PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SONY α99 II, SAL50F14Z Planar T* 50mm F1.4 ZA SSM, 1/3200, F1.4, ISO 100, Photo by K

Aマウント・アンセム 〜そこにレンズがあるから〜

Vol.2 : Planar 50 / 85

プラナー。その語感・響きはツァイス・ファンにとって心地よいものでしょう。また、未だオーナーとなった経験のない人にとっても、どことなく気になる存在かもしれません。ZEISSレンズに馴染みがないと、なぜレンズに名前らしき名前が与えられているのか不思議ではありませんか? 私も不思議に思ったものです。Planarと名付けられるレンズは、いわゆる“Planarタイプ”と呼ばれるレンズ構成で、構成名がそのままレンズ名になっているのです。なにやら記号のような日本製のレンズに比べて一貫したものを感じ、半ば無条件でカッコいいなと。ちなみに車の世界では真逆で、日本車には名前らしき名前、ヨーロッパ車は型番的。今度は「ヨーロッパ車の名前はシンプルでよいなー」と感じるという。まあ実に素晴らしく節操のない話でありまして。

話を本題に。SONY・Aマウントには2本のPlanarがあります。50mm F1.4と85mm F1.4。どちらも伝統的な焦点距離に開放F値ですが、AFであること、手ブレ補正が利くこと(ボディ側)が魅力。しかもEVFでピントも追いやすく、仕上がりも見えるとくれば魅力倍増。もうひとつあります。設計が新しいこと。もうこれだけで試してみたい。なにせ、これまでのPlanarにはさんざん弄ばれてきましたから。正直なところ、Sonnarタイプの方を手にすることが多いかもしれません。

たとえばCONTAX一眼レフ用の50mm F1.4 / 85mm F1.4は、どうも扱いづらい印象。85mmはファインダーでピントピークが掴みづらい。またPlanarタイプのレンズは、全般的にボケ味も背景との距離によっては荒れて、どうも気むずかしい。ツボにハマると驚くような描写を見せるのですが。。しかし、Planarには妙に惹かれるものがある。なぜだろう。。

かくして、Aマウントの2本を手に入れました。この2本に対する印象とPlanarの歴史をちょっと。そして私なりに感じるPlanarについてを。他のページの箸休め的にお付き合いいただければ幸いです。

( Photography & Text : K )

SONY α99 II, SAL50F14Z Planar T* 50mm F1.4 ZA SSM, 1/6400, F1.4, ISO 100, Photo by K

Planarという道標

そもそもPlanarとは何なのか。少しその成り立ちを振り返っておきましょう。Planarの歴史はかなり古く、登場したのは間もなく19世紀という1800年代末。そこから100年以上、標準から中望遠域に至るレンズにおいて、レンズ構成のスタンダードの1つとして存在し続けています。世にある標準レンズと呼ばれるものは、何らかこのPlanarタイプの流れを汲んでいるといって過言ではないでしょう。

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レンズ設計者の皆さんに怒られそうな手書きの図で恐縮ですが、左からざっとPlanarへの変遷です。よく“ダブルガウス”と耳にすると思いますが、標準レンズの構成図で目にするのは・・そう、おおよそ上の図でいう“プラナー”に似ていると思います。つまり多くの標準レンズはダブルガウスタイプと呼ぶより、変形Planarタイプと呼ぶ方が妥当でしょう。

Planarを生み出したのは、パウル・ルドルフという数学に明るい設計者でした。当時、球面収差をはじめとする諸収差は補正が進んでいたものの、像面湾曲については手つかずだったそうです。つまり画面の平坦性を欠いていました。ルドルフは、平坦性が高く、より明るいレンズを作るために、Planarの設計に取りかかります。その際に参考にしたのがガウスタイプと言われています。そもそもガウスタイプとは望遠鏡の対物レンズのために生まれたものですが、これをそっくり対称に配置することでダブルガウスタイプが生まれました。このダブルガウスタイプに幾つかのアイデアを持ち込み、Planarが生まれました。結果として目を見張る性能向上が得られたようですが、反射面の多いPlanarタイプはフレアに悩まされることに。いまのようなコーティング技術はないため、できる限り反射面は少ないのが望ましいわけです。また、Planarタイプはコマ収差が出やすいことにも悩まされました。結果としてポテンシャルはありながらも、当時はよりシンプルなタイプが重宝されました。戦後になってコーティング技術の発達や新種ガラスの登場によって状況は変わり、またレンジファインダーカメラから一眼レフカメラへのシフトが本格化すると必然的に大口径化が望まれるように。このそれぞれの要素が追い風となり、Planarタイプの強みが発揮されるようになりました。それ以来、今日に至るまでPlanarはPlanarであり続け、世界中で愛されてきました。そしてみなさんもきっと目にしている、数々の名作を生み出してきたのです。

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AFで使える2本のPlanar

Planarと名のつくものは、入手できる限りおおよそのものは試してみました。交換レンズにドはまりするということは、要は明るいレンズにまずヤラれるということです。何が何でも大口径、そして明るいレンズもひととおり舐めれば、どうしたってZEISSという高くそびえる壁の前に立ち尽くす時がやってきます。その中でもF1.4クラスの明るさを誇るのは、たいてい“Planar”。気にするなというのがそもそも無理な注文。おおよそはCONTAXのボディを買い、Planar 50mm F1.4あたりが入口になるのでしょう。これは、ちょっと前までの話です。いまはわりとマウントを選ばずPlanarを使うことができます。ただその大半がMFレンズ。CONTAX N / G / 645シリーズ用などを除けば、AF で使えるのは、SONY Aマウント50mm/85mmの2本、そして同じくSONY Eマウント50mmの1本のみです。冒頭に記したとおりCONTAXのボディでMFに難儀した身としては、どうしても使ってみたかったのが今回取り上げる「Planar T* 50mm F1.4 ZA SSM」と「Planar T* 85mm F1.4 ZA」でした。

SONY α99 II, SAL50F14Z Planar T* 50mm F1.4 ZA SSM, 1/160, F1.4, ISO 100, Photo by K

たとえば、澱を写す。そんなときはPlanar。

よくZEISSのレンズは、コントラストが高く発色や立体感に優れるのが特長であると耳にします。古(いにしえ)のレンズに関しては全体的に球面収差の補正が完全型で、像面の平坦性が高いのがZEISSレンズの特長かなと感じます。この典型的なレンズがPlanarで、いわば最もZEISSらしいレンズかもしれません。

いろんなPlanarレンズを使ってきましたが、私の率直な印象ではコントロールするのが難しい。バックの距離によってはボケが酷いときは荒れ、柔らかくまとまるときもあれば、柔らかすぎたり、逆に硬くなることもあります。使ってきたレンズがたまたまそうなのかもしれませんが、色収差も大きめな印象です。シャッター切れば毎度手放しにスカッと写るという印象はありません。そうなると、ファインダーを覗きMFでピントピークを見つめることを想像してみてください。レンズによっては本当にピークが見えづらい印象です。Planarと名のつくレンズ全てではもちろんありません。標準域に近いPlanarです。

ただ、開放で写したいようなシーン。いろいろ想像してみてください。Planarはただ写すだけでなく、そこになにかを添えてくれるレンズだと感じます。つまり、すんなり写らないいろんな意味の雑味がプラスになってくれたりするわけです。このあたりが面白いところで、写していて実に楽しいレンズです。そして今回手にした2本のレンズは、見事にPlanarらしい描写でした。さすがに今時のレンズで開放から実にシャープ。AFでフォーカシングもまったく不安なく楽しめます。そして表現が難しいのですが、一点に綺麗にまとまらず、フレームの中で構成される色という色、階調という階調、線と線、いろいろなものがひしめき合って枠から溢れ出しそうな描写。誤解を招きそうな表現なのですが。

今回の2本は、ちゃんとPlanarの画で安心しました。フィルム時代と違い完全平面のセンサーに感材が置き換わったわけで、それを考慮した設計となり、AFのような便利さも携えた現代のPlanarです。もうこれだけで十分。あとはどう使いこなせるか。。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/100, F1.4, ISO 125, Photo by K

85mm、人を撮る。

Planar、85mm、人。実に単純な話。単純に突き動かされる、これまで見聞きした話だけあってやっぱりいいですよ。50mmも含めてまだそれほど使い込んでいるわけではありませんが、さっと撮ってみて面白いのは50mm。しみじみと佳さを感じさせるのは85mmといったところ。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/100, F1.4, ISO 100, Photo by K

埼玉某所にある居酒屋で。左が娘さんに、右がお母さん。お母さんは90代半ば、まあとにかくびっくりするほど現役。100歳は軽いでしょと言えば、娘さんを見て「アレが嫌がるから」と笑うのが毎回の挨拶(笑)娘さんといっても、うちの母親よりも年上ですから。洒落たライトにタングステン光ではなく、蛍光灯。奥から店員さんが出てくるのではなく、近況を話すのにちょうどよい距離感。お皿に目玉焼き、温もり感じる漬け物、写真からそんなのが見えますか? だとすると、Planarを用いて正解。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/3200, F1.4, ISO 100, Photo by K

雑味こそが、Planarの魅力

85mm。Planarで背景をつるんと溶かすには、それ相応の撮り方を。85mmを握って、特に変わったことをしないそんな距離感でシャッターを切ると雑味を感じることが多いかもしれない。スコッチとバーボンの違いのようなもので、どちらか一方だけになってしまうことほど不幸な話はないでしょう。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/5000, F1.4, ISO 100, Photo by K

85mm。逃げ場のない熱気、ジワリ滲む汗。背景は若干ザワつく。開放では少し色収差も目立ちます。しかし思惑通りに写ってくれればよいわけで。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/1600, F1.4, ISO 100, Photo by K

85mm。今時のレンズらしく開放から存分にシャープ。しかしキチッと描かれた線から、少し、色が、光が、溢れて欲しい。奥と手前はボケも少し巻いて欲しい。そんなシーンでした。オールドなら過剰、しかしこれは本当にちょうどよい。

SONY α99 II, SAL50F14Z Planar T* 50mm F1.4 ZA SSM, 1/3200, F1.4, ISO 100, Photo by K

50mm。上のくぐもった空気の中で撮影したカットと同じサンプル車両を、晴天下で撮影。古くから写真を見つめてきたせいか、波はこのカットのように写って欲しい。というか、こんなカットを沢山見てきた結果でしょう。

ちなみに50mmで撮影したカットは、ページ上から、薔薇の2カット、そしてこのサンプル車両の2カット。85mmよりも50mmのほうが、ちょっと頭を捻って使うと面白いレンズだと思います。85mmよりは寄れて、周りが写るので。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/2500, F1.4, ISO 100, Photo by K

85mm。シトロエン2CV。50mmより85mmのほうが御しやすいといった印象です。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/5000, F1.4, ISO 100, Photo by K

85mm。雑味だ何だと書いてますが、あくまで開放で近距離というレンズにとって一番厳しい領域での話です。50mmも85mmも現代のレンズであり、ともかくよく写ります。

SONY α99 II, SAL85F14Z Planar T* 85mm F1.4 ZA, 1/500, F1.4, ISO 100, Photo by K

85mm。あまりに暑くてバスに飛び乗る。いつだったか喜び勇んでボタンを押したら、子供が泣き出してしまいました。いくつになってもボタンは押したい。ごめん。85mmといえばこのボケ量。これだけで欲しくなるものです。50mmの寄ったときのボケ味も似た傾向のものです。

PHOTO YODOBASHI

最新かつ前衛的なボディに伝統のレンズ、粋な組み合わせを楽しむ。

2本のPlanar。正直なところこの2本より写るレンズは多々あると思います。性能面だけでいえばの話ですが。ZEISSにはSonnarというタイプがあります。自分にとっての使い分けとしては、いわば写実的に写すならSonnar、少し絵画的な期待をするならPlanarといったところです。SONYというメーカーは、一眼レフのミラーを固定化しファインダーをEVF化してしまうような前衛的なボディをリリースするかとおもえば、50mmと85mmで、F1.4という最も注目の集まるレンズにPlanarらしいPlanarをラインアップするのだから面白い。他のチャネルでのOtus 55mm F1.4の存在あたりと比べると面白いでしょ? Otusのようなレンズは、SONYあたりがリリースしそうな気がしないでもない。パブリックイメージと比べれば、SONYというメーカーはわりと愛すべきオタクが多いのではないかと嬉しくなります。

そこそこに傷が増えてきた2本。これからも楽しませて頂くとします。そうそう、Aマウントレンズの中でもZEISS銘のレンズは鏡銅の作りそしてデザインも素晴らしい。演出じみた高級感ではなく、よいものであることを伝える質感があります。

次回は、ちょっと苦手な焦点距離の1本をお届けしたいと思います。

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( 2018.07.13 )

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各社が標準レンズとしてラインナップする50mm F1.4。ソニーAマウントにも、もちろんラインナップされています。趣味性の高さから言ってもツァイスという選択肢はとても魅力的ではないでしょうか。

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開放では柔らかく、絞ればキリっと抜群のキレ味を発揮する85mmのプラナー。AFで使えるプラナーは、ソニーAマウントの大きな魅力でもありました。写真を撮る気持ちもグッと引き締まる1本です。

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