Hasselblad XCD 3,5-4,5/35-75 ZOOM LENS
Hasselblad Xシステムに初のズームレンズが登場しました。Hasselblad XCD 3,5-4,5/35-75 ZOOM LENSは35mm判換算28mm〜58mm相当の画角をカバーするズームレンズで、中判デジタル撮影の自由度を高めてくれる意欲的な1本です。広角から標準（あるいは中望遠の入り口）域の焦点距離をシームレスに使えるというのが最大のポイントで、限定された撮影環境においても「ちょっと広げて画角に収める」「ちょっと伸ばして切り詰める」といった柔軟な画づくりを可能にしてくれるはず。レンズ交換なく撮影できるメリットを活かして、フィールドで、屋内で、その実力を確かめてみましょう。
( Photography : Z II / Text : Serow )
まずはフィールドへ。望遠・開放で切り取った1枚目とは対象的に、広角・絞りのワンカットです。中判デジタルで撮影するからには妥協のない写りで目の前の光景を切り取ってほしいわけで、しっかりとした描写力が第一の要求。曇り空の下、一面黄色の菜の花というシチュエーションですが、光をきちんと捉えて緻密に描いてくれました。隅々まで破綻のない緻密な描写は流石です。（※本作例は、緊急事態宣言発令前に撮影者の自宅近辺で撮影されたものです）
遠景よりも中距離の被写体の方が大きなフォーマットの魅力が感じられるかもしれません。何気なく見上げた樹木へのワンカット。端正で立体感のある写りが強烈なリアリティを生み、シンプルに感動してしまいました。そう、目で見た光景を持ち帰りたいから私たちはシャッターを切るのですよね。そんなことを改めて思い出させてくれます。
焦点距離を伸ばしてクローズアップ。自然なボケと相まって、視線が自然とピント位置に誘導され、枝葉が浮き上がるようです。レンズとカメラの持つ根本的な性能は、こういった日常的な被写体のほうが分かりやすいのではないでしょうか。ヌケがよく濁りのない写りによって生き生きとした新緑の色合いが鮮やかに表現されました。
改めて画角の幅を確認できるようなカットもご覧いただきましょう。おなじみ東京都庁の足元を歩きながら、ワイド端〜中間〜テレ端を使って切り取っています。焦点距離全域でしっかりとシャープに線を描き、それでいて固くない。これだけ写るのだから使い手は言い訳できません。
屋内でも色々と撮影してみました。こういった撮影になるとズームレンズの便利さが如実に表れてきます。手持ちでも十分に使えるコンパクトなシステムですが、キッチリ撮りたいときには三脚を使う必要があります。単焦点レンズであれば三脚のポジションをちょこちょこと変えなければいけないところも、ズームであれば手軽に微妙な調整ができる。スタジオでこそ活きてくるのが本レンズかもしれません。
最短撮影距離はワイド端で42cm、テレ端で60cm。近接開放で撮影してみれば、センサーの大きな中判デジタルならではの表現力に圧倒されます。身近な被写体が存在感を持って迫ってくる。そんな写真が撮りたくてこのカメラを手にするのですから。
ブツ撮りに取り組むなんていうのはどうでしょう。トーン豊かな描写が、被写体のありのままの姿を写し取ってくれます。商品撮影はもちろん記録としての写真撮影にも安心して使えるクオリティがありますから、環境セッティングにも気合が入ります。真面目なブツ撮りにおすすめできる組み合わせです。
ポートレートを撮るように屋内で被写体と向き合ってみる。外出を控える時期でも、こんな写真の楽しみ方があります。
食べ物の撮影、特にスイーツともなれば、つくり手の思いを受け止めるように真剣に向き合わなければなりません。季節のフルーツが織りなす見事なハーモニーを、まずは視覚で味わうこと。特別なスタジオ機材を使わずともアベイラブルライトでこれだけの仕上がりが得られます。中判ですから寄るには限界があるとはいえ、多様なシーンで活躍できることは間違いありません。
中判デジタルの世界に、さらなる自由を
ハッセルブラッドXシリーズに生まれたズームレンズは、期待通りの描写性能で安心して使うことができ、期待以上の便利さで撮影の幅を広げてくれるものでした。35mm判に慣れた感覚では焦点距離のレンジが少し物足りなく思えてしまうかもしれませんが、中判デジタルで広角から標準域をシームレスに使える自由さは他では得がたいものです。そもそも無闇にシャッターを切るのではなく、1枚1枚とじっくり向き合うのがラージフォーマットのお作法。ブツ撮りであれスナップであれ、Xシリーズを手にして写真を撮ろうとするならばそこには明確な意図があるはずです。クオリティを求め単焦点レンズを何本も持ちあるく諸兄にこそ、本ズームレンズを手にしていただきたいと思います。ズームレンズは画質を犠牲にするものではなく、撮影者に自由を与えてくれるものなのですから。
( 2020.06.05 )
