オリンパスさんと言えば「アートフィルター」といったイメージが強いのですが、確かフォーサーズのE-30という機種に最初に搭載されて、私も「どれどれ・・・」と物珍しさも手伝って実際に購入して使ってみました。アートフィルターの搭載の経緯について少し伺いたいのですが。

「それがまあ、企画サイドでも、こんな機能を入れて大丈夫なのか!?というところから始まって、開発の方もちょっと疑心暗鬼だったのです。またあそこに居ますけど(同席されていた営業ご担当者)こんなのがどうして売れるんだと。最初はコンセンサスが取れていたわけではないのです(笑)社内ですらこんな状況ですから、社外、たとえば雑誌社の方々にも邪道だといったようなことも随分書かれました。しかし私としては実体験として、女性をはじめとする方々がこんな写真を撮りたかったと。まずは楽しさを感じていただいて、そしてその次のステップで露出やホワイトバランスといった撮影のスキルを身につけていっていただければよいなと。そんなモチベーションのきっかけをアートフィルターで作りたかったのですね」

「しかしE-30の後に、E-620というカメラが出まして、この頃にはアートフィルターもかなり受け入れられたと感じています。それからはむしろプロの方々にも積極的に使っていただけるようになりまして(笑)PENシリーズが登場してから、アートフィルターはPENシリーズと共に登場したようなイメージが強いのですが、それはPENシリーズが持つコンセプトとアートフィルターが合致したのが大きいのではないかと思います」

なるほど。デジタルカメラや画像処理に慣れ親しんだユーザやプロの方々は「こんなの後処理でいくらでもできる」と言うと思うのです。実際に当時私も同じようなことを思いました。要するに言葉は悪いですが「子供だまし」的な印象です。しかしこれが使ってみると実に面白い。何が面白いかと言えば、ライブビューでフィルターの掛かり具合を見ながらフレーミングするわけです。とすると、そのアートフィルターの”モード”になってフレーミングするわけですね。逆に選択しているアートフィルターにマッチする光景を思わず探してしまうぐらいに。同じような印象をもった方は多かったのではないかと思いますし、このあたりも支持された理由の一つではないでしょうか。

「当時印象的だったのですが、いまはドラマチックトーンなど、ちょっと雰囲気をガラリと変えてしまうものが人気があったりするのですが、当時ライトトーンというアートフィルターをプロの皆さんから高い評価を頂きまして。一般の方からすれば何のフィルターか想像しづらいですよね(笑)プロの皆さん曰く、シャドーが潰れにくく、白飛びするところが抑えられると」

「あともう一つは、ファンタジックフォーカスというのがあるのですが、通常ですとレタッチソフトなんかでソフトフォーカスの後処理を行うと、芯まで消えてしまいがちなのですね。ファンタジックフォーカスは、芯を残したまま、いわゆる柔らかい表現をしてくれます。これを何度後処理でチャレンジしても同じものができないなんてお話を頂きました(笑)実は、アートフィルターをスタートさせるときに100種類のバリエーションを考えてみたのです。その中で、いま実現できる6種類に絞り込んだのですが、それも後処理で簡単に実現できてしまうようなものは採用しなかったのです。作るなら奥深さを追求しようと。ラフモノクロームなら、あの均一的な処理ではない粒子感を、ポップアートなら色的に破綻しないポップさを。これを相当練り込みました。このあたりもプロの皆さんに楽しんで使っていただけるようになった理由の一つかもしれません。実際に、フイルムで色が違ったけど、アレみたいなもんだよね、なんてご意見をいただきました」

レンズを通した光景をライブビューでフィルターの掛かった画として実際に見せるというのは、かなり技術的なハードルが高いように思うのですが、このあたりのお話を伺えますか?

「その通りですね。アートフィルターをかけてリアルタイムで見せるということは、処理時間のスピードをかなり上げなければなりません。現実問題として、トイフォトというアートフィルターは周辺光量を落とした画が特長なのですが、あの処理は結構時間がかかるのです。最初は秒2コマぐらいでしたから(笑)全てのアートフィルターをライブビューでリアルタイムに表示できるように、そしてそのままムービーを撮ることもできるように。このあたりエンジン(画像処理)のテクノロジーが究極レベルまでに上がってきているからこそ実現できたのです」

アートフィルターをかけたムービーの中には、コマ落ちするものもありますよね。あれはかえって面白いと個人的には思うのですが、このあたりは技術的な話もあるでしょうし、思惑的な話もあると思うのです。このあたりのお話を伺いたいのですが。

「そのとおり、両方ですね(笑)先ほどお話ししたとおり、最初のうちは処理速度が追いついていないこともあって、せっかくハイビジョンムービーをうたっているのに、こんなにコマ落ちしていいものかと。ジオラマやトイフォトなどですね。そうそう、トイフォトの時ですが、開発メンバーがこれはダメですよねとコマ落ちした状態で持ってきたのですね。どうしてダメなの?と聞いたら、いや〜ムービー撮って見たもののコマ落ちがひどいと。しかし見たらおっしゃるとおり面白いんですよね。これは少し遊び心でこのまま使っちゃえと。PENの場合、これまでのカメラと少しコンセプトが違ったため、新しい実験が色々できたというのも非常に大きかったですね。で、一旦こんな感じで認めてしまうと・・・」

-- 開発メンバーの皆さんもモチベーションが上がって??

「そうですね(笑)壁が取り払われて比較的、それぞれ自分が撮りたい作風などがドンドン持ち込まれるようになったのです。私が想像している以上に、ドンドン様々なアイデアがPENに持ち込まれるようになったのです」

-- なるほど、PENというカメラのリリースはいろんな意味で社内的にも刺激になったということですね。

「少し話はそれてしまいますが、ライブガイドというものがあります。あれは女性デザイナーが考案したのですが、やっぱり一眼レフは難しいと。露出やホワイトバランスといった言葉そのものがわからないと。たとえば明るい・暗いや、色味は深い・冷たいといったのは分かる。ライブガイドというものを作ったきっかけはこのあたりにあります。アートフィルターなどで、もっと自由な発想でカメラ作りをしようという風土みたいなものができあがって、ライブガイドみたいなものも呼び込んだんですね。ですから、このところの開発は開発者がドンドン自由な発想で考えてくれる。これはすごく良い取り組みになってきてます」