—やった、釣れた。

はじめてフライにかかってくれたのは、20cmくらいのニジマスだった。正直にいえば釣り上げたときにはこれがニジマスなのかどうかもよくわかっていなかったのだが、兎にも角にも写真を一枚撮った。これからどれだけの魚を釣り上げようとも、はじめての一匹はこの一匹。ほんとうに釣れるのか半信半疑だったところに、不意に魚が食いつき、夢中になってラインを引いたことを覚えている。管理釣り場であっても、嬉しいものは嬉しい。最初だからこそ味わえたこの感動を、いつも忘れないようにしたい。

 

毎日を都市で過ごしていることもあるだろうか。休みの日は海や山に足をはこび、自然のなかに身を置くことが多くなった。川の流れや木々の葉擦れの音、鳥のさえずりも蛙の声も、耳に心地のよいBGMである。テントを張って食事の準備をして、仲間と賑やかに過ごすのも、ひとりで読書を楽しむのもよい。焚き火に薪をくべて、ゆらめく炎を眺めているだけで夜は更けてゆく。

アウトドア遊びを重ねれば、釣りに興味が湧くことも必然であったかもしれない。清涼な水が流れる川を眺めながら、こんなにも美しい場所をフィールドとする渓流釣りは、どんなに楽しい行為だろうと想像した。渓流釣りといえばフライ・フィッシング。どうやってはじめたらいいのか、何も知らない世界である。

 

やりたいことが見つかったら、次は調べることだ。今の時代インターネットをたどれば情報はいくらでも見つかるけれど、何冊か本を読んでしまうのが結果的には早い。まずは全体的な知識が得られそうな入門書と、エッセイの類、そして月刊誌を一冊ずつ取り寄せる。コーヒーを飲みながら、新しい知識を得ていくのはとても楽しい時間である。「やらなければいけないこと」はちっとも頭に入ってこないのに、「やりたいこと」なら染みこむように吸収していくのだから、人というのはつくづく現金なものだ。

 

そういえばフライ・フィッシングが描かれた映画があったと、ビデオの棚をさぐった。若々しいブラッド・ピットが魅力的な演技を見せてくれる、ロバート・レッドフォード監督作品「A River Runs Through It」である。もう20年以上前の映画だから、若い人にはあまり知られていないかもしれない。改めて観てみると、しみじみ良い作品であるし、美しい光景にも心が奪われてしまう。あのような川で、釣りをしてみたい。

 

早速手に入れたロッドとリール。初心者向けの製品から、携帯しやすい6ピース/7.5フィート/#4のロッドを選んだ。ゴルフをはじめたときも、初心者向けのフェアウェイウッドにずいぶん助けられたことを覚えている。腕の伴わないうちは自分がビギナーであることを自覚して、先達のことばに素直に耳を傾けるのが肝要というものだ。

だが、腕前には関係のなさそうなリールには少し奮発してもよいだろう。選んだのは英国の老舗メーカーであるハーディ、定番といわれるフェザーウェイト。何十年も存在し続ける製品というのは、必ずそれだけの価値を持っている。若いうちは他人と違うものを持ちたかったけれど、今は皆が選んできたものを手にしてみたいと思う。奇をてらう必要はどこにもない。

 

はじめてのフライ・フィッシングは、予想通りというべきか、釣りどころではなかった。糸を何度も結び、キャスティングに慣れることで精一杯。おかしなキャスティングをして糸を絡めてしまい、ほどくことに時間が過ぎていく。うまく結べていないために、フライがどこかに飛んでいってしまうこともあった。

春までは禁漁期なので、釣りが楽しめるのは管理釣り場ということになる。都心から少し離れれば、清らかな流れの中に魚が放流された美しいフィールドがあるものだ。このような場所で過ごす1日は、それだけでも心地のよい時間である。趣味であり遊びであるのだから、あまり根を詰めることなく、重層的に楽しみを味わいたい。目的地までのドライブ、その土地の水で淹れるコーヒー。写真撮影もまた、そんな楽しみのひとつである。

 

要領をつかむと、ニジマスは元気に食いついてくれるようになった。自分には魚の姿が見えない川の流れでも、うまくフライを流せばすぐに反応が現れる。川にフライを落としてみると、フライ・フィッシングの仕組みが少しだけ理解できてきたように思う。軽いフライを目的の場所に運ぶために重みのあるフライラインがあり、ふわりと着水させるためにリーダーとティペットがある。流れには緩い部分も速い部分もあるから、水面に伸びたフライラインが無造作にフライを引っ張ってしまうこともある。どこに、どのようにフライを流すのか。キャスティングの技術向上なくしては、思うように魚を誘うことはできない。

 

キャッチ&リリースが基本であるけれど、一匹塩焼きでいただこうと思ってキープする。処理は慣れてしまうと簡単で、お腹を裂いて顎を切り、エラや胸ビレと一緒にワタを取り出してしまえばよい。身の中に残った血合いをこそぎ落とせば、綺麗な身だけが残る。あとは口から竹串を通し、塩を振って焼くばかり。ぬめりを取るとか取らないとか、ワタも取らないほうが旨いとか、色々と好みはあるようだ。直前まで生きていた命、ぜひとも美味しくいただかなければなるまい。

 

炭火でじっくり、焼き上がるのを待つ。ついでに米も炊いて、ちょっと豪華な昼食である。外で食べるごはんがいかに旨いかを、あえてここで語る必要はないだろう。清々しい空気のなか水の流れる音を聞きながら、自分で釣った魚を食べる。フライ・フィッシングをはじめたから、経験できたことだ。

春になれば、自然の渓流に踏み入れることが可能になる。いつか、そこで魚を釣り上げることができるだろうか。これまで素通りしてきた道の向こうに釣り人たちが心躍らせるポイントがあるのだと思うと、世界はほんとうに広く奥が深い。川の流れの中に入って、そこに住む魚たちに出会える日を夢みながら、少しずつ経験を重ねていきたいと思う。まだフライ・フィッシングという趣味の入口に立ったばかりなのだから。

 

SIGMA dp1 Quattroが釣行に向いたカメラかと言われれば、それはなんとも言えない。しかしその写りの凄さはご覧の通りであって、とにかくこれで撮っておきたいと思わせる魅力がある。特に水をまとった被写体の表現に関しては、他に類を見ない出来である。そのリアリティある描写を眺めれば、釣り上げたときの興奮がふたたび蘇ってくるというものだ。

純粋なレビューではないので、今回の写真はトリミングして使ったものもある。切り抜けば画素数は少なくなってしまうが、物足りなさを感じることはなかった。単焦点レンズだからと画角に縛られることなく、好きに切り抜いてしまえばよいと思う。切り抜きをしないのならばdp2がオールラウンダーだが、切り抜きを視野に入れてしまえばdp1の使い勝手は抜群である。町を離れて出会える雄大な風景には、広角レンズがきっと必要だ。

カメラとしても大変こなれてきた印象で、あまり難しく考えず丁寧にシャッターを切るだけでよいと思う。家に帰ってRAWを一枚一枚現像していくプロセスは、ちょうどフイルムをスキャンする過程に似ている。楽しんだ一日を振り返りながら、ウィスキー片手に一枚一枚を仕上げていく。そんな楽しみ方はいかがだろうか。(写真/文:48)

( 2014.11.26 )




Loading..

Loading..

入門書は色々とあって、正直どれがよいのかはわからない。そこはかとなく漂う古風な雰囲気に惹かれて手にしてみると、案の定最近になって復刊した古典だったようだ。カラー写真も多く、道具・フライ・タイイング・キャスティングと、全体的な知識を得られると思う。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

英国の政治家であり鳥類学者であったエドワード・グレイによる名著。100年という時間が過ぎても、魚釣りの本質や喜びは変わっていないことに気づかされる。19世紀末の英国の川の流れに想いを馳せながら、ゆっくりとページを進めたい。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

1世紀ほど前のアメリカを舞台にしたお話で、道具や服装から当時のフィッシングスタイルに注目してみるのも面白い。フライ・フィッシングは映画の基調音であって、描かれるのは家族の物語。秋の夜長にぴったりの、上質な映画である。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

気兼ねなく使える折りたたみナイフで、マスのお腹を割くくらいであればちょうどよい品物。きちんと研ぎ上げるとなかなかの切れ味になるので、新品にも一手間かけて使ってほしい。メンテナンスはステンレススチール製が楽で、手入れできる方ならカーボンスチール製をおすすめする。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

はじめての1本に選んだのがこちら。携帯性もよく、赤いロッドが気に入っている。性能の良し悪しを語れるほどの経験はないので、道具選びはご自身でどうぞ。それが楽しいのですから。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

肌寒くなってきた季節、バーナーなどでお湯を沸かして飲むコーヒーやカップスープは最高のぜいたく。チタンで軽く、携帯しやすいカップが便利です。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

鞄に入れるのに少々困るサイズであるが、ぶら下げている分には軽くて負担を感じない。使うほどにその描写に唸らせられ、今ではすっかりお気に入りの一台になってしまった。これからもフィールドにガンガン連れだそうと思っている。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..

Loading..

Loading..

カメラをぶら下げたまま釣りをしてしまうような使い方では、保護の観点からもレンズフードを使いたい。ただし一層大きくなることと、落ちやすいことが難点か。高いものではないのでスペアを用意しておいても良いと思う。

価格:Loading..(税込)

Loading..Loading..)

定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..

Loading..