き出てくるよう露出を少しアンダーにしていますが、暗部も潰れることなくしっかりと情報が残っています。特にフロントタイヤはアウトフォーカスで地面と溶け込むように写ると予想していたのですが、しっかり分離しており、14ストップと広いダイナミックレンジの実力を垣間見ることができました。
浮き上がるようにとても立体感のあるオレンジ色の花に目を奪われますが、周りの草花の微妙な色もその場で見た実物に近い色調に再現されています。「色に立体感がある」この表現が正しいかどうかはわかりませんが、16bitの色深度ですべての色が曖昧さなく再現され、また色が丁寧に分離されているため、立体感が際立っているように感じさせるのかもしれません。
- 500C/MにCFV II 50C デジタルバックを装着。フィルムバックとほとんど変わらぬスタイル。
- 907X カメラボディとCFV II 50C デジタルバックの組み合わせではボディの薄さで全体的にコンパクト化。
CFV II 50C デジタルバックの大きな特長は、1957年以降に発売されたハッセルブラッドのさまざまなボディに装着でき、デジタルバックとして撮影が可能になる点です。当時のデザインや質感を受け継ぐことで、約60年もの時の隔たりのある機材が、佇まいも、手に持った感覚も往年のモデルと変わらず、そしてまったく違和感なく操作することができます。
CFV II 50C デジタルバックを500C/Mにつけて撮影しました。ボディには電子接点がないため、ISO以外の露出のコントロールはレンズで行います。レンズで絞りとシャッタースピードを決め、ボディにあるシャッターを押すと撮影できます。言葉で書くと少々まどろっこしく感じますが、500C/Mを使っていた方にとってはいつもの慣れた動作ではないでしょうか。ウェストレベルファインダーで構える500C/Mは、撮り手がおじぎをするような撮影スタイルで、被写体に威圧感を与えにくく、人物の入ったシーンの撮影に使いたいと思っていました。CFV II 50Cとは機械的に繋がるため、シャッタータイムラグが心配だったのですが、人物、波の動きを追っても思った通りのタイミングでシャッターが切れました。60年以上前のノンコーティングのレンズですから、ハレーションには目を瞑ってください。
1957年に発売されたPlanar 80mm F2.8、通称6枚玉。開放で撮影すると柔らかく低コントラストな描写です。オールドレンズは画素数が上がると粗が目立つのではと心配していましたが、画素数が上がることで描写がより繊細になり、より一層オールドレンズの良さが引き出されているように感じます。
フレックスボディで撮影しました。このボディはビューカメラのような構造をしていて、少しアオリを使うことができるため、じっくりブツ撮りをするときに使うものです。CFV II 50C デジタルバックを使って撮影するときは、モード切り替えで「ボディ/電子シャッターのみ」を選択し、ライブビュー撮影が可能になります。さらにスマートフォン用アプリ「Phocus Mobile 2」を使うとiPad Proの大きな画面でシビアなピント合わせが可能になります。もちろん露出等の設定もiPad Proから可能です。
30年以上前に手に入れたCレンズですが、300%まで拡大しても像に甘さを感じることはありませんでした。それだけでなく使用したレンズの被写体をグッと凝縮し、その質量まで感じさせるような描写が見事に生かされていました。古いレンズ資産も安心して使っていけそうです。
- フレックスボディにCFV II 50C デジタルバックを装着しています。液晶にタッチするか、iPad Proからシャッターを切ります。
- iPadを使い、「Phocus Mobile」を介したライブビュー撮影ではピントをシビアに追い込むことができます。
ISO 100と ISO 3200を比べてみましたが、どちらがどちらかわからないほどです。階調も解像感もまったく同じと言っても過言ではありません。
最新のハッセルは最良のハッセル
1年以上前から発売を楽しみにしていた907X カメラボディと CFV II 50C デジタルバックの試写をすることができました。
ハッセルブラッドのスタイル、操作性、描写に惚れ何十年も使い込んできました。デジタル化して以降、何種類かのデジタルバックも試してみましたが、高画素かつ満足のいく描写には簡単に出会うことはできませんでした。CFV II 50C デジタルバックを使ってみて、シンプルに感想をお伝えすると、とてもありふれた言い方になってしまいますが、「1年間待ち続けた甲斐のある、期待以上の」製品でした。その「期待以上」だったポイント、描写、操作性については、レビューを読んでいただきお伝えできたのではないかと思います。でももうひとつ。実際に使ってみると、907X カメラボディがなくてはならないものであるということを強く感じました。当然ではありますが、XCDレンズとCFV II 50C デジタルバックはお互いが最高のパフォーマンスを発揮できるようにチューニングされています。今回の試写で体感した、ものがそこにあるかのようなゾクッとする描写は、この組み合わせでしか再現できないものでしょう。そこに“小さな愛のキューピット”とも言うべき907X カメラボディがふたつをつなぐ役割を果たしているのです。そのスタイルこそクラシカルなものに回帰したように思いますが、過去から現在までのVシステム、Xシステムを繋ぐ新たなチャレンジが生み出したまったく新しいミラーレスシステムとなっています。
筆者も含め、デジタルバックだけでいいかなと考えていた方も少なくないと思いますが、XCDレンズ+907X カメラボディ+CFV II 50C デジタルバックの組み合わせこそ真の実力を発揮できるシステム。これまでと次元が違う写りを間違いなく体験することができます。
( 2020.10.08 )