PHOTO YODOBASHI

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F3も40歳

ところで、今年はニコンF3の発売40周年です。僕がニコンに入社して初めて担当したカメラ。あれからもう40年の月日が過ぎ去ったと思うと、感慨深いものがあります。初版カタログを見ると「新発売 1980・2・15」とあります。これはどんな商品でも一緒でしょうが、新製品の発売直前の混乱っぷりといったらありません。すべての準備を整え、心静かにじっとその時を待つ、なんて夢のまた夢。まさに40年前のちょうど今頃、僕はおもちゃ箱をひっくり返したような大騒ぎの真っ只中にいたのです。

試作を繰り返した期間は数年間にわたりますが、ユニットシャッター、巻き上げ機構、巻き上げレバーと同軸のシャッターボタンなど、基本となる操作系・駆動系は試作から量産までほぼ不変だったため、入念な評価が繰り返され、結果、古今東西で最高の耐久性を得ました。

その一方で振り回されたのはわれわれ電気屋です。当初の設計ではニコマートELを参考にした絞り優先の回路、セルフタイマーはメカというごく単純な構成だったのですが、それが途中からセルフタイマーをLEDに変えろ、液晶表示にしろ、クオーツ駆動を使え・・・などと次々と変更がかかり(過渡期だったことを考えれば無理もありませんが)、おかげで回路規模は拡大の一途。「これ以上変更があったら、発売時期を守れません」と電気系チーフが上層部に談判してくれてようやく変更打ち止めとなったものの、F2より小さいボディへ回路基板を詰め込むのには本当に苦労しました。試作機は手作りですから内部配線は蓬髪状態。あれこれ組み込んでカバーを閉じるたび、髪の毛のように細いリード線を挟み込んでちぎれたりショートしたり、挙句の果てはセラミックの基板が割れたり・・・。そんな試作品の完成期限が迫ったある日、リーダーのSさんと残業して組み上げに奮闘したのを昨日のことのように思い出します。何度やってもセルフタイマーが点滅しない。やっと点滅したかと思えば、今度はシャッターが作動しない。真夜中にようやくシャッターが走り、AEがそれらしく作動した時の感動。思わずSさんと顔を見合わせて深い安堵のため息。試作課の電気を消し、鍵を掛けて帰ったのでした。

F3の初版カタログは白をベースにエンボス加工を施した、エレガントなヤツです。昔から収集癖はあるものの、初めて担当したF3のカタログはあまり大事にせず(もう見るのも嫌だったからでしょう)、いつのまにか引き出しから消えていました。ずっと後になって、あれは惜しいことをしたと後悔していたら、数年前のファンミーティングでさる方から「記念に貰って下さい」と一部いただいて大感謝。発売された後も特注改造や改良を何度もこなし、結局21年間も生産されたF3。苦労した話も、笑える話も段ボール箱のノートにたくさん詰まっていますが・・・続きは機会がありましたら。

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F3初版のカタログ。中央に額縁状のエンボス加工。

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こちらはF2の初版カタログ。改めて見て気づきましたが、F2のカタログもエンボス加工を施してあります(こっちの方が立派?)。そう言えば来年はF2の50周年だ。

みなさんにとって、2020年が大いなる飛躍の年となりますように。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。(510)

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