日々の撮影レポートでは当然のことながらデジタル一辺倒。プライベートでは結構フイルムを使っています。機械式のカメラばかり所有しているため、使わないとボディのコンディションも保てないといったこともありますが、結果を求められないプライベートの撮影では、フイルム撮影のテンポが丁度よかったりします。撮ったことすら忘れているフイルムを、これまた忘れた頃に現像に出し、合間合間を見つけてスキャニング。この首が伸び伸びになりそうな「間」がファインダーを覗いた時の記憶を色濃く思い出させてくれて、旅も二度楽しめるといった感じ。また何をするのも面倒なのがフイルム。現場で手応えを感じたカットも、否応なく上がりを見るのも待たされます。これがデジタルだとササっと見ることができちゃったりして、気になって気になって仕事に支障が出かねません(笑)そんな訳で、忙しい毎日でかえって付き合いやすいのがフイルムだったりします。

日頃は主にモノクロネガで撮影を行っているため、周期的に妙にカラーが撮りたくなります。そんなこんなで、今回は春が本格的にやってくる前の八重山に出かけてきました。相棒は、Velvia50を5本とライカM7、そしてSUMMILUX-M 50mmのみ。まったく撮る気が無いんじゃないかといった構成ですが、基本的にのんびりしに行くのが目的なのでこれでOK。リバーサル、それもVelviaをチョイスした理由ですが、この時期の八重山は曇り空が多く、色が載りにくい時期だからです。天気予報も曇り時々晴れといった感じでした。Velviaと現行レンズを組み合わせれば、そこそこ色が載ってくれるだろうということですね。あとは開放気味に撮りたいので感度は低いに越したことが無いという、少し変態気味な理由だったりします。え?夜ですか? 基本的に泡盛のことしか頭にありませんので撮りません。では、八重山での「撮影行脚」行ってみましょう。

( 写真/文 : K )

いやいや久しぶりに見ました。デジタルの画に慣れきってると「嘘をつけ」と突っ込みたくなる色合いです(笑)赤の発色が独特のVelviaにはうってつけの被写体ですね(全体的に赤が載るといったほうが正しいかも)。黒はズドンと落ちて、絵の具をてんこ盛りにしたような色のり。Velviaは風景撮影御用達というイメージがありますが、スナップなどに使っても面白いフイルムです。たとえばISO80程度で撮影を行い、現像時に1段ほど増感現像を行います。ISO80で1段増感を行う理由は、元々の実効感度が低く感じられたからですね。このような現像を行うと、空はより青く夕日はさらにドラマチックに描かれるのです。風景撮影のみならず都市光景のスナップでも、ハイコントラストに高彩度の色再現で結構面白いと思います。言ってみればデジタルカメラでのモード選択みたいなもので、フイルムでやると面倒極まりないのですが、デジタルよりもある種仕上がりの違いが派手に出ますので結構面白いのです。

石垣島川平湾にて。これまで幾度となく訪れていますが、なぜか曇りばかり。陽が差し込むとエメラルドからターコイズ、そんな美しい海の色を楽しめます。石垣島でおそらく最も人気のあるスポットで、シーズンオフ以外はいつ訪れても人の山。なかなか撮るのが難しいのですが、全景ではなく特定の箇所だけを切り取れば、南国のそれっぽい写真が撮れます。しかしVelviaだなあ。。いつ見てもド派手です。

冒頭のカットと同じ、竹富島・西桟橋にて。今回、石垣島と竹富島でそれぞれ1泊しました。竹富島は石垣島からフェリーで僅か10分から15分程度。大半の人達が日帰りで訪れる島です。西桟橋で沈む夕日を見ようと思えば、竹富島に泊まってしまうのが一番です。最終のフェリーが出れば島は一気に静かになり、人でごった返していた西桟橋も随分静かになります。さらに陽が沈んでしまえば残るは大抵2-3人程度。写真を撮るには陽が沈んでからがむしろピークのため、さらに好都合。日没後の十数分が空は最も焼けます。そのピークが過ぎれば今度は空と海が藍色に染まって一つに連なっていきます。何度眺めても贅沢なショー。ただただ立ち尽くし、何とも言えぬ充足感に包まれます。撮れてるものはさておき「写真やっててよかったなあ」と実感するのはこんなときですよね。さて、あとは宿に戻って泡盛、泡盛。

 

"ゆんたく"とは、沖縄地方、特に島でよく聞く言葉ですが、「おしゃべり」という意味。八重山によく出向いていると、単に「飲む」という意味に脳内変換されてしまいますが(笑)竹富島で宿を取るには大半民宿となります。リゾート的な宿もありますが、まずは一度民宿に泊まってみてください。そうすれば恐らく ”ゆんたく” に遭遇します。泡盛の一升瓶がテーブルにでん!と鎮座し、その日初めて会う人々と一緒に飲む、これがつまり”ゆんたく”です。宿によっては店主も参加して一番最後まで飲んでいるということも。今回の宿ではテーブルは屋外に。裸電球1つの下で、それぞれ食べ物を持ち寄り一緒に飲みます。何処から来たのか、日頃何をしているのか、恐らくそんな話はしてるでしょう。酔いも手伝って基本的にまったく覚えていません。しかし、心地よい酔いと楽しかったおしゃべりの記憶だけが残り、次回訪れる時も、やっぱり”ゆんたく”が楽しみになるのです。

八重山と言えば「請福」(注:人それぞれなのは承知いたしております)。グラスに氷を入れ、会話も弾み、つい調子に乗ってがんがんグラスを空けます。まず脚を持って行かれます(笑)ちなみに同じ銘柄でも「花酒」というものがあり、こちらはアルコール度数60度越えの手強い相手です。一度編集長に嫌がらせで買って帰ったことがあるのですが「少しずつしか減らない」と申しておりました。テーブルの刺身は、イカ釣り(丘っぱりです)で竹富島を訪れていた宿泊客の方が「食べる?」となぜか宿の食堂の冷蔵庫から出してくれたもの。よくよく思い返すと同じものが夕食で出ていました(笑)なんでも、イカ釣りに興じていたら他の釣り人が「食べる?」とくれたそうです。釣り人の中には、釣るわりには魚があまり好きで無い方が居るそうです。そんなこんなで、宿の夕食には出てくるわ、ゆんたくには出てくるわ、竹富島の夜はゆるゆるに更けて行きます。

いくら飲んでも、曇り空だろうと、せっかくですから朝の海を眺めに行きます。宿は島の中心部、朝日が出る方向のビーチは「アイヤル浜」となり、歩いて行くと20分程度はかかるでしょうか。浜に出ると左手には石垣島が見えます。沖の方を離島フェリーがガンガン走りますので、静かな浜という感じではありませんが、夜が明けていく朝の海はなかなかのものです。竹富島は日本全体で見るとかなり西にありますので、夜明けは結構遅いのです。したがって、二日酔いでもなんとか夜明けを見に行くことができると思います。ゆんたくで一緒になった女性陣も「見に行く」と言ってましたが、一応起きて空を眺め、曇り空だったのでアイヤル浜には向かわなかったそうです。写真を趣味にする人と、そうでない人は、なるほど、少し行動が変わるんだなあと実感しました。西桟橋で夕景を撮ろうと向かった時も、海の直ぐ上に厚い雲があり、その上が抜けた空でした。夕日が沈むシーンは眺められそうになかったので、ゆっくり西桟橋に向かい、ぞろぞろと大量の人達が引き上げている頃に到着。すれ違う人達は不思議に思うかもしれませんね。

 

竹富島に関わらず離島への旅は、島内に入ってしまうと基本的に何もすることがありません。買い物をするような店も無ければ、数軒の食堂や、ちょっとお茶をする店がある程度。そして島の人々が普通に生活する場所なのです。竹富島はそれでも島内全体が八重山の文化が凝縮して、カメラも向ける場所がたくさんありますが、たとえば近くの小浜島や黒島に行くと、小さな島にいたって普通の暮らしの場があるといった感じなのです。都会の暮らしになれていると、島に渡ってから宿での夕食の時間までを持て余してしまいそう。しかしせっかくですから、カメラをぶら下げて、のんびりと歩いて回るのがよいと思います。もっというと、何もせずぼーっと海辺で景色を眺めるのもよいと思います。「何もしない」という時間の過ごし方も、なかなかよいものです。

この猫、3年前に訪れた時もここで寝ていたような気がしますが、気のせい?? コンドイビーチにて。

猫も人も海を眺める。
それをさらにカメラとビール片手に眺める。

派手なネオンサインもなければ、飲み屋もありません。そのかわり、優しいナトリウムランプが。

 

石垣島の空港は移転・拡張され滑走路長が伸びたため、直行便が就航しました。今回の撮影も前回のニューヨーク・シアトルに続き、プライベートでした。土・日・月というスケジュールで、随分前からエアの予約を行っていたこともあり、エアと宿の合計が20,000円ちょっと。ただし、往復成田からのフライトです。直行便なのですが、成田まで行くことを考えれば「?」な感じはあります(笑)格安の旅行を楽しむには、格安チケットを何ヶ月も先の予約となりますが「とりあえず」押さえること。スケジュールの関係で行けなかったら、それはそれで諦める(諦めてキャンセル代金を支払ってもダメージは少ない)。実際に行けたら儲けものと割り切ってしまうのがおすすめです。ご覧の皆様もぜひお手軽でのんびりな旅を。

いかがでしたか。デジタルカメラも文句の無い画を叩き出す素晴らしい時代に、フイルムの撮影というのもなかなか楽しいですよ。上がりがその場で確認できないため、景色をカメラボディに1枚1枚収めて持ち帰る、そんな感覚が強くなります。久しぶりにポジフィルムを使いましたが、デジタルの画に比べれば像が甘いのです。しかし湿度が写る気がしますね。デジタルの画はもっとクリアです。昔に比べたらフイルムも随分高くなりましたし、銘柄もさほど選べなくなりました。しかし今使わなくて、いつ使うのだろう? もっともっと使いたいな、そんな風に思います。

さて、次回なのですが、実は石垣島・竹富島に渡る前にもう一度ニューヨークに撮りに行っているのです。今回はブローニーフィルムでの撮影です。撮影レポートのボリューム次第ですが、できる限り早くにお届けしたいと思います。ただ、日頃の作業の合間にスキャンを行っているため笑ってしまうぐらいに全く進みません。また世間的に全く評判を見かけないフイルムスキャナーを自腹購入しましたので、そのレポートもお届けしたいと思います。ではまた次回お会いしましょう。

( 2014.03.31 )