PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

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風景写真の撮影場所、どうやって探してる?
Vol.9 - Text by K

自家製シムシティから始まったウロチョロ癖

昔から脳内と実際を問わず、ともかくウロチョロしています。なので、あらためてロケーション探しをする前に、脳内に映像として記憶に残ってる「あれ何処だったっけ」を、ネットで調べ直すのが私にとってのロケーション探しの大半です。話が終わってしまうので、少し私の子供の頃の話を。

昔から変な子ではあったと思います。戦後から高度経済成長期を経て現在に至るまで、一度も調子に乗った形跡が感じられない田舎町で生まれ育ち、カラオケボックスが登場したのは高校生になってから、コンビニができたのは社会人になってから。ともかく娯楽らしきものは自分達で生み出すしかありません。普通に山川海で遊びもしますが、中学生の頃に熱中していたのは「我が国作り」です。

まず山に「どんぐり」を拾いに行きます。拾い集めたどんぐりは、町の釣具屋さんが一升300円で買い取ってくれます。どんぐりの中にいる虫を釣り餌にするためですね。ともかく拾い集め手にしたお金を握りしめ(※1)、文房具屋さんへ走ります。そして写真で使うバック紙みたいなものを買い、自転車で5kmほどキコキコ漕いで家に帰ります。

喜び勇んで紙を広げ、まずマッキーで描くのは決まってグレートブリテン島の輪郭です。そう、イギリスです(※2)。輪郭を書き終わったら鉛筆に握り替えて、道路網と鉄道網を描きます。ちなみに本来のイギリスにあるものとは別で、自分の好きなように描きます。都市を描きます。工業都市、港湾都市、いろいろです。都市の位置関係で当然道路や鉄道などの修正が必要になりますから、そんな理由もあっての鉛筆なのです。ちなみに街の名前は、エディンバラだのロンドンだの、それは実在の都市の名を使います。

物事というものはおおよそエスカレートするもので、最初は輪郭だけだったグレートブリテン島(下絵)も、等高線が入るようになります。空想にもリアリティが備わり出す瞬間です。もう面白くて面白くて、そんなわけでバック紙(ロール紙)が相手なのです。地形に沿ったインフラ整備、街作り、川なども流れるべきところを流れていくようになります。気候だの何だの色々加味して、どんどんエスカレートすると、結局、本物のイギリス地図に似てきました。このとき「我が国作り」は終焉を迎えます。高校1年生の頃でした。いま思えば超絶にアナログな「シムシティ」であり、ひたすらに地政学の自習をしていたようなものかもしれません。たとえば田舎が田舎である理由を、ペンを走らせて知るといった感じに。

さて話はすっ飛んで社会人になります。あくびが出るような田舎生活を創意工夫(※3)で乗り切り、運転免許を手にする歳です。空想で国を作るような子に免許なんて与えようものなら・・・。はい、ご想像通りな感じです。夜中に車に乗り込み、あてもなくフラッと出かけたらもう最後。明け方までまず帰ってきません。年間10万キロ近く走ることもザラにあるわけで、ともかく年がら年中ウロチョロしています。年齢とともに行動範囲は拡がって、海外もかなりウロチョロしてきました。

脳内でウロチョロ、実際にウロチョロ、そんな行為が何かの役に立つとは思っていませんでしたが、後に写真が趣味になって役に立ちました。おそらく編集部で一番いろんな場所を知っていると思います。ただ写真はさておき、単純に面白いんですよね。見ると知ることができます。知ると考えます。考えるとなんとなくわかっていきます。ひとつわかると、まるでパズルのピースがはまるように複数の物事が紐付いたり。

写真が趣味になって最初のうちは、自分がかつて見た景色を、単純になんとか持って帰りたい。できれば綺麗に。最初はそうでも、徐々に自分の写真を見てくれる人のことを考えて撮るようになります。写真の面白さの一つは「未だ見ぬ景色を見る」ということだと思います。文字通りの未だ見ぬ景色を求めて収めることもそうですし、日頃見慣れた景色の中から、自分なりの景色を抽出して収めることもそうだと思います。そう、いつしかウロチョロは「写真の頭」で行われるようになり、「写真の眼」になっていきました。

編集部員がそれぞれのロケーションの探し方を綴っていますが、私も似たようなものです。世の便利ツールは私も大活用しています。しかし好きなので未だにウロチョロします。まったく刺激のないウロチョロとなることのほうが大半ですが、ただ、見たいもの、そして興味のないものも、分け隔てなく視覚として飛び込んできます。ここがよいのかなと個人的には思います。自分の興味あるものばかり見ていても世界はちっとも拡がりませんから。実際はお金も時間も労力もかなり使って、得たものはよくわかんない、という感じではあるのですが。ただ何をするにも「力」が要るものだと思います。見る力、考える力、とよく言いますよね。使った「力」は、いますぐでないにしても何かしらそのうち役に立つのかなあと、疲れて帰ってきて呑む一杯を楽しみにウロチョロしています。

企画の趣旨をかなり逸脱した独白みたいな文章になってしまいましたが、なにせあらためてロケーションを探すことがほとんどないので、ロケーションへの紐付け方、つまりロケーションを探す前段階のことを次に書いてみたいと思います。

※1 売上の一部は、いや、時に大半は、釣具屋さんに置いてあるお菓子とジュース、そしてアーケードゲームに消えました。いま考えると素晴らしいビジネスモデルです。

※2 男の趣味はイギリスへと辿り着くのであります。

※3 通信簿で良かったのはこの項目だけです。あとは全滅です。


映像と言葉が写真のネタ元

私はこんな編集部で仕事をしていながら、ほとんど人の写真を見ません。もちろんバイブル的な写真集などは人並みに見てきたつもりですが、それにしても見ることがありません。世代的にテレビがお茶の間の最大の娯楽だったため、紀行物やドキュメンタリー、ドラマ、映画などの映像がむしろ写真のネタになっていたりします。視覚的なネタはそことして、一つのフレームに収まる量感や質感というのは言葉がネタになっています。それは映画のセリフであったり、小説であったり、歌詞であったり。

これらのネタから、ロケーションの紐付けの例として「音のない景色」というものを。

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なにかの本で出てきそうなフレーズですよね。実際何処かで聞いたり、読んだりしたことのあるフレーズなのだと思います。このカットはシグマSD1のロケの際に撮ったものですが、当時あれだけのリアリティ溢れる緻密な描写をするカメラは他に見つけられないという具合に凄みがある機材でした。この力を表現するには音が消えていくような静寂がいいなと。そんなわけで「音のない景色」というイメージが浮かびました。

音のない景色か・・動いていない水面がいいな。しんみりと音が消えていくかのような日の入りがいいな。そんなわけで、凪いだ海(内海)、夕日、できれば遠浅の海岸線と、脳内のウロチョロデータベースからロケーションを割り出します。よく知った海で、人もまばら、遠浅で海に足をつけて遊ぶ人達をよく見かけていたので、フレームに人が入ってくるのを待っていました。子供が思惑通りあらわれてくれて、一瞬立ち尽くします。少し動いて波紋が立ったときにシャッターを切りました。静に動を、それも波紋というのが、逆に音を消してくれるかなと考えたのです。

このカットは組み立てて撮影したものなので、脳内ロケハンは行っています。

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太陽の沈む方向は季節等々からロケーションを選定しているため、潮の満ち引きを調べます。思い通りに行きそうだと見定められたら、今度はGoogle Earthで現地をデスクトップロケハンです。太陽の沈む方向を考えると、堤防がフレームに入りますが、露出を考えると問題なさそうです。おすすめなのが、フレームに収まる景色、つまりレンズを向ける方向からだけでなく反対側からも見ておくとよいと思います。またアングルを変えたり、色々とです。反対方向から見るというのはゴルフのパッティングみたいで面白いでしょう? せっかくのツールですから、自分の足では難しいことをやっておくのがオススメです。実際フレームの構想にも幅が出ることがあります。

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映像で見たものが頭に強く残っていて、それに影響を受けて撮ることも勿論あります。ただ映像の世界は秒間24フレームで流れているものを、見る人の脳裏で画として描くわけですから、これを写真に置き換える必要があるかもしれません。というのも、上の写真のように人物を何処に置くかというのは、単一フレームの写真の場合、アスペクト比や背景との位置関係である程度決まってくるのですが、映像のように写真を撮るならば導線を意識します。これが面白いのです。写真的な定石からはどうしても少し外れたところに置くことになりますが、これで動きが感じられると撮っていて面白いのです。本来動いている物事を写し止めるわけで、あらゆる意味の導線を考えるというのは、ひとつ違ったアプローチができて楽しいかなと思います。


写真が自己の風景ならば、ロケーションに立ちたい。

いま私たちはとにかく情報を浴びています。それこそキーワードを打ち込めば様々な写真も出てきます。しかしそれらは何かしら切り出されたものであって、その現場の全体像ではありません。その現場に立ったときに、今度は自分が何かしら切り出すわけです。だとすれば私はその現場・ロケーションに立ちたいと思います。そんなわけで何かを探して相変わらずウロチョロします。カメラにはそもそも「Finder」というものがあります。何を探すんでしょうね。なかなか洒落た名前です。

( 2020.07.28 )

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A3ぐらいがオススメです。

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思う存分書き殴ってください。

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地図を自分で書くとなると、このあたりの本を読むのも面白いかも。

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果てしないウロチョロのためには、電動アシスト付き自転車が最高です。正直歩くのが写真には一番だと思いますが大変なので。MTB型で電動アシスト付きというのがミソです。脚が売り切れず、道を選ばずで、ウロチョロ半永久機関認定。

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